002死んだ俺
002死んだ俺
「おお、死ぬとはにゃさけにゃい」
目の前に猫がいた。
ちょっと大型で、全体的に黒い毛並みで腹は白い。
喋ってる。日本語喋ってる。
「どっちかというと記憶に書き込んでるにょにゃ」
心読まれてるし!
「わっしは神にゃ!」
というCV堀◯由衣の猫に、
「へへーー……」
と俺はひれ伏した。
□
猫神様曰く、
「お前さん、押し付けられたにゃ。面倒にゃ」
との事。
俺は地球で車に轢かれて死んだらしい。
青信号を渡っている時、スマホ弄り運転のスーパーカーに跳ねられた。時速90kmだったそうだ。
なに? スマホゲーで興奮してアクセルめっちゃ踏み込んじゃったの?
俺は即死。
どうりで記憶も無いわけだ。
血流が止まっても脳はしばらく生きているらしいが、その記憶も無い。
多分、跳ねられてすぐ脳は飛び散ったんだろう。
うおぉ……
つか、面倒だって。押し付けられたって……
「神は結構変にゃこだわりがあるにゃ。そっちにょ管理神にょ好みにょ問題だろうにゃぁ」
また心を読まれたよ!
何だよ。俺って神様にも嫌われていたのかよ。
そらモテませんわ。
「わっしにょ管理してるとこじゃにゃいけど、どっかにょ世界に突っ込んどくから、勝手に生きて死ぬといいにゃ」
おうふ。投げやりだぜ。
「それって、異世界転生ってやつですか?」
「そうにゃ。お前さん好きじゃろ?」
思わず口元が緩んでしまう。
そういう小説を読んでいた。いいなーと思っていた。
とうとう俺の番が来た!
「にゃ、そこを真っ直ぐ行って右に……」
「ちょ! 待ってください! 待ってくださいお願いします! チートとか! チートとか無いんですか?」
「にゃ? 欲しいにょかにゃ? じゃ、一応1つだけ願いを聞いてやるにゃ」
と猫神様に促されたのだが、よく考えてみるとそういうのは考えてなかった。
俺は間違いなく厨二病だったけど、自分設定を書き込む程の深度に達してはいなかった。
物語のチート主人公を、すげー! と読んでいるだけだったのだ。
やっぱ、強いのがいいよな。
よし!
「ゴールドフィンガーでお願いします!」
俺の好きな作品だ。
もうだいぶ古い作品だけど、今見ても面白い。
人々は宇宙コロニーに移り住み、荒廃した地球を舞台に、世界リーダー国を選ぶ大会が開かれる。
ガン◯ムファイト! レディー、ゴーーーー!!
猫神様がすっと目を細めた。
「ミダスのアレかにゃ?」
ミダス? ああ、なんかそんなMSいたな。
「そっ、それで! お願いします」
その時俺は焦っていた。
すごく焦っていた。
大金を目の前にするとテンションがおかしくなるアレだ。
「分かったにゃ。そにょままじゃ使いにくいと思うから、ちゃんと使いやすくしておくにゃ。じゃ、そっちを真っ直ぐ行って左にゃ」
「はい! ありがとうございます」
と俺は未だ嘗て無い程綺麗なお辞儀をキメた。
「にゃっはっはっはっはっ」
と笑うCV◯江由衣
俺は猫神様に言われた通り、何も無い白い空間を歩いた。何もないのに真っ直ぐ行って左って
……あれ? 最初は右って言ってなかったか?
目的地らしきところに辿り着くと、床が抜けた様な感覚の後、気を失った。
□
俺が失敗していた事を知るのはその後直ぐだ。
「俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ……」
ぐっと手に力をいれた。
「勝利を掴めと轟き叫ぶっ!!」
いくぜ!
「爆熱! ゴッド、フィンガァアアアアア……あああああっ!?」
それは、転生して降り立った異世界の森の中で、早速チート能力を発動してみようとキメていた時だった。
技名を叫んで気付いてしまった。
「ゴールドフィンガーじゃねぇえええええええええ!!」
人は大金を目の前にすると変なテンションになって判断ミスをしてしまうのだ。
「つか、あの神様、心読めるのに放置しやがった」
全ては神の戯である。
ミダスは、ミダスガ◯ダムというのがいた事を思い出した。クロスボ◯ンガンダムに。
Gガン◯ムではない。Gガ◯ダムは登場するガンダ◯多すぎて、そんなのもいたんじゃないかな? とか思ってしまった。
もっとよく考えるべきだった。
ミダスといえば、ギリシャ神話で触れたものが全部黄金になってしまって困ってしまうって話。
そのままじゃ使いにくい…… そうだよね。猫神様優しいね。
俺はその辺の葉っぱをちぎって、黄金になるイメージをしたが、黄金にはならなかった。
「ギリシャ神話でもないのか?」
俺は意気消沈したが、しかし森の中は危険だと歩き出した。
ゴッドフィンガーが無い。だったら危険である。
予定では今頃モンスターをヒートエンドしていた所である。
周りの気配を気にしながら進んだ。
すると、川に出た。
川を下っていけば、人が住んでいるところに辿り着くはずだ。
煮沸した方がいいんじゃないかとは思いつつ、しかし小さな川魚もいるし、苔も生えているから、ただちに影響があるという事はないだろうと、川の水を掬って飲んだ。
「うめぇぇ」
色んな意味で疲れた心身に染みる。
……そういえば、ミダスは飲み物も金塊に変えてしまうんだっけ。
もう一度川の水を掬って念じたら、今度は金になった。
なるほど、液体限定なら使いやすい。
でもこれで、ゴッドフィンガーじゃないとはっきり分かってしまって、俺は肩を落とす。
……いや、待て!
「ってかこれ……」
俺は、ゴッドフィンガーをゲットできなくて意気消沈していた。
触れた物(液体)を金に変える能力をゲットした事に意気消沈していた。
しかし、しばらく手の中の金塊を見ていると冷や汗が出てきた。
「……え? いやいや、待って待って。これって…… ええ?」
コレとんでもない能力じゃねぇか!!
どうやら質量で金になるらしく、手のひら一杯の水は縮んでいたが、重さは同じ。
手のひら一杯はどのぐらいだろうか。150mlあるだろうか。
およそ150gの金塊が手の中のにある。
消しゴム2つ分ぐらいの大きさだが、やはり金塊。
□
それから川を下って街に入った。
最初からかなり大きな街だった。
途中、水滴をポロポロと金粒に変えた。
様々な大きさの金をジャージの上着ポケットに突っ込んだ。
だって、ズボンに入れたらずり落ちたし。
とりあえず、城壁前に並んでいた商人の馬車に近付いて、金塊を握らせ、丁稚として城壁を通れる様に頼んだ。
商人はニコニコと承諾し、俺は街に入った。
冒険者登録をして身分証をゲットし、街をぶらぶらしていたら娼館を発見して、異世界に転生した初夜に童貞を捨てた。
◯