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『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました  作者: 駆威 命(元駆逐ライフ)【書籍化】妹がいじめられて~発売中
第三章 世界を結ぶ、歌がある

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第51話 ガイザル帝国 皇帝陛下の……あれ?

 私達がアルザルド王国を出立してから一年と六カ月の月日が流れた。


 私は18歳になり、少しだけ大人になった。


 身長とか色々変わらないけどっ。変わらないけどっ!


 どうなってんのよっ! エマはさらに特定の部分が大きくなるし! なんか美人になってやけに迫られてもう傾国の美女かよって感じになっちゃうし!


 グラジオスはなんか色んなお姫様に惚れられたり妻として娘を~なんて言われちゃうし!


 ハイネはなんか庶民派とかで男女問わず人気だし?


 もちろん色々と話来てるみたいだし?


 私なんて……ちょーお年寄りのおじいちゃんか子ども。中には赤ちゃんを婚約者に~とか言われたの!


 なんで!? なんで超上か超下なの!?


 間は居ないの!? 間がいいの!


 お願い! 絶対同年齢がいいとか言わないから、せめて離れてる年齢5つ以内にして!!


 ………………うん、とにかくいろんなことがあったのだ。


 そして私たちは念願の帝国に到着し……。


「わぁぁ~凄いね、ルドルフ」


「はい、陛下。さすがは歌姫と称賛されるだけはありますね」


 皇帝陛下が開かれたサロンにて、御前演奏をさせていただいていた。


 ただ気がかりなのは……私の正面に座ってらっしゃる皇帝陛下が子どもにしか見えない事だ。


 こう、抱きしめたらすっごくいい匂いのしそうな金髪でめっちゃくちゃ美形のおとこのこ。


 男の子じゃなくて、おとこのこ。これ大事。ショタっぽいよね。


 グラジオスに説明された時にはお爺さんだと聞いていたのに。


「先帝は半年以上前にお亡くなりになったそうです」


 私の後方でハープを奏でていたエマがこっそり耳打ちしてくれる。


 エマの更に奥でドラムを叩いていたハイネや、ベース代わりのヴィオローネ(コントラバスの前身)を弾いていたグラジオスは表情一つ変えていないところを見ると、知らなかったのは私だけらしい。


 うん、練習とかどんな歌にするかとか衣裳とか教えてって言って来た楽士の人に教えるのとかで大変だったから気にする余裕なかったんだよね。


 私はありがとうと心の中で言いながら、エマに片目をつぶって合図を送った。


「楽しんでいただけましたでしょうか……」


 え~っと、という事は第一皇位継承者の方がそのまま繰り上がったという事で……だめだ、名前分かんないや。陛下で濁しとこ。


「陛下」


「うんっ。すっごいね、ボクこんなの聴いたの初めてっ」


 名前の分からない子ども皇帝は、目を輝かせて感想を言ってくれる。


 ごめんねっ、私貴方の名前も知らないのっ。


 ううぅぅ~……罪悪感が半端ないよぉ~。


「歌の歌詞とかも聞いてて面白いし、音楽もば~んっとかが~んって感じで。それから踊りもくるくる~って。そうだ、あの前に歩いてるのに後ろに進んじゃうのどうやったの!?」


 良かった。喜んでくださったみたいで。お歳の方だと思ってたから静かめの曲を選んでたんだけど、急遽激しい曲入れて正解だったかな。


「あ、あの後ろに進むのは私も感覚でやっていまして……その……」


「そういえば、いつもはもっと激しい歌も演奏されると聞いたけれど?」


 私が困っているのを見かねたのか、ルドルフさまが助け舟を出してくれる。


 私はこっそり額の汗を拭きながら、それに乗っかる事にした。


「あ、それは劇場などでは声を張り上げる必要があるのでそういう系統の曲を演奏させていただいているんです。この部屋であれを歌うと、とんでもなくやかましくなっちゃうので……」


「へー、どんな曲なの? やってみせてよ」


「あ、あの~ですから……」


 めっちゃうるさいのよ? ちょっとこの世界の人からすると、常識はずれなくらい。


 私、声で人の鼓膜破る自信あるからね?


「雲母、大丈夫だよ。いざとなったら僕が陛下の耳をお守りするから」


 うぅ~、そこまで言われたらしょうがない。国際問題になってもいいや。


「分かりました。やります」


 私は決心して頷くと、皆に指示を出し始めた。仲間たちは各々の獲物を構える。


 当然、それ用に作られた音の馬鹿でかい楽器類で、それをこの様な小さい部屋で響かせるとなると……本当に鼓膜が破れない事を祈るばかりだ。


「それじゃあ、覚悟してくださいね」


 そう前置きをして――演奏が始った。


――不可逆のリプレイス――


 その爆発的な音の波は、演奏、というよりは最早侵略に近い。


 音の波が部屋全体を震わせる。お付きのメイドは音の暴力に耐えきれずに思わず耳を塞いでしまった。


 まだまだ曲は始まったばかりだ。


 まだ、全力じゃない。私はお腹から声を出していない。


 皇帝陛下もまだ余裕の笑みで何か言っている。きっと、凄い音だと感心して無邪気に喜んでいるに違いない。


 こんな音の暴力の様な歌と音楽に晒されるのは初めてに違いないから。


 サビに入る一瞬、全ての音が突然止む。


 当然終わったんじゃない。


 嵐の前の静けさであるように、さらなる爆発をするために、力をため込んでいるだけ。


 さあ、これが……ロックだよ!


「ひゃぁっ!!」


 私の声が、グラジオスのヴァイオリンとエマのギター、そしてハイネのドラムが生み出す音楽が、束になって皇帝陛下に襲い掛かった。


 もはや音は物理的な力となって皇帝陛下を揺さぶる。体と、魂を。


 私達の歌は、そうして皇帝陛下を徹底的に蹂躙しつくした。


 歌が終わって我に返った私は、慌てて皇帝陛下及び聴衆になっていた人たちを確認する。


 耳を塞いでいる人も居るが、おおむね圧倒されている人の方が多い。


 顔を引きつらせている貴族様も居るけど。


「いや、凄いねこれは。想像以上だ」


 ルドルフさまは、苦笑しながらそう言ってくれるのだが、私達の口撃を真正面から受けてしまった影響か、若干声を張り上げている。


「おっきぃぃぃ~っ」


 皇帝陛下も同じ感じだが、こちらは無邪気によろこんでいるだけだ。とりあえず鼓膜が破れなかったのは良かったかな。


「まさかあんなに大きな音なのに、きちんと音楽になってるなんて驚きだよ」


「あはは……光栄です」


 前はこうやって声を張り上げたら喉をダメにしていた。でも今は平気へっちゃらでまだ歌える感じだ。


 一年半も歌いまくれば色々成長するんだなぁ。


 仲間の方を振り向いて次が行けるかどうかの確認を取ってみる。全員まだ体力は残っている様で、腕を掲げて大丈夫だと伝えてくれた。


「次はどんな歌に致しましょうか? さすがにあれだけ激しい歌の連続は不可能ですが」


「え~っと。それじゃあねえ、それじゃあね~……」


 皇帝陛下は唇に指を当てるという愛らしいしぐさをしながら思案していたのだが、


「陛下、そろそろパーティー開始のお時間が」


 ルドルフさまがそれを止める。


 私も言われて部屋中央に設置されている大きな振り子時計に視線を向けると、確かに予定の時間をやや過ぎ去ってしまっている事が確認できた。


「えーっ。まだ聞きたいよぉ」


「陛下。演奏は明日またしてくれますよ」


 皇帝陛下はルドルフさまの説得に、ぷくっと頬を膨らませて不満を顕わにする。


 ……なにこの可愛い子。私鼻血出そうなんだけど。


 しかも相方がこの世のものとは思えないほど超絶美形のルドルフさまでしょ。


 事実は小説よりも寄なりって言うけどさ。ちょっともう、たまんない。


「ねえ、そなたは明日も演奏してくれるのか?」


「は、はい。劇場で、ですが」


 明日は帝都一大きい劇場を借りて演奏を行える予定になっている。


 アッカマンが儲けるためにとウキウキと垂れ幕を準備しながら話していたのを覚えているので間違いない。


「むう……」


 私の答えを聞いた皇帝陛下は、しばらく腕組みをして考え込んでいたが、しぶしぶといった感じで諦める。


「そうだな。ルドルフの言うとおりだ。我慢しよう」


「さすがは陛下です」


 私もそう思う。


 権力を握った人間って、際限なく暴走しちゃって自制なんか利かなくなっちゃうのが普通なのに。


 グラジオスのお父さんなんかがいい例だ。


「そなた、約束だぞ?」


 一応心配だったのか、皇帝陛下は私に対して念を押してくる。


 もちろん私の返事は一択だ。


「はい、もちろんです」


 こんなに望まれるならどこへでも行って歌いたくなってしまう。


 私の回答に安心したのか、皇帝陛下はニコッと年相応の無邪気な笑みを浮かべた。


「ではルドルフ、行こうか。客を待たせてもいかんしな」


「はい」


 皇帝陛下は頭を下げる私や貴族たちに見送られるようにして部屋を出て行く。


 完全に皇帝陛下の後姿が見えなくなると、部屋に弛緩した空気が漂う。


 何人かの貴族はパーティーに参加するのか忙しそうに退室していった。


「グラジオス、私達も?」


「そうだ」


 どうやらパーティーに参加しなければならないらしい。


 私はちょっとだけ憂鬱になりながら、楽器の片づけを始めるのだった。



読んでくださってありがとうございます

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