第9話 迫り来る弾丸
前回までのあらすじ
明かされた白鷺の歴史。
地味に強くなった大樹。大樹よ、地味な強化のみとは不甲斐ない。
俺TUEEEEなどうしたのだ!(コレからも俺TUEEEの要素は少ない模様。)
頑張れ大樹、負けるな大樹。近くに蛇は居るぞ!
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「今時異世界にぶち込んでおいて勝手な事を言っている奴が居る……気がする」
恐るべき鋭さの勘を誇る大樹は呟く。
いや、呟きながら背後から迫り来る大蛇の顎に石を投擲。
上を仰ぐ様に仰け反った蛇の首を飛ばす。物理的に。
幾度繰り返しただろうか、もはや作業となっている殺戮。
全てをせめてもの償いとして食べるが、殺すという作業は大樹を確かに疲弊させていた。
寝たとしても二、三時間で蛇は大樹を嗅ぎ付け、様子を伺い始める。
常人なら気付く事すらないその息遣いを大樹は確かに認識し、意識を覚醒させる。
根っこに水を蓄える木を見つけたのならば、根を掘り返し刀で斬り裂き飲む。
蜂蜜は幾度も使い切り、幾度も略奪して満たしていた。
最早ゲームのレベリングの様相さえ醸し出していた。
違う事と言えば、成長が数字で出るか出ないか。そもそも成長するか否か
死んだらそれっきり。
そんな現実を生きている人間なら誰もが当たり前に知っている事である。
常人であったならば人生に対する諦念にも似た、生きる事を作業と認識し始めていた頃だろう。
しかし、元々の大樹が自由気儘、思ったが吉日、やりたい事はやる。そんな男であるからして、常人なら多少の変化があっても諦めていたかもしれないが、己の成長を感じ喜んでいる自分もいる。
外から見れば何も話さず時々ボソリと呟くだけの男だが、内心では刀の振り方や槍の突き方一つに一喜一憂しているのである。
言うなれば、少しの動作でも改善出来たならば脳内では某RPGで流れるレベルアップのファンファーレが流れている様な物である。
因みに、大樹は気付いていないフリをしているが槍の方が圧倒的に上手い。
しかし
“日本人なら刀使いに憧れるよな。まおうっ!では鉈騎士だったけどさ!”
と言って刀の修練を欠かさない。決してめげないのだ。
否、むしろ使命だとすら思っている、と言うべきだろう。
まあ、そんな男であるからして次の階層がどんなものかなぁと考えつつも現状を、蛇が居なければ良いな程度でしか考えていない。
この男は謎の自信すら兼ね備えており、いつか地球に帰れるだろうとすら考えていた。
昔、
“お前を中心に世界が回ってるんじゃねえ”
と言われた時に
“ふん、バカじゃねえの?ならば聞くが、なぜ太陽は俺の東から登り始め、上を通り越して西に沈み行くのかね?”
と、ボケでは無く素で言ったという実績もある。
ただ、そうであるが故にこの男は良い意味でも悪い意味でも非常に人間らしい男で、三下っぽさもある。
覚えてろよっ!とか、こうなったのもお前のせいだ!とか言う雑魚Aの鉄板をやるときもあるのだ。
さて、そんなこんなで刀使い(笑)な大樹は歩みを進めて更に二つか三つの層を降りていた。
しかし、順調に下っている中でもその層に入った瞬間、大樹は変化を感じとっていた。
大樹の入ったその層に於いても、やはり木が多かった。
しかし、その木は配置がまるで人が手を加えて、丁寧に手入れされているかの様に整理されていた。
「……何かがおかしい」
呟きながら腰を低くしながら、いつでも刀を抜ける様に使い込んだ柄に手を掛ける。
そして、トカゲが土に干渉した時と同じ様な感じー魔力の流れーを感じてピクリ、と耳が動き、目だけを動かして異変が無いか確認する。
刹那、大樹は刀を上に向けて抜刀。
降ってきた木の実を、縦に斬り裂き二つに分けた。
「……おかしいなァ、勘が鈍ったか?いや、それでッ」
言葉の最中に降ってくる木の実×5を斬り裂き、飛び退く。
「おいおい、あれか。木の実を落としてくる奴か。木の実を吸ってぶつけないと倒せない奴か?」
今度は、真横から降ってくる木の実を斬り裂き、確信する。
「コレはもしや風に干渉しているのか?」
容易く危機を避けている様に感じるだろうが、木の実一個一個はヤシの実サイズ。すなわち、頭に当たれば撲殺されかねない。
ハッと気付いた大樹は、薙刀に持ち替え全身全霊の力と持ちうる限りの技術を持って四方の木をなぎ払い、切り倒した。
今の大樹は歩くチェンソー、歩く自然破壊機であろうか。
しかし、この試みは上手く行った様で木の実の弾丸は止まった。
「ふう、やっと止まったか。木の根が急に伸びるとかの非常識さは無かったか。風で実を飛ばすだけだ。その実にしても、木になっている分を尽くしたら補充はされまい。木の実も降って来るのは止まったしな。ッ!」
確かに、木の実は降ってこなくなった。
……上からのは。
「まだ、来るのかよッーー!!」
どうやら未だ木の実の猛攻は止まらない様だ。
しかし、大樹は弾丸の如く飛んでくる木の実を数分で一掃し、一休憩。
木の実はやはりと言うか、木に実っている分しか弾丸にできない様であった。
「ふう。いやはや全くもって奇想天外な植物だったな。」
そう呟きつつ、木の実の収穫中である。
コツンコツンと、木の実の外皮を叩き芯の出ている方と反対の尻の部分に鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。
「匂いは林檎……いや、梨っぽさもあるか?」
スンスンと、木の実の匂いを嗅ぎ自分の知っている果物の匂いに当て嵌める。
「ふむふむ、生で食べるのも良いが焼くか。蜜を乗せて焼いて、食感は少し残っているところに、ほんのりとした甘味。とろりと垂れている蜜を舐めながら、シャクシャクと……」
ゴクリ、と唾液を飲み込む。
「……そうしよう。うん、それが良い。葉っぱは全て厚いから、包みに使えるだろう。葉っぱも良い匂いだし、一石二鳥……一度に2度美味しい。素ン晴らしい!最高だ!!」
いつに無くハイテンションな大樹。脳が糖分を欲しているのだろうか、普段はあまり甘いものを好まず、ケーキやチョコレートも食べないが、焼き林檎(?)を体が欲している様だった。
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木の実を集めてきた大樹は葉っぱに包む為にまず、木の実一個を巻くのに何枚の葉っぱが必要なのか確かめていた。
「ふむふむ、一個あたりは大体2、3枚でいけるかね。でも焦がしたくは無いから4枚にしておくか。」
そう呟きながら葉っぱの一枚を竹筒に入っている水に浸して、ペラペラと振る。
この水は、木の根から取った水を移したものだ。
現在の大樹の水分事情はかなり改善しておりこんな事にも使えるぐらいには余裕がある。
次に、実を四つに切りながらも葉っぱで巻けるように纏めてその中心から蜜をかけ始める。
余談だが、蜂蜜に白湯を混ぜて発酵させておいた物がダンジョンの各層にかなりの数が保管されている。
この蜂蜜に水等を入れて発酵させたものはミード……蜂蜜酒と言うものである。
この酒の起源は大変古く、現在日本ではあまり日常的に飲まれる様な酒では無くなってしまったが、大樹がロシアに行った時に飲んだ物でちょっとした思い出もある品である。
ハニーワインとも言われている程、ワインと製法が近かったりする。
古代においてはケルト人が神事にも用いていたとされる。
この作風的に言えばまあ神話をちょっと絡めて、主神オーディンは勇敢にして精強なる兵士たちが死んだ時に、来たる終末にて兵士とする為にフレイヤと分けて(未だ時代が地母神をそこまで貶めていなかった為、つまり男神>女神の風潮がもうあったが、最盛期でなかった時という事。なので、フレイヤの方が先に兵士の選抜権があった)ヴァルハラに連れて行って、もてなすと言う。
その時に、取り続けられる羊の肉とこの蜂蜜酒が出される…らしい。
さて、そんなこんなで焼き林檎を作る準備の出来た大樹は、しっかりと包みそこそこの火となっている部分に押し込んだ。
パチ パチと木の乾いた音が鳴り、メラメラと火が昇る。
大樹は、火を見ながら、ふと考えた。
こんな事が出来るぐらいには気力がある、そう思っていたがコレは一種の強がりで空元気に過ぎず、近いうちに折れかねないなァ。
折れた人間を大樹は生まれて短いながら、各地に赴きその目で幾人も見て来たからこそ分かる、客観的な意見だった。
こういう時の大樹は自分で分かってるウチは大丈夫、は効かない。
“自分の事を分かる”
言ってみるならば対人関係に於いて必須であるコレを、同年代の少年少女、下手したらもっと年上の人間以上にこなすことが生きるのに必要不可欠であった。
心理的なものだけで無く身体的にも分からないと逃げる事も何も出来なかった。
少し捻っただけ。
コレは非常に恐ろしい事である。捻った事もそうだが、捻った事を
“だけ”
という事が、である。自分の事は万全を喫さねばならない。
その為に必要な、“判断”。
コレを大樹はして来た為、今の状況に困っていた。
心には芯がある。
芯というのは、モテたいとかそういう漠然としたものであっても良いが、コレを成すためなら、どれだけでも労力を惜しまないと言うものだ。
はっきり言えば、成る程。
大樹がふと心に思い浮かぶ事は、神への復讐心ばかりであろうか。
己のテストを妨害し、三ヶ月あまりを無駄な物として価値を地に落とした。
結構、大変な生活へと叩き込まれた。
そう考えてみると成る程、心に響くし案外すんなりと嵌る物である。
コレは、この日は、大樹にとっての大きな転換期となった。
多くの物を生み出し、犠牲にし、己の一部として、ひたすらに進む日々がこの世界で行われるのだろう。
そして、今。
大樹はもう己を…
見失わなくなったのだ。
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話は丸っ切り変わって葉っぱからはとうとうモクモクと煙が上がり、それに乗って甘い香りが漂って来る。
その香りに意識を向ければ、今まで考えていた事も夢の覚めた時に見ていた夢を忘れている様に、思考は霧散した。大樹は、考える事が悪いとは思わないが、俺が考えても休むのと変わらなんだ。と、すっかり忘れて、焚き火の中に手を突っ込む。
最近…特に灼竜との死闘を経てから大樹の体は燃えない、火傷しない、とかなり便利である。
大樹は、すっかり黒くなった葉っぱの団子を取り出すと、パリパリになった葉っぱを一枚一枚剥がし始める。
大樹が手を葉っぱの重なりに差し込み引くと、パラパラと破片となって葉っぱが落ちる。それを二回程行うと未だ湿った緑色の葉が出てくる。
それを剥いで、すっかりと黄金色になった実を露わにする。
じゅるり、と口の外に出かけていた唾液を飲み込む。
柔らかくなったそれの一つにかぶりつく。
ジュワッと滲み出てて来る果汁を口に垂らしながらも、噛みちぎる。
噛みちぎるなんて言う表現をすると硬そうに思えるが、全く硬く無く、寧ろ柔らかい。
繊維は食べる事の邪魔はせずに、シャクッとした食感が素晴らしい。
「嗚呼、美味い…。生きてて良かったッーーー!!」
結局、一瞬で焼いた分は消え失せて一度にたくさん焼こうと欲張った男が、
「いくつか焦げちまった…」
と嘆いていたと言う。
~豆知識~
主神は別にいるとはいえ神道で女神である天照大御神が大きい存在感を持っているのはかなり珍しく、男神が太陽神で無いことも稀有です。
これは男女間で優劣など存在せず、それぞれの役割で分けていた分業国家であることがわかります。狩猟民族ではなく、農耕民族であったことも大きいでしょう。
今でこそ日本は男女平等であることなどが遅れている国家ですが、そういう分業の意識、自分の畑を荒らされるのが嫌だという気持ちなどが底にあるのかもしれません。
ちなみに、イギリス等のレディーファースト文化の起源は説が多くありますが、基本的には、扉の先など何があってもおかしくないところを先に通らせることで男が自身の身の安全を図ったという事から来ている、というのが世界的には有力視されています。
見栄であるものの常に先を歩く日本人は結構怖いもの知らずなのかも知れませんが、武家の妻は棟梁が眠る前に寝る事をあり得ないと言われていました。
これは、寝付く間という無防備な時間を守るのが妻の役目だとされていたからです。
起きている間であれば、何が来ても対処できるという自信でしょうか?
文化の違いが見られますね
大樹→( ;´・ω・`)もう迷わないよ