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第4話 死者の魂に安らぎを

 私が一人……正確には二人で小屋の中に籠っていると、急に馬のいななきが聞こえてきた。


 間違いない、敵が来たのだ。


 私は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「大丈夫大丈夫。私は旅の芸人……よし」


 とは言っても言葉は通じないんだよね。でもさっきの騎士さんたちには歌が通じたから……何も分からない旅芸人の振りをすれば行けると思う。


 私はずっと寝てましたよ~という体を装うため、ランドセルを枕にして床に寝そべっていた。


 どかどかと大きな足音がして、数人の兵士が入ってくる。


 兵士と判断したのは先ほどの騎士さんたちよりずいぶんと質の低そうな鎧をつけていたからだ。


「な、なんですか~?」


 私は目をこすりながら、今起きました作戦を実行したのだが、


「待って待って待って! ストップ! へるぷみ~!」


 問答無用で槍を突き付けられてしまった。


 いわゆるDieピンチというヤツである。


「お願いお願いだから待って! 助けてぇ~!」


 私は思い切り自慢の声を張り上げて命乞いをした。言葉は通じないけど雰囲気で理解してくれるはず。


 と思ったら、兵士たちがうるさそうに耳を押さえていた。うん、なんか狙ってたことと違うけど、とりあえず時間が稼げたみたいだからいいや。


 よ~し、畳みかけよう。時間さえ稼いでれば、きっとあの騎士さん達が何か騒ぎを起こすだろうし。


「お願いします、助けてください。なんでもはしませんけど!」


 まずは膝をついて惨めったらしく命乞いをしてみる。


 どうせ内容も分かんないだから適当な事をそれらしい感じで言えば効くでしょ。


 それから涙を流して……出ないか。私は女優にはほど遠いらしい。歌ってると簡単に泣けるのになぁ。


 それにしても、やっぱり見た目小学生に見える子どもがこれだけ命乞いしてたら効果は抜群みたい。兵士たちは明らかに動揺して、中には槍を下げる人までいる始末。


 ……って自分で小学生って認めちゃったよ! あーもーいーですよー。どーせ私はこのまま合法ロリ一直線ですよーだ。……誰にあたってるんだろう、私。


 きっと地球のお母さんかな。


 そうして私が命乞いの演技を続けていたら、何かビシッとした声で家の外から命令が聞こえて来た。


 慌てて兵士たちは槍を立てると、入り口から私のところまで道を作るかのように列を為した。


 その兵士による道の真ん中を、優雅に歩いてやって来たのは……。


「…………王子様」


 思わず見惚れてしまうほどカッコイイ人だった。


 まるで一本一本が金で出来ているような繊細で美しい金髪。空の色をそのまま落とし込んだような、サファイアブルーの瞳。薄い桜色の唇に、高く小さな鼻。もう、美の女神がこれでもかってくらい丹精込めて作り上げたんじゃないかと思うほど、美しい男性だった。


 着ている鎧も金や銀で彩られ、とても美しいのだが、いかんせん中身の方が立派過ぎてくすんで見えるほどだ。


 そんな王子様が、私に微笑みかけると、そっと手を差し伸べた。


「……え? いや、あの……な、なんでもないです……」


 急に私は自分のやっていたことが恥ずかしくなって、急いで立ち上がる。


 もちろん王子様の手には触れずに自分の力でだ。なんか、畏れ多い。


 こんなぺたん娘でチビでガリの生まれてきてごめんなさいな私が触っていい存在じゃなさそうなんだもん。


 あ、でも、さっきの壮年の騎……やめよう。それこそ畏れ多い。


 そんな事を考えていたら、王子様が色々と話かけてくれた。しかも、話し方が変わっているので、多分、いくつかの言語を使ってくれているんだと思う。


 ホント凄い。


「えっと、私は歌を歌います」


 って言っても通じないだろうから。適当にら~ら~とか言ってみる。


 王子さまはすぐに分かってくれたみたいで、にこやかに微笑みながら手で外を指し示す。


 えっと、もしかしてこれは外で歌ってほしいってことかな?


「わ、分かりました」


 ちょっと緊張するけど、仕方ない。


 ……歌うとしたら……。やっぱりあれかな。


 ちょっとさっきの事も引きずってるし。死んでも一緒に居られますようにって願いを込めて……。


 私は王子様に導かれるようにして外に出ると、くるりとターンして王子様の方を向き、歌い出した。


――祈り〜You Raise Me Upを。


 この歌は海外で発表された、You Raise Me Upをカバーしたものだ。だからアニソンとは少し違うとか言われそうだけど……。


 使われたのはロミオとジュリエットをテーマにしたアニメで、例え死に分かれても魂は共に居たいという悲恋の物語だ。だから、多分この曲は、あの死んでしまった騎士さんの魂を弔うという意味で、きっとふさわしいんだと思う。


 そんな想いを込めて、私は歌を紡ぎ出していった。


 最初、王子様が少し驚いたような表情をしていたけど……気にしない気にしない。もしかしたら歌ってくれなんてこれっぽちも言ってなかったかもしれない事は気にしちゃだめ。


 それに王子さまは私の歌が進むにつれて、だんだん表情を穏やかなものにしてくれた。一緒にいた兵士たちも、手を止めて呆けている。


 この鎮魂歌で、このひと時でも世界が平和になれば……。





 私の歌が終わり、再び静寂が帰ってくる。


 私はスカートの先をつまみ、スカートの裾を広げながら片足を下げる。つまりはパーティーでお姫様がやるようなカーテシーをした。


 王子さまは一瞬の間の後、惜しみない拍手をくれた。ついでに何か言葉をかけてくれているが、きっとブラボーみたいな意味だと勝手に解釈しておく。


 そっちの方が嬉しいし。


「お望みなら、まだ歌えますけど?」


 言葉は分かんないだろうから、再びらーらーと軽く歌って顔色を伺ってみる。


 王子さまは嬉しそうな顔をすると、顎に手をやってちょっと考え込むようなそぶりを見せる。どうしたら自分好みの歌を歌ってもらえるかなとか考えてるんだろうか。


 ん~、それならジャンルの違う歌をテレビ放送されたショートバージョンで歌いまくって……。


 などと意気込んで見せた矢先、馬に乗った兵士が大声を上げながらこちらに向かって来た。


 どうしたんだろ……?


 王子さまは真剣な顔でその兵士と話し合うと、周囲の兵士に号令をかけた。


 兵士たちは続々と集まって隊列を組み直した。


 どうやらこれから何かを追いかけるみたいで……あっ、そうか。騎士さん達だ。


 ……歌うのに夢中ですっかり忘れてた。


 というか私これからどうすればいいんだろう。


「あ、あの~……」


 とりあえず、といった感じで王子様に声をかけてみたのだが……。


 王子さまはにこやかに笑うと、私に何か聞いてくる。……うん、ぜっんぜん分かんない。


 私が首を傾げていると、王子さまは何かに気付いたようだった。何かを言いながら、私の足を指さしている。


 あ、靴履いてない事に気付いてくれたんだ。


「あ、はい。靴ないです! だから足痛いんです」


 私は片足を手でもって、ちょっと大げさに痛がって見せた。


 正直、靴かそれに代わるものがもらえたら相当ありがたい。


 そんな私の思いに王子さまは気付いてくれたのか、その場にしゃがみこむと、なんと自分のブーツを脱ぎ出した。


 黒い革に金の糸で華の刺繍が施された、見た目にも高級感漂う一品だ。


「え? まさか? いやそんな駄目ですって! いただけません!」


 断る私を無視して、王子さまは兵士に命じて適当な台を持ってこさせ、私をそこに座らせた。


 そして脱いだばかりのブーツを手ずから私の足に履かせてくれる。ぶかぶかだとかそんな事どうでもよかった。


 もう気恥ずかしさと嬉しさで私はいっぱいいっぱいだった。


 そんな私を他所に、王子さまは作業を続ける。大きさが合わない事は理解してくれていたようで、ブーツの上から板状の布を巻いて、固く紐で縛ってくれた。これでそうそう脱げたりはしないだろう。


 最後に王子さまは私の手を取って立ち上がらせてくれ、ブーツの状態を確認する様に促してくれた。


 もう、なにこの完璧超人な王子さま。世の女性は放っておかないだろうなぁ。


「はい、大丈夫です。もう何から何まで本当にありがとうございました」


 私は深く頭を下げて礼を言った。


 とりあえず、気持ちは通じるはずだよね。


 うん、王子さまも笑顔を向けてくれてるし、大丈夫大丈夫。


 最後に王子さまは何か言葉をかけてくれた後、自分は靴下で馬に飛び乗った。普通なら間抜けに見える行いも、事情を知っている私だと数段カッコよく見えるから不思議だ。いや、知らなくてもこの王子さまならカッコイイか。


 きっとティーシャツにトランクスでゲームやっても絵になると思う。


 王子さまは、凛々しい顔で鋭い号令をかけると、兵士たちと嵐のように去って行ってしまった。


「……かっこよかったなぁ……」


 私が若い騎士の事を思い出したのは、それから一時間ほど経ってからだった。


読んでくださってありがとうございます

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