第7話 つまり、恐竜は異世界に居たんだよぅッ!
大樹は走りながら、それの声を聞いていた。
そして、はち合わせた。
「うおゎッ!恐竜だとッ!?」
長い爪は暗闇の中であっても鋭い事が一目で分かる。
牙は頭の大きさに比べれば小振りであるが、それでも尖り、鋸状になっている時点で恐ろしい物に違いあるまい。その牙と牙の隙間からは唾液が溢れていた。
“食ってやるぞ”
という思いを隠そうともしない肉食系である。
それを証明するかの様に大樹の豚の様に良くなった鼻は口の匂いが恐ろしく生臭い事を嗅ぎ取っていた。
それの正体はジュoシックパークの常連とも言えるディノニクスのようなものだった。成る程、名前の由来となった爪は恐ろしい。
草食系の大樹は思わずブルってしまう。
「こいつは、やばそうだッ!」
槍を構え、切れ味の良すぎるが故に鞘のない刀を腰の抜きやすい位置に直す。
突きで決まらなかった場合、取り回しがききにくくなるからだ。
「スッ!フウウゥ」
大樹は呼吸を整え待つ。
槍の構えは、突きを重視した物と言うより薙ぎ払いに適した物で、突きの場合滑らせる為に片手は緩める物を握り締め、遠心力を乗せる為に長めに持っている。野球で言えば強振を狙っている様なものだろうか。
恐竜は、大樹の手前で止まると口を開けて吠えた。
大樹はそこで槍を投げようとした。
が、踏みだそうとした足がきかなかった。
見てみると、足を覆う感じで地面が盛り上がり田んぼにはまった様になっている。
足の自由が利かないと威力が殺されてしまう為、動かす様に足を捻ったり、引っ張ったが抜けない。抜けない事を理解して、嘆息。
恐竜の飛びかかりにも大した動揺もなく腰のひねりと刀の特性である引き斬る力に賭けて、円周運動を行ないながら、抜刀。
軸足がだめになっているため、居合いは出来ないが、振り抜いた。
「硬っっ!」まるで石のように硬い事に驚きつつも振り抜けば、大樹の人外の力によって恐竜は弾きとんだ。
刀で斬ると言うよりも殴りつけた、と言う表現が正しいかもしれない。
足が動かないため、腰も満足に回らず刀で引き斬ると言う動作が完璧にはできなかった。
もし出来ていたら刀のスペック的に斬れたと思われる。
しかし、そうであったとしても、だ。斬れないからと言って、己が吹き飛ぶ様な一撃を食らったならば。
例え、石のように硬くても……
“ギユアッアアアアアッッッッ”
無傷と言うことは無いのだ。
そうして、追撃を掛けようとしたところであったが、足が未だ固定されている為動けない。
足の岩を落とす為にスキーブーツの間に雪が入って氷になってしまった時の様に槍で遠心力を乗せ、叩けば少しずつ落ちて行く岩。
しかしそのせいで、恐竜が活動を再開していたことに反応が遅れわき腹に噛み付かれた。
「ぅぐぅ」
思わずたい焼きを……いや、大樹は、そのまま、槍の刃で背中を貫き、通す。
それでも離れないのは予想通りであった。
そのまま、流れる様な動作で、刀を抜こうとする……が、首を振りだし定まらない。
しかし、大樹の体に付いている何かが、痛みに呻く大樹の知らない所で反撃にでていた。
口に消化液をぶち込んだのだ。
`アアアアアアアアァ”
恐竜は顎を離す。
そして大樹が立ち上がり、金色に輝く灼竜じみた瞳孔で睨む。
そして、斬っ。
命を落としたと同時に大樹の瞳孔も元に戻るが疲れと出血によって
「キューー」っと声を残し倒れる。
しばらく経って…………
「っ痛ぅ」
痛みを感じて起きた大樹。
「ふう。寝ても覚めても真っ暗とはな。全く、今年はなんだ?呪われすぎだろ。一体全人類の内何人が異世界に来たことがあるのやら…」
ふむ、月も身近な異世界だと言ったのだから月面に立った宇宙飛行士は、全員異世界帰りの人間か?
そう考えると、俺らは異世界に探査用ロボットを送り込んでいる事になるのか。
考え方一つでここまで違うとはな。
いや、待て。流石に現実逃避の様な思考の脱線はやめよう。
何を考えてたんだっけ?
ふむ。
……何も考えてなかったか?
うむ、成る程。
これは、驚愕の事実という奴だな。
HAHAHA!
………ハア。
ああ、くそ。
現在の状況を整理しよう。
幸い、時間はたっぷりと、ある。
幸い……幸い?
〜#〜#〜#〜#〜#〜#〜#〜#〜#
命からがら、薄氷の勝利などの言葉が似合いそうな勝利、されど立派な勝利である生き残ると言う事を完遂した大樹。
恐竜の来た方へと歩きながら、
「それにしても驚いたなあ」
人は大きいことを成した後はひたすら同じことを呟くという。
大樹はここで、考えを深くし始める。
「この世界の生物は、自分に関係なく事象を起こせるのか」
ーいや、正確に言うならば
「おそらくあの時に作用反作用の法則は関係なく、俺の常識であった物理法則及び、手の届かない場所に手を加える事は出来ないと言う子供でも知っている事は地に伏したか」
大樹は自分の常識と食い違う場所を考える。
そして、それに関する事を考えながら、
「おかげで酷い目にあった。しかし、俺の体も大概出鱈目だ」
現状把握。自分の体を見ながら、確かな驚愕と自分自身でありながら若干の薄気味悪さを表情で見事に表現する。
「食われたはずのわき腹が戻っているんだから・・・しかも、傷跡まで戻るってどういうこっちゃ。色々おかしいな」
大樹の体はかなり傷ついていたが、もう傷跡ひとつない、とまでは言わないが全て塞がっているし、完治と言っても差し支え無い程治っていた。
そしてそれはおかしな事であるが、本当におかしいと思った事は、脇腹の古傷である。
無くなって、なおった肉体にも古傷……金猪の突進で付いた傷があるのだ。
そんな事を考えながら、自分の気になった点や考察、感想等を頭の中でまとめ、その中で比較的どうでも良いと思った事を呟く。
これは昔からの大樹の癖で、大事な事は頭の中に止めるために口に出さない。口に出すと頭から抜けるのでは無いか?と、小学生の頃に思ってから続けていたら習慣化されていた。
そんな事を続けながら、トカゲ……恐竜の出現した方へと歩いていく。
しばらくして
「何だこの階段は!」
階段の一段一段は石だろうか、黒くも赤くも見える色で、その表面は丁寧に削られており、階段の癖にツルツルと滑る。
この階段を作った奴は、美しければ本質を外れても良いと思っているバカか、気付かなかったバカ。
或いは、そうゆう風にしか削れない理由が、ナニか在ったのか…
そう大樹は考えながら、慎重に降りて行く。
「ふうむ。下への階段か。次は二回層ってところか。下なのに、明るいな。」
そう、下を覗いても明るいのだ。
本来ならば地上に近いこの場所の方が光溢れる地である事が当たり前である。
しかしその一つ下の回である階段の下から光が溢れている。
それは、灯が無ければおかしい筈なのだ。
余談だが、大樹は普通に階下をみているが常人なら暗い所に目が慣れているせいで、目が眩んでいてもおかしくない。
しかし、大樹はここよりも明るいと言う事実のみを把握し、目がくらむことなどなかった。
これはおかしな事なのだが、大樹自身、自分の目がいつの間にかおかしな物になっていた事に気づいていなかった。
もし気づいていたら、便利さに感嘆すると共に人間を辞めてしまっている事を嘆いていただろう。
驚き悲しみ嘆くそして特別感にほのかな喜びを感じる、そんな複雑さこそ大樹らしいと旧知の者は言う事だろう。補足すれば、階段が光っているとかそう言う訳ではないと言おう。
「よし、行ってみるかァ。」
そう言って大樹は下へと降りて行くと目に入ったのは、さんさんと輝く太陽。そして、うっそうとした森と言うより、ジャングル!
「……な、なんじゃこりゃあー」
決して大樹は撃たれて血みどろになっているわけでもない。
まず、刑事ではない
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さて、下の階層…便宜上地下二階とでも言おうか?に着いた俺は驚くべき光景を目にした。
何を隠そう、ジャングルである。もう一度言おう。ジャングル、で、ある。
ディグダグをやっていた気になっていたがまさか、ジャングルである。
インディアナのジョーンズさんが乗り移った気分ですらある。
地下二階でありながら太陽は成る程、作り物めいた感じはせず生命の営みには必要不可欠な暖かみ、温もりと言うべきものがある。
その地は、現代の地球社会に於ける保護対象として選ばれるほどの儚さは影もなく、むしろ我々人間を捕食してしまいそうに鬱蒼としていた。
この地を訪れた後になれば自然は破壊され尽くされない、と考えていた昔の人間を笑う事は出来ないだろう。
さて、そんなジャングルなのだが、おかしい。何がおかしいってこの階層がおかしい。
もし、この下にさらに階層があると、言うなら、ば。
言うならば、だ。
一体床の積載可能重量は幾つなのだ?
いや、良い。ファンタジーに無粋な物だと分かっているのだ。
だが、だがだ。
ダンジョン物の本を読んだ時に思わなかっただろうか。
ーなんで、海とかの階層があるの?と。
いや、別にダンジョンの考察隊では無い。
ずっと続けていたネットゲーム『まおうっ!』においても考察は考察ギルドの知恵の輪とか、頭沸かし隊に任していたのだから。
うん。ソウ、コレガふぁんたじーナンダヨ。
人生諦めが云々カンヌン
大樹→な、なんだってー
恐竜→無念