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『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました  作者: 駆威 命(元駆逐ライフ)【書籍化】妹がいじめられて~発売中
第一章 異世界に転移しちゃいました!?

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第10話 ある時は歌い手、ある時はリュートの名人。しかしてその正体は…

『おおおおっきい……』


 私はつい日本語でそんな感想を漏らしてしまった。


 目の前にはモンターギュ砦、その門があるのだが、峡谷に作られているだけあって、谷全体を阻んでいる。


 石を積み上げて作られた強固な門壁は、それぞれ二十メートルほどあり、木と鉄で作られた門は、横は十メートル以上、高さも五メートル近くあった。


『すっご……』


 私はあまりの凄さに圧倒され、というか感極まって、ふらふらと近づいていった。


「おい、不用意に近づくな!」


「え?」


 グラジオスの叱責が私に届いた瞬間――。


 ピュィッと風切り音が響き、私の足元に矢が突き立った。


『ふぎゅぇぇぇっ!!』


 私は恐怖のあまりちょっと女の子っぽくない悲鳴を上げながら、慌ててグラジオスの背中へ逃げ帰った。


「馬鹿が」


『ううっ、言い返したいけどこれは確かにその通りだから言い返せない……』


 曲がりなりにも戦争中の国、その国境警備を任されている砦にのこのこ近づくとか問答無用で殺されてもおかしくないのだ。


「誰だっ」


 誰何の声が響き、門の上から数人の兵士が顔を出し、矢をつがえた弓をこちらに向けてくる。


 恐らく壁に設けられた銃眼ないし狭間さまからも私たちは狙われているだろう。


 こういう殺されるかもしれない恐怖は人生で三度目になるが、何回体験しても慣れる事は無かった。


 しかしグラジオスは平然としたもので、冷静に両手を頭の上にあげ、


「先の戦から撤退してきた者だ。門を開けてほしい。見ての通り二人で、周囲に兵などいない」


 それまで私に見せて来たものとは全く違う口調と態度で堂々と告げた。


 ……ちょっとだけだけど、誰? って思ったのは秘密。


「分かった。そのまま待っていろ。こちらはお前たちを一方的に射殺せる準備がある。下手に動くなよ」


 そんな事、言われなくても分かってます。絶対動きません。


「荷物を地面に置いておけ」


「で、でででも、ランドセル下ろすのが変な動きにならない?」


「……好きにしろ」


 私たちは、門から出て来た多くの兵士たちに包囲された後、連行され砦の中に入る事が出来た。


 そして……。


「なぁんでぇ~っ」


 私たち二人は荷物を奪われ、椅子すらない地面がむき出しの牢屋へと入れられていた。


 とりあえず私は抗議をするために、木で出来たぶっとい牢屋の格子を掴み、ちょっとだけ涙目になりながら揺さぶる。……見張りの兵士さんにはガン無視されてるけど。


「身元を確かめるまでだと言われただろう」


 グラジオスは平然と格子に背中を預けて胡坐をかいていた。この状況に、まったくなんとも思っていないらしい。


 私は不満しかないのに。


「そうだけどぉ~」


 牢屋に入るとか初めてだし、暗いし心細いしなんか変なにおいするし。


 それに、グラジオスと一緒だし。


 いくら歌好きの同士だとしても、グラジオスは男で、私はか弱い女の子だ。ちょっと変な気分になって迫られたら抵抗すら出来ないだろう。


「……変な事しない?」


「お前は自分の顔と体を自覚してから言え」


 というかもう躊躇いすらしなかった。秒というかコンマ何秒? くらいの速度で返されてしまう。


 グラジオスは私の事を完全に女として見てないみたいだ。


「なにそれ、ひどっ!!」


「事実だ。俺は子どもに欲情する趣味は無い」


「ひ、貧乳は希少価値だもんっ」


 私は自分を抱きしめながら抗議する。


 ちょっとぐらいそういう目で見られないと……。いや、見られるのは嫌なんだけど、見られないのも嫌なのだ。乙女心は複雑って言うじゃない?


「胸以前の問題だ、ガキ」


「ガキ言うなしっ!」


 私はグラジオスを向いて思いっきりあっかんべーをすると、再び格子揺すりに戻った。


「助けて~っ。獣がここに居ます~っ……えぇっと」


 駄目だ、こういう時に使う単語が分からない。


「ねえグラジオス。こういう時の悪口教えて」


「今のお前に教えるはずないだろう。馬鹿が」


「あ~、また馬鹿って言ったぁ! いいもんっ。……えっと、汚されるぅ~っ」


「いいから黙ってろ……」


「やだ~」


 なんか騒いでないと心細いから。それに私はさっきの暴言を許していないのだ。


 そうやって必死に耐えていると、


「モンターギュ侯爵閣下が来て下さったのだ、静かにしろっ」


 門のところで私達を捕らえた兵士がやってきて私達を怒鳴りつけた。


「だって、グラジオス」


 とりあえず私は全ての罪をグラジオスに擦り付けてそ知らぬふりをしてみる。


「お前だっ」


「え~、絶対グラジオスだよ」


「……どっちもだっ! どっちも静かにしろっ!」


 ちょっと本気で怒られてしまったので、私は急いで口を閉じた。隣にいるグラジオスは、恨みがましい視線を向けて来たが私はそっぽを向いておく。


 やがてモンターギュ侯爵なる人物、白髪を肩まで伸ばし、豊かな髭を蓄えた、少し厳しそうな顔つきの老騎士が、ゆっくりと姿を現した。


「閣下。こちらの男が会えば分かると……」


「うむ」


 どうやら顔を見れば分かると言っていたグラジオスの主張が通り、侯爵直々に牢屋までやって来たみたいだ。


 モンターギュ侯爵は、格子の隙間に視線を向ける。


「久しいな、モンターギュ卿。お前がこの砦を守ってくれているから、私はこうして心穏やかに居られる」


 いや、だからアンタ誰よ。と言いたくなるのを私はぐっと我慢する。


 そのぐらい、グラジオスの態度は余所行きの仮面を幾つも被りまくってお化粧までしていた。


 グラジオスが、悠然とモンターギュ侯爵の方を振り向いて顔を晒す。


 ――途端、カッとモンターギュ侯爵の細い目が見開かれた。


「――殿下!」


 え……殿下って……グラジオスが?


 グラジオス、王子さまだったの?


 私はあまりにも信じられず、懐疑的な視線をグラジオスに向ける。


 向けられたグラジオスは、少し決まりが悪そうに頭を掻いていた。


「……そういうことだ」


 慌てて牢屋のカギをガチャガチャと開け始める兵士を他所に、私たちは見つめ合っていた。


「……ねえ」


「なんだ」


 私の中にある感情が生まれていた。それはどうしようもないほど膨れ上がり、私の心を一つの色に染めていく。


 私は思い切り息を吸い込むと、


「似合わなっ」


 全力でそう言ってしまった。


 いやだって分かるでしょ? 王子さまだよ?


 王子さまっていったら、白馬に乗ってて……あ、でも帝国の王子さまは白馬じゃなかったか。じゃあ白馬じゃなくてもいいや。とにかくカッコよくて優しくて気品に溢れてて賢くて強くて、もうこの世界の神様に全力で愛されてるって感じの人なはずだよ?


 それなのにグラジオスってばすぐ悪口言うし意地悪だしかっこ……よくなくもなくもないくらいだし、優しくないし粗野だし見た目ガラ悪そうだし、全然王子さまっぽくない!


 グラジオスが王子さまなら私はお姫さまになれるんじゃないだろうか。


「……お前な……」


「だってそうでしょ? グラジオスだよ? 絶対王子さまに見えないっ。態度とか口調とか……」


「それはお前にだけだ」


「人によって態度変えるとか王子さまっぽくない!」


「俺は場の雰囲気を読んで合わせているだけだっ」


「なら……」


「ウォッホン」


 私たちの口喧嘩に、咳払いが割って入った。


「殿下、とりあえず牢の外に出ていただけますかな?」


「……分かった」


「……はい」


 喧嘩はいつだってできる。というか牢屋の中ですることじゃない。


 私はこんな所、一秒だって居たくはないのだ。早々に脱出して……。


――ガチャン。


「へ?」


 グラジオスに続いて牢屋を出ようとした私の目前で、無情にも扉は閉められてしまった。閂を下ろす音が無情にも響く。


「え? ちょっと? なんでぇ!? 私も出してぇ!」


 私は扉を掴んで猿のようにがっちゃがっちゃと揺さぶってみるが、もちろんそれで開くはずもなかった。


「貴様の身元は証明されていない」


 兵士は無慈悲に告げると、ご丁寧に錠までおろしてしまった。


「いや、そうだけどぉ!」


 というか異世界から来たのにそんな身元とか証明できるはずないじゃん! じゃあ私一生牢屋暮らしなの? そんなのやだっ!


「お願いグラジオス! ここから出してぇっ」


 私は涙ながらにそう訴える。何か横で兵士が、殿下に対して失礼だぞ! 口調を改めろっ! とか叫んでいるが、今は無視だ。


「……お前はそこで少しばかり頭を冷やしておけ」


「やだぁ~。ここは怖いのぉ~」


 ここでひぐらしのなく頃になんて歌ったら恐怖で失神してしまう自信があった。


 なら歌うなよ、なんて突っ込みは無しだ。私の辞書に歌わないなんて単語は無い。


「お願い~」


 私は半泣きになりながらグラジオスに懇願する。


 グラジオスは長い溜息を吐くと、仕方ないという風に頭を振った。


「こい……この子どもの身元は私が保証するので出してやってくれ」


 子ども言うなし~~。


「え……ですが……」


「コイツが私を害そうとするならもっと前にやっている。一応、こう見えて私の命の恩人だ」


「はっ」


 その言葉が聞いたのか、兵士は慌てて鍵を取り出すと錠に挿し込む。


 こうして私は一応、自由の身になったのだった。

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