5日後の消失
「…大丈夫ですか?」
彼の名は、吉田さん、と言った。
私の職業は、一応小説家。のはずだ。
しかし私は今まで出した本はまだ一冊。最近発売されたばかり。
なのにまた催促。どうやら出版社は、ありがたいことに全力で私を売り出そうとしてくれるらしい。
ありがたいのだが、取材などももちろん多い。が、私は他人と話すことが苦手なのだ。
だからこそ、小説家になった、ともいえる。
とにかく、そんな慌ただしい生活の中で、新作しかも短編っておい。書けるか!
家じゃ集中できないので、毎日図書館でペンを進めようと努力している。
そこでよく話すのが、吉田さん。
毎日いる訳じゃないけど、定期的に館内業務をしている。書庫にいる時間もあるらしいからだろう。
にしてもいる時間が短い気もする。まあ図書館についてはよく分からないから、ほかの館員さんと比べるのもどうかと思うのだけれど。
ここの図書館は、都内で一番大きい。
だから私は、神奈川県在住で、仕事にも位置的に問題なかったのにこの近くへ越してきた。
窓の外に、花壇が見える。そのそよそよ揺れている、白い花は、カモミール?
その海の波のような律動的な花びらの揺れに心奪われているうちに…
ブラックアウト。
少し寒いな…多分夢の中で1回思って…それから暖かくなって…
また私の記憶は飛んだ。
「ぬあっ!」
自分でも意味の分からない奇声を上げ飛び起きる。
図書館で寝てしまうというまさかの大失態。しかも一応小説家なのに!
まだ少しぼやけている視界で上を見ると、吉田さん。
吉田さんは、少し私の様子を伺った後、「…大丈夫ですか?」と問いかけてきた。
多分、奇声を上げたので何事かと思い来てくださったのだろう。
「大丈夫です?ん?」
自分の肩には暖かい感覚。
そこには図書館員の制服の上着。
「ご、ごめんなさい!これ」慌てて差し出すと、向こうは笑って「どうも」と囁いた。
「ホントにありがとうございます、助かりました」
そういい軽く会釈して荷物を持つ。気付くともう、退館時間ぎりぎりだった。
「では、またおまちしてますよ」
その言葉を背に、私は図書館を後にした。
―――まったく。
あの人は本気で気付いていないのか。あの時俺との間にあった奇妙なやり取り、全て忘れてるのか?
「てか仮にも小説家さんなんだから、あんなところで寝るなよ」
その呟きは、聞こえてしまったのだろうか?
「やっぱりさー、ファン以上の感覚、あるんじゃないの?」
ねーよ!と先輩相手なのに叫んでしまった。
ない。ないったらない。絶対ない。
そう呟きながら、俺は閲覧室を後にした。
相変わらずの超短編ですいませんorz
ご感想くれると死ぬほどありがたいです。