第5話 銀竜フィアス
あらすじ
猪がやって来た
大樹は、考えた
満身創痍に見える竜。
その竜の尾が迫りくる。
危機的状況ではゆっくりと物が動くというが、そのようなことはなく
大樹は尾の鱗の剥げた部分に狙いを定め、そこに右手の錆びた刀を突き立てるッ、と同時に棒高跳びの要領で全自重を刀に掛け、飛ぶ。
「刀よ、すまないっ」
と呟きながら、顔には若干の焦燥。
直近の危機を乗り越えたものの全自重を掛けて突き刺した為に刀は抜けず、しかして焦らずに流れるような動きで背に括った竹槍を投擲する構えに移行……
竜の右目目掛けて投擲っ。
普段木々の生い茂る山、それを活かして逃げる羽兎を百発百中と言わんばかりに槍で撃ち落としてきた大樹。
地球にいた頃から、何かと巻き込まれてきた大樹に此処一番の勝負で怖気付き手元を狂わす可愛気は無い。あったらとっくに死んでいる。
やはり、狙い違わず、竜の目に入る。
"GOAAAAAAAAAhaAAaaAA"
あまり深いところまで入らなかったが竜は暴れる。
瞬膜、瞼、共に降りずに苦しんでいる今が好機である。
大樹は釘を深くまで入れるように、棍棒で野球のバットを振るように腰の入った一撃を刺さった竹槍にいれると同時、潰れた様な音と共に竹槍の節が無くなったのか槍の先から色々出てきた。
竜は痙攣をびくんびくんとしながらのたうち 、大樹の所に巨体が倒れる。
自分を超える巨体が降ってくる事に顔がひきつっている大樹が潰れるっ!というところで、息絶えた。
そして普段ならやらないだろうフラグ立てをやらかした。
「やったか!」と
それもしょうがない事だろう。闘っている時も震えてたのだから……
そして、フラグだったのか何だったのか知らないが、
大樹は戦闘中攻撃を受けても、傷もないのに激痛と言うべきか、何かが流れ込むような感覚が訪れ、
「時限式攻撃を仕組んであっ!」
と、叫ぶも激痛が体に到達し、
「ガアアアッッッッタアアアアアオオオオアアアアアイイイ」
気絶した。
そして大樹は、 暫くして
「*%>+!<^<^<*~]{>#$」
雑音が、聴こえる……
「>|#{+<.*.>\*>|>|*|>|*」
何だろうか、心に染み込む様な感覚が……
「珍妙なる者よ、聞こえておるか?起きてはくれまいか?」
「あと五年待って欲しい」
五分と言う気分ではなく。
そのあとに珍妙っていう言葉が気に入らず、 跳ね起きながら、目を開けると
銀色の竜がいたのだ。
そして、今に至ると。
「落ち着いたか?」
何だ、パニックになる要素のほとんどを兼ね備えたものが……
いや、まて、第一印象は笑顔が大事だと。
大樹は笑顔で
「あぁ、大丈夫だ。すまない。俺は大樹。姓は白鷺、名は大樹だ。」
と名乗る。適応が早い。
すると、竜が驚いたような雰囲気がしたような気がする。爬虫類顔だからなんとなくなのだが……
「ふむう。もう少し驚くかと思ったが、豪傑の類だったか?」
パニック中である。
「ともかく我が同胞が迷惑をかけた。奴は灼竜と言ってな、あのように狂う前までは龍になれるかも……
と、言われておったのだが……兎に角すまなかった。奴は魔力に呑まれてしまい魔竜となった、我らの不始末。我の出来る範囲のことで償いたい。」
いったい何のことであろうか?謎の用語は脳を滑り、焦りは声を脳に届けなかった。
女神よりも流暢な日本語であることなど最早どうでも良い。
詫びと言われても、何と言うのがとっさに思い付かないのは無欲なのか、一転して強欲なのか?
大樹は混乱のあまり、これは夢なのではないか、とすら思っていた。
そうでなければ、漏らしながら腰を抜かし、言葉を吐くことなど出来ようはずもない。
素晴らしい眠りから少し目が覚めて、微睡んでいるようなそんな感覚の中で思考する。
すると一転して何か肝が座る感覚と共に
背中に乗せて飛んでというのは、掴まるところが無いから落ちて死にそうだ。
やはり薬草とか常識だ。
「知識をください」
加速した思考、自立した口
大樹は今何を考えたか、言ったかもよくわからなくなる。
「ふむ、主は知恵の探求者、かの?」
と竜は尋ねる。
知恵の探求者、何それカッコいい。
いつか名乗ってみたくもあるが、と境遇を語ると、
「苦労しているな」と言われた。
ドラゴンに同情される人生と言う時点で中々、極まっていると思う。
勉強をしなくても良いと言うのは嬉しい様な勿体無い様な気がする物だが話し相手がいないと言うのも辛いものである。
最近は兎(死体)に話しかけていた。
シュールを越して恐ろしさすら感じられる。
最近の自分を考えると、棍棒を振り回して薙ぎ倒し、命を刈り取っていた。
蛮族とか言わないで欲しい
そんなことを考えていると、あらかた必要なことを教えておこうと言われた。
「では頭に直接入れよう」
「?」
そして一瞬の空白、これはタンスの角に小指をぶつけると一瞬何も感じなくなるようなもので、すぐに……
「あ、頭ぎゃああああっったああああういこおっっっっ」
そして、意識を失った。こんな展開ばっかりだ。
そして銀竜……まだ名前を聞いていない……に起こされた。
「む、起きたようだな。人には耐えがたきものか?」
きつかったと言うものを越えている。まったく
「つらかった。名前は何だったかな?」
「大樹と言ってたぞ?」
ナチュラルなボケまでありがとう。
「いや、俺のじゃあ無くだよ」
「言ってなかったか、これは失敬。我はフィアスと言う」
「フィアス。分かった。あと、すごい量の知識を入れてくれたみたいだな。感謝する」
「うむ。知識が必要になった時該当する物が思い浮かぶだろう」
すごいものである。受験生が泣いて喜ぶ
つまり自分だ
「思ったより長居してしまった。本当に迷惑かけたな。そろそろお暇させていただこう」
え、もう?
「主は三日意識を失っておった故に。では、縁があったらまた会おう」
そして銀竜改めフィアスが去った。
また会おう!
異世界初の会話が竜か。それもまた、異世界の醍醐味だろうか?
大樹は膨大な知識によってすっかりフィアスに親近感というべきものすら覚えていた。どうにも他人に思えないという奴である。
同じ知識を共有しているのだから当然かもしれないが、すっかり恐怖も失せた大樹は、別れを惜しんだ。
~✴️
「進行が早すぎるのだよ。
確かにモブの省略のしかたときたら、十五年ぐらいが二、三話だからな。下手すると数人で一話ということも……」
まさかね
釈迦も唯我独尊……自分は世界に一つって言っていた。
ならば俺は俺という物語の主人公さっ!
と、あっさりした進行に大樹が考えている
「力としては、強い力に振り回されてしまうだろう、これぐらいが一番だ。大切な物大切なものさえ守る力があればな。」
よくある主人公の様に、「守ってやる!」的な要素0の大樹だが
「いや、そうすると今のままじゃあ弱いな。」
まだ不安があるようで
「何時病気になってもおかしく無い状況で、何時食料が無くなるか分からないのに一人なのだから。拠点も未だ風よけしかないし、できる限り頑張らなくては。
物語の中の連中の様に、どんなところでも自分を貫く事は出来ないのだから。さあ、稽古だ」
と、考える大樹だったが地で我が道を行くっ!というタイプだ。
「うん?竜の死体が残ってるのか」
気になった大樹は竜の死体に近ずくと、ふと刀のことを思い出したため、尾に向かって視線を向けると、刀は刺さったままだ。
中で折れてなければ良いのだが……
柄に手をのばし刀を引き抜くとスウーーっと錆びていない刀身が現れる。
「なぜ?」
大樹の呟きが青空に溶けていった。
ーーーーーー
竜から取れたというのが肝に思える。
なぜならば竜から取れたということは日本神話、古事記にも記されている須佐男命と八又大蛇の神話のようになっているのではないか?と、予測できるからだ。
須佐男命、大蛇の尾より取れしは見事なる一本の剣。是即ち天叢雲剣といふなり。
つまりこいつは天叢雲剣といえるのだろうか?
しかし疑問に思うのは、この剣がここにある理由である。
しかし、理由はどうであれこの剣があれば主人公になれそうですらある、と。
そう錯覚すらしてしまう。
こういう神刀持ちって良くある前世が〜っとかいう物が、あるわけで?
はっ!だから俺ってば邪魔だと?
等と大樹は自分に都合の良いような予測を立てている。
まだ神刀とも決まっていないのに、だ。
そうしないと泣きそうなぐらい寂しいのもあるが……元々大樹は大勢に囲まれて安心するのだ。
よしっ!気合いをいれよう!バリバリ狩って、己を高めるのだ!
取り敢えずこの劔は便宜上天野群雲とした上で、基本的には刀と言おう。
なんか、下手にメジャーだと似非にしか思えない神刀だが頑張ろう
大樹は心新たに努力を誓うが、誰も前提からして違う可能性を指摘することはなかった。
孤独ゆえに
~~✴️
さて、地道な努力を積むしかない今日この頃。
今、近くにある物と言えば死亡してからしばらくしているのに柔らかく、温かい竜。
大樹は灼竜を見て色々な事を考えていた。
主に食べたらどうなるか?がほとんどであるが、
「毒的な物があるのだろうか?それとも特殊効果があって強くなるのだろうか?毒にしても痛みを伴うのかだ。
でもドラゴンってどこの作品でも美味いって書いてある。
待てよ……確か肉食は美味く無いんじゃあなかったか?しかし、ワニは好きだ、ううん」
大樹は自覚はないが味にうるさい。
そんな大樹だから初めて銀竜フィアスに入れて貰った知識を使うことにした。
しかし、必要な知識の中に魔竜化した竜を食べたら?等という物もなく仕方なく薄く切って直火で焼いてみた大樹。
「肉に火が通らない?流石に時間が空いているから火を通さない訳にはいかない。お腹弱いし」
腹が弱いので無く肝っ玉は据わってるのに肝心な所で腹を下すだけだが、ソレは兎も角……
結局、茹でる事にして木をくり抜いた鍋に水を加え茹でる。
薄切りにするのにも刀を使っている。
石包丁はもはやインテリア。
「む?臭いはラム肉のような好みが分かれる臭いだな。
歯ごたえは・・・ほう。溶けるような柔らかさ、繊維が舌でもほぐせる。しかし油がくどく無いとは・・・しかしこれはうまいな」
そう言いながら大樹は灼竜の血を飲む。不思議な味わいで美味いのだ。
腐り易い臓物はささっと食べられる分食べ、残りは深い穴を掘り捨てた。
他のは、燻しつつ食べる。
いつしか大樹の埋めた竜の臓物は地中から消え、大樹も気づかぬうちにおかしい程食べ続けていた。
体を作るのに使われ文字通り血肉となっているため、そしてある生物が大樹を宿主にすることにしていた為であり、故に灼竜は骨と爪、牙、鱗そして不味くて食べられなかった皮以外姿を消していた。
骨なども焼いて食べようとしていたが、一向に焦げ目一つ付かなかった為泣く泣く諦めた。
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食後の大樹は食べすぎた事に驚き、戸惑っていたが知識を漁る事にした。
どうせ関わることはないことであるから読み飛ばしても何ら障害はないが、そういうものを漁るのが趣味である。
魔法・・・・種類が色々ある。
魔竜・・・・魔法の深淵と呼ばれる物に呑まれた竜。
深淵に呑まれた人族、邪族を魔人、魔族と言い、理性無く呑まれると魔獣。動物もなる。
深淵に呑まれる・・抵抗値よりも多くの魔を受けたことによって暴走
する事。
主に強さに貪欲で焦っている者、狂気を宿した者がなる。
大概は精神が崩壊し、知能も低くなる。
ただ、呑まれる前に繰り返し使っていた技は使える
魔法も含める。
等の疑問をフィアスとの会話で得ていたため知識を漁った。
「そう言えば、灼竜は龍に近いって言われていたらしいけどまさか……竜の進化形態が龍なのか?でもあれって由来が、違うのでは無かったか?いや、馬が祖なんだよな?……それは地球の神話か」
等とつぶやく大樹。気になった為、知識で龍を調べると、
龍・・・・・世界にその存在をしらしめた、物。
生物、無機物問わず、この世のものすべて。
また、世界にしらしめるとは、世間に知られる事では無い。
なので、生まれたばかりでも可能性はある。
現存しているのは六つ
一、赤龍・・・バルモルス 種族 竜
二、雪龍・・・エストリア 種族 デーモンロード
三、緑龍・・・グリューザ 種族 巨人
四、鉱龍・・・エリシュタル 種族 鉱石
五、暗龍・・・モーレラル 種族 闇の住人
六、剣龍・・・サルラーン 種族 剣
と出てきた。
ちなみに数字は大樹が分かり易くする為に適当に振った物な為、強さの順番では無い。
「な、なるほど。これが龍か。竜は一匹しかいないのだな。」
そう。龍とはどんな種族でもなれる。
只、種族の地力の問題でなり易さが変わってくるのだ。
たとえば
赤龍は、その力、数多のブレス、知恵によって、
雪龍は、圧倒的な魔力、不滅の魂によって、
緑龍は、星そのものから力を譲り受け、
鉱龍は、何物にも屈しない硬さ、星の祝福の下、
暗龍は、闇を概念化されて尚、光と相反する事なく、
剣龍は、龍殺し、その骨と血で強化され、
龍となった。
ちなみに、龍になったモノの名は、龍の頂という場所の石版に消されると同時、刻まれることが多い。
なぜならば、龍を殺す事が龍への近道だからだ。
そして、大概の龍は恐怖の対象であり時たま討伐軍が作られる。
大抵の討伐軍は蒸発するが……
剣龍は、人族の中の最大級というより唯一の宗教団体(ディネアを敬う)が龍とは知らず、神器としてまつっている。
誰も使えないため若干埃をかぶっていたりしており、意思を持っているのでかなり現状にご立腹である。
「うん?この世界の物だから、神は含まれないのかな?
もし含まれているんだったら、ディネアを殺してくれないものか」
神は世界の違いで表されないが見事なまでの他力本願っぷりである。
「まあ、がんばって力をつける他ないか」
詳しく知った所で関係あるまい、と思いつつ、大樹は知識漁りを終えた。
「傷用に薬草でも採ってくるか」
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薬草は、大量に生えており希少だという物も山ほど採れた。
ちなみに採ってきた薬草の基準は加工が楽で保存が利く事だ。
大樹は彫刻刀で木や竹で入れ物を作りどんどん加工していった。
その間も鍛えてはいたが、余り以前とは変わらない。そのせいで、
「竜食べたというのに力が変わんないではないか!」
と、嘆いていた。
しかし、確かに変わっていることもあって、切り傷程度だと水で洗って翌日になると、跡が少し残っている程度になる。
一番効果の低い薬草でも塗ろうものなら赤子の肌のようになっている。
地味だが、人間をやめていると言える。
何より、非常に燃費が悪い。驚くほどに悪い。一日食べないだけで死にかけるのだ。
ただ、救済措置なのか食いだめを体型を変えずに出来るようになった。
新陳代謝も良かったり、髪の毛が伸びるのが早かったり洗わなくても艶があったり、カッターでも切れないとか、燃えにくいとか、大樹の確認しているだけでも地味な人間離れをしていると言える。
そして、元々目は悪くなかったのだが先住民の様に遠くまで見え、耳が一キロ先で針が落ちた音が聞こえる……とまではいかないが、浅い所の地下水脈は分かる。
外せないこととして、異世界と言ったら何か?……魔法である。
そう、魔法である。
魔法を知識から手に入れる事が出来たのだ。
発光・・・体が光る
吸熱・・・周りの気体の温度を0度近くまで下げる。そのかわり自分が暑い
治癒・・・自己治癒能力の活発化
送風・・・風(微風)を送る
火種・・・小さな火種を火から作る
土地観・・2〜3回来た場所を完璧に把握する(常時発動)
と言った物である。
これに対して大樹は
「なぜ日本語っ!ライトとかヒールとかエアーコントロールとか横文字でカッコ良くしょうぜ」
と言っていたが使ってみると……
発光を家を夜造るために使用・・・・蛾やらなんやらが集結
吸熱を氷を造ろうとして使用・・・気温のみで水温の変化なし
治癒・・・・使っていると怪我した箇所がヌメヌメ動き皮膚が回復した。少々グロい
送風・・・・火を少し強くする程度。土も飛ばせない。火種は発火する
火種・・・・火から一日放っておいても大丈夫な火種が……
「しょぼい。うん。これはこの名前がぴったりだ。吸熱とか普通気温が下がったら水温も下がるだろ。隔離しているのか……?」
ファンタジーなので。
ちなみにこの世界では大樹以外、魔法の名前が横文字な上に殆どの人の魔法の効果が大樹より高い為、
土地観>火種>吸熱>送風>治癒の元となった魔法が順番で評価を得ている。
大樹は治癒=土地観>火種>送風>吸熱である。
普通の人が使っても治癒は大した事がない。
しかし大樹の治癒能力は素体として可笑しい為、実用向けなのだ。
まあ一言で言うと
「地味な魔法だなあ」
と言う訳である。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
大樹は今、暗闇の広がる穴に落ちていた。
「ちぃ!俺の人生は落ちることが転機なのかああ!」
再び落ちていた。今回は浮遊感もあるため股間のふわっとする感覚に堪えながら。
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覚えているだろうか?
この山には魔竜化したとは言え龍にちかいと言われていた化け物と戦った化け物が居たのを
金猪は竜が倒され、大樹が気絶した後にのそのそと森に帰りました
大樹→混乱
金猪→森へ帰ろう
灼竜→死亡
銀竜→罪悪感
23年2/14修正