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夜明けの王と古の魔神  作者: 七緒なる
プロローグ
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プロローグ

初めての小説です。

拙い部分もありますが、よろしくお願いします。

気が付けば自分は森の中にいた。


周囲は木に囲まれ、日の光が届かない暗い森の中。

木々の隙間から覗かせる闇はどこまでも広がり、獲物を誘っているような感覚にさえ陥ってしまう。


時折不気味な唸り声が聞こえ、それを聞いただけでもその場所は普通の森ではないのが分かるだろう。


幼い少年はそんな場所で一人立ち尽くしていた。


少年はどうしてここにいるのか?

少年は何をしているのか?

少年は一人なのか?


分からない。

何度思い返しても答えは見つからない。


『記憶』が曖昧なのではない。

『記憶』そのものが全くないのだ。


まるで糸が切れたように、その先が全く存在しない。

ただ分かるのは自分はここにいるということ。


そして、もうすぐ自分は殺されてしまうということ。


「オオオオオォォォォ…!!」


目の前には巨大な怪物。

大人二人分の高さの、人間のような二足歩行の狼に近い化け物。

全身が異常な程の筋肉で膨れ上がっており、近くの邪魔な木を無造作に殴りへし折ってしまった。

へし折られた木は無残にも音をたてながら倒れてしまった。


それは獲物に対する威嚇の為か、力の誇示の為か。


もっとも、少年はそれを見ているだけで何の感情も出さなかった。

否、そもそも少年に感情があるかどうかすら怪しかった。


微動だにせず、ただその行為を見ている少年。

怪物はそれを無抵抗と思ったのか、ニヤリと口を歪ませ嗤った。


餌が手に入ったと確信し、怪物が手を伸ばし、


「ギィアアアアアアアアアア!!!」


その手が無くなった。

肘から先が綺麗に切断され、地面に転がっていた。


「そこまでだ」


いつの間にか、少年の横には誰かがいた。

大柄な体格を黒い外套で纏っていた『それ』は剣を片手に怪物と向き合っていた。


「去れ。これ以上は看過できぬ」


人の体格を保ち、人語を喋る『それ』は人のように振る舞うが決して人間ではない。

骨。

外套の下に肉はなく、王族が着飾るような金の装飾が施された防具と骨しか見えず、肉はおろか皮膚すらも残っていなかった。

防具は手入れされていないのか汚れで輝きを失い、肉体に至っては朽ち果てていても、まるで人間の王のような威厳を放つ『それ』は骸骨だった。


怪物は切断された腕から血を流し苦しみながらも、骸骨を睨む。

血走った眼からは骸骨を敵と判断し、


「グオオオオオオオオオ!!!」


獰猛な雄たけびをあげ、突進した。


「力の差も分からぬとは、愚か者め」


骸骨はため息をつくように一人言を呟きながら片手の剣を怪物へ向け、


「――――消えろ」


一閃。

吸い込まれるように剣は怪物の体の中に入り込み、上半身と下半身を二つに分けてしまった。


「ギィアアアアア…アアァ…!!」


怪物は断末魔を残しながら地面に倒れ、目を見開いたまま死んでいった。

何をされたのか分からないまま、理不尽に、突然に。


「邪魔者は消えた」


怪物を屠った直後とは思えない程静かな骸骨は改めて少年と向き直る。


「ようやく見つけたぞ、我らが悲願」


先程の様子とは違う、穏やかな様子で少年の見つめる。


「この魔の森、グレイスウェルに希望が残されていると誰が信じたか」


まるで欲しかった物が手に入ったかのように、声には喜びが入り混じっていた。


「お主、名は何という?」

「………」


骸骨の呼びかけに少年は答えなかった。

ただ答えず、じっと骸骨を見つめるだけでそれ以外の行動を取らなかった。


「成程、目覚めたばかりということか」


骸骨は一人納得したように頷く。


「すまぬが、お主を我らの住処に連れていく。ここにいては有象無象に狙われて厄介だからな」


骸骨は少年の手を優しく握りしめる。

大切な宝物を扱うかのように、骨の手は少年の手を包み込む。


「住処は森の奥にある。我以外にも住人がいるが…なに、皆気の良い者達ばかりだ」


答えが返ってくる筈もないのに、骸骨は楽し気に話しながら少年の手を握り締めて森の奥へと歩いて行った。

深い闇の中へ、希望を連れて。




世界が動き始めたことを、まだ誰も知らない。

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