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『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました  作者: 駆威 命(元駆逐ライフ)【書籍化】妹がいじめられて~発売中
第二章 歌姫って言われちゃいました!?

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第42話 やるべきこと、やりたいこと

 兎にも角にも私達の演奏は大成功に終わった。


 鳴りやまない歓声の中、私達はアッカマン商会の人たちに守られて商館に帰ってきており、ハイネとエマは休憩室で楽器の調整をしながら一息つき、私とグラジオスはピーターを連れて再び応接間にやってきていた。


 以前と違う事は、私達がアッカマンを待っている事だろうか。


 今後の人生がかかっているピーターは、真っ青な顔をしながら奥にあるドアの様子を伺っている。


 一方、私とグラジオスは平然としたものだった。


 何故ならアッカマンの出す結論に絶対の自信があったからだ。


「ピーター、君の身元の確認が取れた。君は、王都近くの農村出身だな」


 グラジオスが私を挟んで反対側に座っているピーターへ確認の言葉を投げかける。


「は、はい、そうです。ぼ、僕は嘘ついたりなんかしません」


「そして……」


 グラジオスが、何故かその先の言葉を若干言いよどむ。唇を軽く噛み、まるで自分の責任だとでもいうかのように悔しそうにしている。


「君の父親は、先の戦争で徴兵され亡くなられた」


「はい」


「わずかばかりの見舞金を貰っても生活はできない。一家全員が共倒れになる前に、君は家を出た。合っているか?」


「……はい」


 きっと今、グラジオスは悔やみ、自分を責めているに違いなかった。


 彼らを犠牲にして自分だけがおめおめと生き残ってしまった事を。


 戦争だから仕方がない、なんていう言い訳で拭い去れるほど罪悪感は甘くない。どれだけ逃げてもずっとグラジオスを苛み、苦しめ続けるだろう。


 だからグラジオスは、


「すまない。俺が無能だったからだ。許してほしい」


 頭を下げた。


 身分も低く、歳も離れた子供に対して躊躇もなく。


 当然、ピーターはあまりの事に色を失い慌てふためいた。


「で、殿下。殿下ともあろうお方が、僕なんかの為に……。そ、そんな事を……」


 ピーターはどうするべきか分からず、私に視線で助けを求める。


「グラジオス、頭上げたら? ピーターを困らせる事が目的じゃないでしょ」


「……しかしだな」


「はい上げる~」


 私はグラジオスの額に手を当ててグラジオスの上体を持ち上げる。


 自分に下がっていた頭が無くなったことで、ピーターはようやく落ち着きを取り戻すと安心したようにため息を吐いた。


「心臓が、止まるかと思いました……」


 紹介状如何から来る緊張と、グラジオスからのプレッシャーでピーターのノミのような心臓は本当に止まるかもしれない。なんて事を私は思ってしまう。


「とにかく今後、君の家族に対する何らかの援助は考えておく。君以外にもこういう家族は大勢居るんだろう?」


「……そう、です。自分で家を出た僕は、まだマシな方、だと思います」


 この世界にも奴隷に相当する身分の者は居る。そこまでいかなくとも身売りをしたり、町で体を売る事になるような者も居たに違いない。


「分かった。このことは俺が責任を持って預かろう」


 そう言ったグラジオスの顔は、今までで一番王子様な顔をしていて、私は少し……本当に少しだけ……。


「雲母」


「はっ、なっ、何っ!?」


 私はグラジオスに名前を呼ばれ、我に返った。


 顔が赤くなっているかもしれないので、汗を拭くふりをして頬をごしごしとこすっておく。


 そんな私の態度など、どこ吹く風と言わんばかりにグラジオスは私に対して、


「……ありがとう」


 頭こそ下げなかったものの、感謝の言葉を口にする。


「あっあっあっ……」


 今度こそ顔に血が上っていくのを自覚した私は、顔を手で隠しながらズリズリとソファに座ったまま後退る。


「なっ、なんで私にお礼言うのよっ!」


「雲母のお陰で、俺のやるべきことが見つかった気がするからだ」


 そう言うと、グラジオスは再びらしくない笑顔を見せる。


 それがむず痒くて、意味が分からなくて、私はもうどうしていいか分からなくなってしまった。


 そこへ――。


「失礼、お待たせしました」


 ドアを勢いよく開けて、アッカマンが駆け込んでくる。


 暑くもないというのに、彼の頬には幾筋もの汗が伝っていた。


 相当に忙しくしている様に見える。


「こここ、こんにちはアッカマンさんよろしくお願いします!!」


 私はこれ幸いとばかりにグラジオスとの会話を打ち切り、アッカマンとの話し合いを始めた。


「え~、ピーター君の紹介状でしたな」


「はい。貴方が儲けられれば書いて下さるという約束でしたね」


 ピーターが固唾を飲んでアッカマンの言葉を待っている。


 それを横目で確認した後、私は結果を聞いた。


「いかがですか? 紹介状は書いてくださいますか?」


 アッカマンはゆっくり息を吸い込むと、大きく頷く。


「もちろんです。喜んで書かせていただきます。ご要望でしたら、この先も何枚でも書きましょう」


「やっ…………!」


 ピーターの顔が、一瞬でいつもの色を取り戻し、更に赤みがかって行く。


 握り締められた手は喜びで震え、本当ならば躍り上がって喜びたいであろうに歯を食いしばって沸き上がる興奮を抑えていた。


 私はピーターに小声で良かったね、と囁いた後に、アッカマンへと向き直る。


「そんなに乱発はアレなんで、ある程度の実力があってやる気もある人を見つけた時に、商会が責任を持って弟子入りを助けてあげてください」


「俺からもよろしく頼む。本来は国がやらなければならない役目だろうが、どうしても手が足りないのだ。

貴公がそれをしてくれるのならば、非常にありがたい」


「もちろんです。優秀で真面目な弟子ならば、職人は喉から手が出るほど欲しいですからね」


 アッカマンほど責任ある人物ならば、安請け合いをしておいて実行しないなどという事はないだろう。


 それはグラジオスの望みも叶えられたということで……。


 ちょっと、嬉しい、かな。……あれ、なんでグラジオスの望みが叶うと嬉しいんだろ、私。


 ピーターを助けたいと最初に言ったのは私だし、私はピーターを助けるために動いていたはずだから、私が嬉しいはずなのに……。


「あ、あのっ。ところでどのくらい儲かったんですか?」


 私は変なハマり方をしてしまった思考を正すためにも、無理やり話題を変えた。


「そう、ですね。金額的には大儲け、というほどでもございませんが……。詳しくご説明いたしましょうか」


 アッカマンの説明によれば、衣服というのはたいてい新品ならば一日二、三着。古着でも二十枚も売れればいい方なのだという。


 今回は私達の仕掛けに合わせて、私達四人それぞれの服と同じデザインで色違いの物を二十五着四種類ずつで、それぞれのモデルにつき百着、総数四百着を準備したのだという。


 しかも針子を急がせたため、多少割高になってしまっていた。


「それがいったいどのくらいの時間で、どれだけ売れたと思いますか?」


「……ライブが終わってから一時間は経ってますから、半分くらいですか?」


 アッカマンはゆっくり首を振ると、満面の笑みを浮かべながら両手をガバッと広げてみせる。


 今までの言動からすると冷静沈着なアッカマンにしては珍しい行動だ。それほど興奮しているのだろう。


「たった十分で完売ですよ! しかも、商会の印が付いている店に人が押し寄せ、そちらも完売店続出です。信じられない!」


 私とグラジオスは顔を見合わせると、おーっと声を上げながらチパチパ手を叩く。


「しかもあの服が欲しい、身に着けたのと同じ装飾品が欲しいと問い合わせが殺到する始末。こんなのは商会が始まって以来の出来事ですよ。おかげさまで発注に大わらわでして……」


 なるほど、だからここに来るときに走って来たわけだ。


 大急ぎで職人への手配、材料の確保等に走り回ったに違いない。


 一過性のバブルとはいえアッカマン商会の株はうなぎのぼりだろう。


「良かったです。ご協力が出来て」


 これで一切貸し借り無しでピーターのような子達の事を任せられるというものだ。


 私はグラジオスと頷き合ってからソファを立ち上がる。


「ありがとうございました、アッカマンさん。私達はこれで失礼させて……」


「待って待って待ってください! 私から話がありますからっ!!」


 私の言葉を遮りながらアッカマンは立ち上がると、通せんぼするかのようにドアの方へぐるりと回り込み、そのまま座ってくれという風に何度もジェスチャーをして来る。


「……?」


「さぁ」


 そんなアッカマンの言葉すら思いつかないほどの慌てぶりに、私達は疑問符を浮かべながらとりあえず言われた通りソファに座り直した。


「……ありがとうございます」


 アッカマンは額の汗を拭うと、自分も椅子に座り直した。


 そして真剣な、商人の顔付きに戻る。


「まずは歌姫様。貴女の力を見くびっておりました事、謝罪させてください。申し訳ありませんでした」


「あ、はい……」


 深々と頭を下げるアッカマンだったが、正直私は仕方ないと思っていた。


 だって、この世界の音楽は貴族の趣味の範囲を出ないし、娯楽の一つでしかない。


 商売に歌を使って広告しようだなんて発想は未だに存在していなかったのだから。


「それで歌姫様。私は、いいえ我が商会は、全力で歌姫様とその楽団を支援することに決めました」


「はい?」


「今後、いかなる場所へ向かう場合にも、全ての旅費、演奏を行う場所の確保、衣裳、楽器。必要な物全てをご用意いたします」


「…………」


「その代わり、我々の商品を使っていただきたいのです」


 つまるところ、それはパトロンという枠を超え、スポンサー契約を結びたいということだ。


 あまりの申し出に、私は現実感がさっぱり無くて、どう反応していいのかまったく分からず、ただ無心に近い状態で、アッカマンの顔とグラジオスの顔(同じく私のような表情をしている)を交互に見比べる事しかできないでいた。


「あの……歌姫様? この条件ではお嫌でしたでしょうか?」


「……いえ、そんな事ありません。ただ、その……」


 あまりに嬉しすぎて、感情が追い付いてこなかっただけ。


 私の中にあったものに火が付き、やがてその火は炎となって私の心を包み込んで熱くたぎらせていく。


「グラジオス、ちょっと私の頬をつまんでみて」


「ん? ああ」


「いたたたたっ!!」


 私と同じように呆然としているグラジオスは、手加減なしに私の頬をつねり上げてくれた。


「もういいわよっ! 乙女のほっぺを全力でつねるなんて最低っ!!」


 とりあえずグラジオスの頭を本気ではたいておいて……。


 もう我慢が出来なかった。


「やりますやりますっ!! やった、やった、やったよグラジオス!! ピーターもありがとね!!」


 私はまずグラジオスの肩を抱き寄せると、今度はピーターを抱き寄せる。


 そのままむぎゅっと三人で喜びを分かち合う。私の一方的にだが。


「ほらグラジオス。何ぼさっとしてんのよ。喜びなさいよ。あなたの歌と演奏の腕が認められたのよ!?」


 相変わらず反応の薄いグラジオスの頭を、いわゆるヘッドロックのようにして締め上げる。


「それともなに? さっきやるべきことが見つかった、みたいな事言ってたけど、アンタ歌辞めるの?」


 これにはさすがのグラジオスもムッとしたか、不満そうな表情になると、力づくで私の拘束を引きはがす。


「辞めるわけないだろう! あれは俺が王族としてやらなきゃならない事で、歌は……」


 そして、グラジオスは初めて自分の願いを、


「歌は、俺のやりたいことだ。辞めるはずがない!」


 はっきりと口にした。

読んでくださってありがとうございます

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