表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/57

第8話 いざ、実食

前回のあらすじ。


未知の領域にして、食物連鎖が支配する地…ジャングルへと足を踏み入れようとする大樹。

果たして、その道には何が待っているのか!?


頑張れ大樹、負けるな大樹。永遠に(とわに)


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「さて、記念すべき一歩。しかしながらただの一歩。それを今、踏み出すのだ。歴史的瞬間だな」


そう言いながら、大樹は一歩を踏み出す。

……筍事件で学んでいたため、慎重に、だが。


そして、そろ〜りと体重移動。動きからするとぬるりとかの方があっているかもしれない


ぬるぬる動きながら大樹は水を入手する方法をいくつか考え、そして食料。

次に出口である。

正確に言うならば、この階層から出る、と言うことになってしまうのだが全何階層あるかわからないというのも、心に負担が来る。


人間誰しも終わりなき闘いより終わりの見える方が楽なのだ。

背後から攻撃を受ける事を避けるために慎重に足音と、靴跡を残さず歩いていた大樹は巨大な蜂の巣を発見する。


オオスズメバチの様な地面に埋まっているタイプではなく、自重で千切れそうなぐらい巨大な釣鐘の様な形状の巣がぶら下がっていた。いや、実際に釣鐘以上の大きさである。

大樹は歩みを止めて、腰を落として半身になって考える。


はてさて、如何にしようかねえ。

進路を変えようかと考えて、首を振る。

今でさえ道無き道を進んでいると言うのにここ以外を進むとなると、背の高い草や下木を分け入って行くことになる。


そして、まず入った場所以外は道というか土が見えない状況であった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「うおっ!なんだ?」


そんな事を考えていた大樹の耳に


ふぅーん、ふぅーん


という音が聞こえた。

レーシングカーや蚊の羽音のようなモノだ。


もう通り過ぎた後なのだが、しかしそれでも違和感はあるもので思わず耳を(こす)ってしまう。


っ!やはり蜂か!ふむぅ、厄介だな。

ラノベでは大きいモノが恐ろしく書かれることが多い。

しかしながら、小さいモノと言うのもなかなか侮れ無い。


小さいモノは、その分攻撃の間合いが小さく懐に潜り込まねばならないが、その分対応しにくいのである。

小さいと一撃の攻撃力がその質量に見合ったものとなり、軽い。

しかし、毒を持つモノには関係ないだろう。


そう考えたのならば、なるほど蜂と言うのは太刀を持って闘うには向かないのである。

しかし、進まねば一生を、日の当たる地下(?)で過ごす事になってしまう。


普通なら躊躇する状況であるが、この世界は魔法のあるファンタジーの世界。

手段はいくつか無い訳では無い。


大樹はまず松明を作る。

実際に作ってみるとなかなか難しいのだが、一応作った事があった為数十秒で作れた。

そう、煙で巣を燻すのである。


そして、蜂が冬になるとどんな感じで過ごしているかご存じだろうか?

動くのをやめるのである。蜂は温度が低ければ活動が遅くなるのである。

すなわち、役立たず扱いであった、<吸熱>が日の目を見ることになったのだ。地下だが。


さて、いざ行かんと火種を保管している竹に松明を近づけて燃やす。

この竹の中に火種を保管した道具は、忍者がライターとして使い焙烙玉を使う時に火種として使っていた道具だ。


ある程度近づくと、蜂が出て来たようである。

出てきた、と言い切りでないのは見えない程速いからであり、名付けるならば神速蜂と言ったところであろうか。


さて、まずは煙で巣を燻し、並行作業で吸熱を唱える。

松明を巣の下に刺して燻しながら、刀を構える。


準備が整う前からちょくちょく襲おうとするが、思うようにいかないようでギリギリ視認出来ない事もない。

その状況で斬っていく。

段々と手応えを得て来たようで一度に二、三匹切ることも容易い。


段々と松明が切れて来たようでそれに反比例するかの如く速くなっていく。

しかし、いきなり高い水準の事をこなす事は出来ないかもしれない。

だが、ゆっくりと慣らしながらやったのならば……対応出来ない事もない。


それでも、戦争は数だと公国の偉い人が言っていた様に、数と言うのは強みである。そして、大樹も蜂が大量に来て、<吸熱>の効果で熱が体に篭り頭がぼーっとしてきていた。


今はもうMPが尽きた為ゆっくりと熱が放出されているが、まだ暑い。

しかし、大樹が最初の方は刀で近づいて来るのを全て無我夢中で切り裂いていったことから数が少なくなっていた。


「いやあ死ぬかと思ったよ。段々蜂の動きがスローモーションになっていたからね。きっと、血が来なかったんだな」


そんな事を大樹は思っているが、神速蜂は銃弾の様に早く、縦横無尽に動く。

それを特殊な能力も無しにひたすら集中しただけで見切るのは一つか二つ壁を超えたと言って良いだろう。


しかも、思考が加速している間に様々な血管が切れかかっていたが、切れなかったのはゴキブリじみた生命力のお陰である。

そうでなければ、蜂以前に死んでいただろう。


しかし、それを危なかったァの一言で済ませられるのは・・・・知らないからに違いない。

ついでに、大樹は一、二時間と考えているが、二日間戦い続けていたりする。


しばらく経ち、蜂の巣からの増援は無くなってホッと一息。

大樹は刀の(つば)で学ランの腰のベルトに固定する。


長い間着っぱなしと言う事もあって、皮の色が褪せているだけでなく擦り切れてぼろぼろの部分もある。

学ランなどは、金猪に跳ね飛ばされて岩の散弾を食らった時に所々穴が開いている。

しかし、これは自分が自分で在る為にはまだ少し時間が必要だから、と、手放せないのだ。

自分と言うのは一体なんなのか、自己保存の為、大樹が自分を見失わない様にして、性格破綻を防ぐためだ。


異世界に来ても何食わない顔で生活しているように見えても案外ストレスと言うのはバカにならないもので、他者と交流できない事、生命の危機に常にさらされていると言う事等は蓄積していった。


娯楽は無く、食事と修行にしか生き甲斐が無く、限界近い所で街に行こうとして落ちた。


そして、今日異世界に来て約10ヵ月が経った。

この世界に来たのが中学の高校受験前の最後の定期考査。


つまり……本来なら、ば。

本来ならば、だ。

受験は、終わって、いる。

すなわち。


我慢の限界が来ていた。


そんな時だからこそ、女々しいと言われようとも学ランを見ることによって、楽しかった思い出、辛かった事、大変だった事、九死に一生を得た事、七転八倒な人生、やり残した事への執念を強めてるのだ。


……負の印象が多いが。

それは兎も角。


つまりはそう言う事なのだ。

…どう言う事なんだろうか


さて、現在(いま)の話に戻ろう。


〜#〜#〜#〜#


神速蜂とのお互いの全て()を燃やし尽くす程の闘い(負けたら食べられる)を繰り広げた大樹は、戦利品を回収すべくのそのそと動き出した。


まず、最初に狙いをつけたのは、極めて簡単。

蜂の死骸である。


落ちて来る前からずっと使い続けている、不格好ながら愛着のある巨大な土鍋に入れて行く。

そして次は、蜂の巣で食材と聞けば8割型の人がコレ、と答えるだろう食材(モノ)、ハチミツだ。

スズメバチの様なナリをしておきながら蜂蜜を溜め込んでいるのである。


コレを取る為にまずは蜂の子も土鍋に入れて、生き残りの蜂と女王蜂をどっかにやってから作業に取り掛かる。


「また、巣を作ってくれよ〜」


搾取するつもり満々の顔で、“森にお帰り”と言わんばかりに解放する。


ハチミツは巨大な蓮の葉のように見えない事もない葉っぱに蜂の巣の中身を置き、丁寧に畳んで一箇所だけ穴を開けておく。


そして、穴を竹の水筒(ストックは豊富)に向けて


「フンッ!」


グイッと絞って、流し込む。


琥珀色の液体は器を多く消費しながら溢れ出切った。

そして、早速それを使おうと考えていた。


蜂の死骸をでかい土鍋を使って煮込む。

ちなみに味付けは甘味のあるカブのような見た目の植物を絞って出した汁と、ハチミツ。


女王蜂は入っていないから厳密には親子では無いものの、一種の親子丼になりそうである。

その隣では、地下で死闘を繰り広げたトカゲの無事な部分を焼いていた。


〜#〜#〜#〜#〜#〜#〜#〜#〜#


さて、トンガリ焼いた肉と…ん?トンガリじゃ無いな、コンガリだな。全く、ストレスでボケただろうか?

ス◯夫の劣化版を食おうとなんてしてないし……


ー勝手に劣化版にするなと言う声が聞こえて来そうで在る。


さて、時間と手間暇を惜しまずに俺は丁寧に真心を込めて調理したんだ。

まずい訳が無い…筈だ。

いざ、実食。


まずは蜂本体である。

一口め。


「ふむ、サクッとしていて美味いな。甘味もくどく無くて良い。しかしそれでいて深みがあるんだから素晴らしいと思うね。流石俺。」


次は、蜂の子だ。


「ふんふん。ん、コレはクリーミーだな。中からとろーり溶けてる。うん。昔を思い出す程クリーミー。大樹、感激。一つ一つがプチィッ!って良いイクラを食べた時と同じ歯応え。…流石俺。」


さて、地球にいた時からワニとかは食べていたけど、トカゲは無いな。

イモリはあるが。一体どんな味かな?


トカゲを火から外して、パクリと一口。

サクッと言う音の後に湧き出る肉汁。


噛みちぎった時には、黄金色の光が迸るかのように飛ぶ。

肉は繊維質であるように見えたが、木を削って作ったフォークで刺して筋を切ったのが功を奏したか、ホロリと解れて、舌の上を溶けるように滑り喉の奥へと消える。


味の余韻を愉しみながら、皮のサクッとした感触を楽しむ。


ドリンクを、と一口。

コレまたトカゲの血の入った、コレまたお馴染みの竹筒を煽り、飲む。

その血は、酸味は無く、あたかも熟成された年代物のワインの様にまろやかで、香り高い。


臭みや鉄分が含まれる事による鉄臭さも無く、喉越しも素晴らしい。

嗚呼、認めよう。

素材そのものもまた素晴らしい、と。


この様なシンプルな味付けであっても輝くこの旨味。


否、UMAMI。


最高だ。

最近の俺の腹は底無しだ。感謝しながら、食べよう。


〜@〜@〜@〜@〜@〜


大樹が蜂との戦いに疲れ、トカゲと、神速蜂を食べていた時、

音も無く巨大な蛇が大樹のうえの木を伝って来ていた。


この蛇は、蛇特有の滑らかな骨格と強靭なる筋肉。


手足のなさと言う点を活かし音もなく、あえて擬音を付けるならスルリと巨木を登って、その木の枝を伝って他の木へと移り徐々に大樹の方へと向かって行った。

そろりと迫り来る危機、蛇が頭上に到着した時、大樹は未だに食事中である。

上から来るぞ、気を付けろ


蛇はもう真上から大樹を絞め殺そうと降りている。


しかし、運の関わることに関してはちょっとおかしい大樹。


蛇の降下の最中に、大樹がトカゲの血を


 `グビッ”


とあおれば、上を向くことになり……


「ん?ゴフッ!」


 大樹が蛇に気づき、抜刀しながら跳びずさる。


間一髪と言う所で逃れることに成功した大樹は、その蛇……体長二メートルは下らない大蛇の頭を見る。

その頭の形から毒を持つと判断した大樹は冷や汗を隠せない。


“このくそデカいサイズで毒持ちかよッ!”


と。


蛇は大樹にとっては白ければあまり殺したくなかったが、アオダイショウに似ても似つかぬ風貌。何より毒持ちである。

殺すことに躊躇いはない。


一応大樹は、と言うより白鷺の一族は神道と仏教に()()

それらと近いと言うのは、白鷺の一族は先祖崇拝の気があるし、昔々……今は昔、ワンス・アポン・ア・タイム。

まあ、そう言う冒頭で始まるくらいには昔の時代。


白鷺は未だ白鷺に非ず。


白鷺は未だ苗字も無く、村……集落の長に過ぎなかった時。


その時は未だ妖怪変化、物の怪その様なものが跋扈しており、それに対抗する陰陽師もまだいなかった。


そしてその村には鬼が出て大層困っていた。

その様子を見かねた天照大御神は神鳥たるヤタノカラスを遣わし、鬼の来る時を教えてそれを聞いた村人は逃げていた。


最終的には痺れを切らした鬼が村に入ろうとした時に、仕掛けていた猪用の落とし穴に落ちて退治された。


この事から、この村の長は金の鷺に見えた八咫烏を崇拝し後に色々な幸運が積み重なって褒美に朝廷から苗字を賜る時に朝廷から賜った苗字を断ると言う暴挙を為した後に、


“そちは如何なる名を望むか?”


と、聞かれた時に鷺と神聖な色である白を貰い白鷺と名乗ったのである。

因みに、今の白鷺当代は四十三代目である。


白鷺の一族は天照大御神よりも、直に助けてくれた八咫烏しか崇拝していない。

だから、白鷺の一族は神道と仏教に近いのだ。


白鷺の一族は鳥の一族と呼ばれるが、他には(つるぎ)(かんなぎ)と呼ばれる一族がいる。

白鷺は地球上の各国に散らばっているが、巫は日本中、劔は東北にいる。


さて、それは兎の角であるのだが。


蛇と対峙した大樹は睨み合いとなっていた。

蛇と言うのは大概毒のあるもの程スマートで速い。


これは噛めば毒を回せるのだから必要以上に一撃の重みに拘る必要が無いためだ。

サソリにも言えるのだが、ハサミの小さいもの程毒が強い傾向にあるので気を付けて頂きたい。


さて、毒を持っていないものは決定打が無くてはならないが毒を持っていない。

ならばどうするかと言うと、巻きついて絞め殺す。


コレが王道であろうか。


大蛇の中で知名度と言う点においてニシキヘビなどの他の追随を許さないアナコンダ。

彼の蛇は水に引きずり込むと言う陸上の生物に対して必殺と言うべき技も持っているが、ここは湿地帯では無い為除外しよう。


つまりは、この大蛇は大物狙いなのでは無いか?と推測が出来る。

毒で弱らしながら巻き付いて殺し、骨を砕いた後にゆっくりと丸呑みする、と。


なにぶん、此処は異世界である。

灼竜などのファンタジー色溢れるドラゴンは兎も角、猪すらあそこまでデカいのだ。


それを捕食しようとするのならば、比例して大きくなるのかもしれない。

巨人否定説を覆す様な巨大二足歩行生物がいる可能性だって否定しきれない。

この世界最強たる龍の一柱、緑龍なんかはそんな巨人だろうと大樹は睨んでいる。


そして、現在(いま)


大樹は、右にそろりそろりと動いていく。


コレは、蛇の今の塒の巻具合(とぐろのまきぐあい)から考えたもので、今の状態であれば左に行けば塒は解けてしまう。


しかし、敢えて塒を巻かしたままにするために右へと回り込む。


コレによって、蛇は微妙に体を動かさねばならない。

そして、一瞬でも反応が遅れたりしたのならば、ズバッとやってしまう腹積もりである。


一応隙が生まれなかった場合には懐に入っている石を投擲するから、取らぬ狸の云々カンヌンにはしないつもりだ。


 大樹は肝を冷やしながらも、回る。

そして、痺れを切らしたのは……大樹だった。


石を投擲。


頭上すれすれを通り、木に当たって落ちる。


木は衝撃に揺れ、枝や葉っぱを落とす。


その刹那、大樹は全身全霊ながらも余分な力はかけず、引き切った。

そして、蛇は塒を巻いていた所為で刀の一振りで三つに(わか)たれた。


しかし、蛇は一匹では無かった。


むしろ、たくさん居て……



 夜寝ようとするとき。寝ている間。トイレの最中。ありとあらゆる時に

 蛇が来た。すると段々睡眠時間が少なくなり、隙も意図せずに少なくなってきた。気分は警察に狙われる犯人だ。


 しかし、十日間の合計睡眠時間が一時間というのは、生命力旺盛な大樹でもきつく……


 大樹の体は睡眠中でも唯の物音には起きず、動物の気配には反応して起きるという剣豪小説の剣士の様になっていた。


地味な超人化を進める男であった。

大樹→美味しいのは良いことだよ。甘いのは鬱陶しいけど


ヘビ→シュルシュルー



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ