5. 初めての依頼ー①
翌日の朝、ギルドの建物をでて、ルシャさんからもらったジスプロスの地図をひらく。肩にはウノがとまっている。
ギルドの建物は1番地に属する。玉鉱が運び込まれる東部の5番地までは結構な距離がある。
そこから西部にある2番地まで行って、ここに戻ってくればそれだけで一日の大半が終わってしまう。
「普通に行けば……の話だけどね!」
そういって戦闘スキルの《気功》を発動する。
《気功》は文字通り使い手の身体能力を強化する魔法。
今の俺の《気功》はLv3。通常は全身の身体能力は1.5倍になる。
だが、今はその効果を両足のみに集中させることで身体能力を2倍にしている。
通常スキルの『身体強化』の方が効率は良いのだが、後で『アイテムホール』を使うことを考えると魔力は温存しておきたい。
《気功》なら魔力は消費しない。その分疲労はたまるけど……。
「クルルルル!?」
「おっとごめんよ」
急に動き始めたので、肩にとまってたウノが抗議の声をあげる。
謝罪の意を込めながら1番地の赤レンガ倉庫へと向かう。
すれ違う住人達が高速で動くこちらの姿を見て驚く。
そりゃそうか、こんな子供がこの速度で動いてんだからな。
この付近はジスプロスの中心部、道の両側に立派な3階建ての建物が続いている。
「ウノ、もう探す猫の特徴は覚えたかい?」
「クルルル」
ウノが頼もしい鳴き声で肯定する。
「じゃあ上からの探し始めておいてくれ。」
「クルルルル!」
ウノは鳴き声と共に勢いよく飛び立つ。あっという間に建物の蔭に隠れて見えなくなった。
「さすが、飛行能力に定評があるスワロー系統だな。こうも速いとは……」
《気功》を使っての移動を続けるる。空間の初級魔法『テレポート』を使えれば幾分か楽だったんだが、残念なことに今の俺では『テレポート』は使えない。
「まだまだ練習が必要だな。」
再び周りの目を集めながら、走っていくと一度目の目的地に着いた。
「すいません! 冒険者ギルドから来たものですが!」
ここは東門から来た物資を一時的に保管しておく倉庫だ。外壁はみな赤いレンガで覆われている。
昼休み中のようで倉庫内に人は少ない。
「おう、今行くから待ってろ!!」
奥から荒々しい、太い声が聞こえてきた。
しばらく待っていると奥から大柄の男が出てきた。身長は俺の倍くらい? 筋肉隆々だ。
「オロリン様あての荷物を取りに来ました。」
「おうよ、来な。その荷物はこっちだ。」
男についていくと大きな箱が積まれた倉庫の一区画に案内された。
「これがオロリンあての荷物だ。全部で30箱になるんだが……お前全部運べるのか?」
正気か? とでも言うようにこちらを見てくる。
ふふふ、残念だが俺にその心配は不要だ。
「問題ありません。
時空の王の戯れを我が手に『アイテムホール』!」
そう言って俺は空中に黒い魔方陣を出現させる。
「ほう」
男が感嘆の声を上げる。この年齢で『アイテムホール』が使えるのは珍しいらしい。
少し鼻を高くしながら箱のうちの一つを持ち上げようとする。
「重っ」
びくともしない。当たり前か、何しろ大人一人分の質量。対する俺はまだ9歳。
慌てて《気功》を使いながら運ぼうとする。なんとか行けたがこれは予想外。
《気功》は使かった後、すごく疲れるからあまり使いたくなかったのに……これは明日動けないかも。
「しょうがねえな、手伝ってやるよ。」
そう言って男が手を貸してくれる。
おう、紳士的。
「ありがとうございます。」
「いいってことよ。」
さすがにあの体格だから、次々と箱を『アイテムホール』の中に入れていく。
「よっと、これで全部だな?」
「はい、ありがとうございます。」
「おう、お疲れさん。代金はもうすでに払ってあるからもう持って行っていいぞ。」
「わかりました、ありがとうございます。」