4. 冒険者登録
シリカが俺のステータスボードを見て何か思うことがあったのか、大きくため息をつく。そして頭を降ったのち、ステータスボードを返してきた。
「呪い、何かわからなかったのね……」
シリカは誰に聞かせるでもなく、呟いた。
「……受け付けに行こうか。クロムの冒険者登録をしないとね。」
「シリカはどうするの?」
「うーん、私はまだやめとこうかな」
「そっか、まあ行こう」
受け付けまで歩いていくと、こちらを認識したルシャさんが声をかけてきた。
「冒険者登録ね?」
「はい」
「じゃあこちらへどうぞ」
そう言って目の前にある二脚の椅子を指差す。言われるがままに左に座る。シリカは右側に座った。従魔達は足元に転がってじっとしていた。
「登録するのはクロムくんだけだったわね? それじゃあ、この書類に必要事項を記入してね。」
と言って一枚の書類を手渡してきた。指示通り書類に名前、年齢等を記入してルシャさんに手渡す。書類を受け取ったルシャさんの顔には少しためらいの色が浮かぶ。
「そう、クロムくんは9才なのね?」
「確か8才からでも登録はできるはずでしたが…。」
そこはしっかりと確認してからギルドに来ているから間違いないはずだけど…
「確かに登録自体は8才から可能よ。でも、8才から10才までの間に登録すると、冒険者のランクはHから始まるのよ。10才以上ならGランクからなんだけど……」
「一つ低い段階で始まるんですか?」
「そうなるわね。まだ小さい子には安全を考慮してそうなったわ。Hランクの依頼は町内でできる依頼が基本よ。」
「HランクからGランクに上がるにはどうしたら良いんですか?」
「年齢が10を超えるか、一定数の依頼を受けた上で昇格試験に合格すれば可能よ。でも、Hランクは制限が多くて冒険者には不評よ。だからみんなGランクから冒険者になるの。………で、どうする?」
ルシャさんが聞いてくるが、正直これくらいの条件は想定していた。だから僕にはなんの抵抗もない。
それより聞き忘れてたけど…
「あの、Hランクでもギルドの施設は使えますか?」
「もちろんよ。ギルドの施設はランクに関係なく全ての冒険者が使えるわ。あと、その冒険者の知人もね。」
それならやめる理由はないな。
「ではHランクで登録します。」
「わかったわ。書類はさっき見せてもらったもので十分だから、確認としてステータスボードに名前と年齢を表示させて私に見せてもらえる?」
「こちらです」
「うん、問題ないわね。
これで登録は完了よ。冒険者ギルドは新たなHランク冒険者、クロム・イダルトゥを歓迎するわ。
これがギルドカードよ。」
「ありがとうございます」
「早速依頼を受ける?」
「………それよりも、ギルド施設での宿泊を希望します。可能ですか?」
「もちろんよ。ただ、部屋は冒険者一名につき一部屋しか借りられないけどいいかしら?」
シリカに目をやると首を縦に振っていた。
「それで構いません。お願いします。」
「じゃあはい、これ。」
そう言ってルシャさんは鍵を渡してきた。
「2階の奥の部屋だから迷うことはないと思うわ。」
「どうも」
借りられた部屋はベッドが一つと荷物を置く棚以外にはなにもない簡素な部屋だった。もっとも、俺たちはここ一ヶ月野宿だった。それを鑑みればここでも十分極楽といえる。
早速従魔のスライム達などは嬉しそうにしている。
「ベッドはシリカが使って良いよ。僕は寝袋を使うから。
時空の王の戯れを我が手に
『アイテムホール』!」
そう言って空間属性の初級魔法『アイテムホール』を使う。空中に魔方陣と黒色の穴が出てくる。手を突っ込んで中に入れていた寝袋、テント、食料品等の荷物を取り出す。
「今から、明日受注する依頼を確認して来るね。シリカは明日どうするつもり?」
「ん~、私はギルドの練習場で魔法の練習をしとくかなぁ?」
「わかった。じゃあついでにこの子らを見といて欲しい。」
そう言って戸の近くに固まっている3匹のスライムを指差す。
「いいけどウノはどうするの?」
シリカは"ウノ"と名付けたE-ランクモンスター、ベビースワローに目をやる。
「おそらく捜索系の依頼を受けるから、ウノの力を貸してもらおうと思ってる。」
「わかったわ。」
テルル王国とその周辺国で使われている貨幣は銅貨、銀貨、金貨、白金貨があり、それぞれに大小二種類ずつある。小銅貨が1ヴィシーで、価値は一つ上がるごとに10倍になる。
つまり……
小銅貨 1
大銅貨 10
小銀貨 100
大銀貨 1,000
小金貨 10,000
大金貨 100,000
小白金貨 1,000,000
大白金貨 10,000,000 (ヴィシー)
となる。
ジスプロスの一般的な平民の1日の生活費が60ヴィシー。なので日常的には銅貨が使われる。
少し裕福な家庭になると銀貨を使うことも出てくる。
貴族となると金貨を日常生活に使うこともあるのだとか……。
白金貨の出番は国家間の支払いの時くらいだそうだ。
だいたい貨幣感覚を確認したところで表示されている。依頼を確認する。
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・仕事:倉庫整理
・報酬:30ヴィシー
・場所:2番地、赤い扉の倉庫
・期間:半日~1日
・期限:無期限
・依頼主の名前:ペタン
・備考:重いものの運搬
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・仕事:荷物運搬
・報酬:70ヴィシー
・場所:2番地、"製剣のオロリン"
・期間:運搬終了まで
・期限:明日まで
・依頼主の名前:オロリン
・備考:5番地に運ばれる玉鉱を運んでくること
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・仕事:猫の捜索
・報酬:30ヴィシー
・場所:4番地、ジスプロス動物研究所
・期間:見つかるまで
・依頼主の名前:ジスプロス動物研究所
・備考:生態研究調査のサンプル個体の捜索、捕獲
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・仕事:植木剪定
・報酬:20ヴィシー
・場所:2番地、ゴール宅
・期間:半日
・依頼主の名前:ゴール
・備考:大きな木を指示にもとづき剪定する。
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・仕事:運搬
・報酬:70ヴィシー
・場所:西門
・期間:1日
・依頼主の名前:オガネソン公爵家
・備考:ニコライ地方への物資輸送準備の手伝い
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運搬の仕事は空間魔法を使えばできるんじゃないかな…
捜索の仕事もトバと視界を共有すれば結構簡単にはなる気がする。
「すいません」
3枚の依頼の紙を持って、受け付けに行く。ルシャさんがまだ、受け付けで事務作業をしていた。
「依頼かしら?」
「はい。この3つの依頼について詳しく教えていただきたいのです。」
「どれどれ……ああこの3つね
まずこのオガネソン公爵家直々の依頼だけど、先月ニコライ地方で起きた大規模な魔物の発生は知ってるわね?」
「…はい」
もちろんだ。当事者だったんだから。
「公爵家は現在残存の魔物に対して討伐隊を組んでいるんだけど、その大量の活動物資をここ、ジスプロスの町から輸送しているの。
でも公爵家の人員だけでは人手が足りないからギルドに依頼が来てるのよ。
結構賃金もいいし、何より公爵家直々の依頼だから安心だって、人気の依頼なのよ。
次に、捜索の依頼だけどこれは備考の通り、ジスプロスの動物研究所が借りている希少な猫が逃げ出してしまったから探して捕まえて欲しいっていう依頼ね。
その猫は中型で屋根に登る習性があって探しにくいし、すばしっこくて捕まえにくいの。
3匹分がの依頼が来ていて、1匹捕まえることに依頼が達成…という扱いよ。
最後の運搬依頼だけど、この依頼主は有名な鍛治士ね。
受注した仕事に必要な玉鉱が運び込まれてくるのが遅くなってしまったらしいの。
受注に間に合わないかもしれないから急いで運び込むことができる人を求めてるらしいわ。」
なるほど…それならば…
「運搬する玉鉱の量はどのくらいですか?」
「だいたい一箱あたり大人一人分の重さが30箱ぶんね。」
ふ~ん、それくらいなら『アイテムホール』に入れられるな。
「………では、その依頼を受けようと思います。」
「いいの? 結構重いけど……」
「『アイテムホール』が使えるのでそれくらいは問題ないです。」
そう言って空中に黒色の魔方陣を出現させる。
「あら、そうなの。じゃあ問題なさそうね。それにしても9才で『アイテムホール』まで使えるなんてすごいわね。
……はい、じゃあこの依頼の受注手続きは済みました。頑張って下さい。」
「あと、依頼を二つ同時に受けることは可能ですか?」
「…それ事態に問題はないわよ。どれを受けようとしてるの?」
「猫の捜索です。町を歩き回るついでに姿を見かけることがあるかもしれないので……」
本当はトバに探してもらうつもりなんだがね。
「なるほどね…。でもこの依頼は捕獲してからその個体をギルドにつれてこれば依頼達成になるわよ。」
「そうなんですか?」
「ええ。捜索系の依頼はそういうものなの。探すつもりならその猫の特徴を教えておくわ。」
「よろしくお願いします」