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災厄を引き寄せる男  作者: 翡翠の花
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7. ~回顧編~ 物置部屋にて

クリプト歴300年を過ぎるころから、ニコライ地方の端にある村、コロイドは人口の減少にみまわれていた。

オガネソン公爵家の大規模な領地開発により人手が不足し、出稼ぎで出ていった若者がそのまま住み着いてしまって戻ってこない事例が多発しているからだ。

辺境のコロイド村にとって、人口減少は即、村の存続にもつながる。そんなことで人々は村の将来を憂い、頭を抱えて日々過ごしている。

とはいえ、頭を常時抱えているのは上層部のごく一部で大抵の村民は今日もいつも通りの生活を続けていた。




クリプト歴308年4月。


コロイド村の半ばにある家の倉庫としている部屋で、家主のバリオン・イダルトゥが掃除を行っていた。


「おわっ!」


上からの雪崩落ちてきた箱の数々がバリオンの頭を打った。こぼれ出てきたのは大小、色が多種多様な石。地中から発掘される魔力を内包した石、魔石である。


「あっちゃ~」


バリオンは目の前に広がった惨状を前にして大きくため息をつく。


「父さん、大丈夫?」


2回で発生した物音を聞きとがめたバリオンの息子、クロムが様子をうかがいに上がってきた。隣にはコロイド村で唯一の遊び相手、シリカ・エレクトゥスを伴っている。


「ああ、大丈夫だ。シリカちゃん、いらっしゃい。」


「はい、お邪魔しています。」


「父さん、下で母さんが読んでたよ」


「ん、そうか。ありがとう」


そう言うとバリオンは部屋を出て1階へとつながる階段へと歩いて行った。後に残されたのはクロムとシリカのみ。


「ここ、僕の部屋になるんだ」


「へ~そうなの? いいな~私まだ駄目だって。4歳になるまで待ちなさい!って母さんが」


「僕は2日前に4歳になったもんね~」


「いいな~ 私はあと1月待たないといけないんだもん」


そう言いながら部屋を注意深く見た時、2人は部屋に貴重な魔石と本が転がっているのを見て目を丸くした。クロムはめったに触らせてくれない魔石を珍しく思って、色とりどりの魔石1つ1つを手に取り、窓から差し込む日光にかざして楽しんだ。


初めこそ勝手に触ったら怒られるよとたしなめていたシリカだったが、すぐにクロムに参加して同じように遊び始めた。


しばらくそうしていたが次の魔石を探そうとしているときに、シリカは吸い寄せられるように1冊の本に目を止めた。シリカは思わず手に取った。


大人でさえ識字率が1~2割台にとどまるこの世界において文字を読める4歳児というのは果たしてどれだけいるのだろうか。正確にはわからないが稀有な存在であることには疑いようがない。


しかし、学者の母と魔法師の父を持つクロム、薬師の母と行商人の父を持つシリカはこの希少であろう例に入っていた。幼少期よりしっかりとした教育を施されていた2人は多少なりとも字を読むことができたのである。


話を戻そう。シリカが手に取った本は各種属性魔法の初級を修めた魔導書である。各魔法の魔法名、詠唱、魔法の効果とその原理を簡単に記したもので、ここに記されていることを知らないものは魔法師とは呼べないとされるほど基本的な所であった。


シリカは面白そうに次から次へと頁をめくり、そこに記されていることを楽しく読んでいった。そのうち、そこにある魔法を使ってみたいと思うようになり、つい、その初めにある魔法の1つの詠唱を唱えた。


「水が生み出す聖なるせせらぎ。

命の源である水の流れ。

偉大なる力の鱗片を今わが手中に!

『ウォーターボール』」


シリカにしてみれば魔法師”ごっこ”のつもりで唱えたに過ぎなかった。しかし、シリカが最後まで詠唱を済ませた瞬間、シリカの右の掌にどこからか水が集まり、球体をなし始めた。その水量は刻一刻と増していく。まずいと感じ始めたシリカだったが、何をどうすればこの水が消えていくのかさっぱりわからない。右の手の平から何かが抜けていく感覚と、同時に起こる脱力感に恐怖して、シリカはただ一人の幼馴染の名を呼んだ。


「ク、クロム!」


「ん? シリカ、どうし……な、なんだこれ!?」


窓から差し込む日光にかまけていたクロムが見たのは半径がシリカの顔くらいの水の球体と震える右手をそれにかざしているシリカ。


「た、たすけて……」


シリカが涙目になりながら助けを求める。唯一の幼馴染の頼みにクロムは


「わかった」


以外の返事を持ち合わせていなかった。


とはいえ、クロムにも何が起こっているのかさっぱりわからない。手短にシリカから事情を聴き終えたころには水球はシリカが丸まれば全身を入れられるほどまでに大きくなっていた。


何とかすると入ったものの、特段クロムに手があるわけでもない。よくよく意識を集中させてみれば確かに何かがシリカの手の平から出て行っているのが感じられた。間に自分の手をかざしても、その何か(・・)は避けるように動いて、水球の中に入っている。だったら話は簡単だ。蓋をしてしまえばいい。クロムはシリカの後ろに回り込んでシリカの手のひらを包み隠すように両手を前に伸ばした。


「うっ!?」


途端にシリカの掌から出てくる何かに強く押される。何かがクロムの両手を破って跳び出そうとしている。クロムは必至にそれを抑え込もうと試みる。シリカも右手がおされるのか、必死に手を伸ばそうとしている。反作用をシリカの背に回ったクロムの体で抑え込む。


「うぐぐっっ、うぁぁ!」


シリカが掌から何かが出て行くのが止まったのを感じた瞬間、2人の身長くらいに成長していた水球が勢いよくはじけた。全身に水がかかるのを感じながら、クロムとシリカは強い脱力感と共に意識が遠くなるのを感じた。抗うこともできずに2人は気絶した。




2階から息子の大声と弾けるような音を聞いたバリオンと、その妻シャーナが慌てて2階に上がった時に見たのは水浸しの部屋と散らばった魔石、貴重な本、そして折り重なるように倒れたクロムとシリカだった。

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ダンジョン最弱の魔物は防御スキルで
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