第46話 来たるは手紙
内容がないよう
下らない洒落ですが、スカスカです。ご容赦を。
「ここからどう動く?」
王都は目と鼻の先だが、ザイナスはラセツに問う。
「……戦力は、戻していいぞ」
ラセツが言ったことは衝撃的であった。
それすなわち、兵士は要らないということなのであったから。
「どういうことだ?」
「これだ」
ラセツが手に持っていたのは、羊皮紙であったことから、
「誰からだ?」
「読んでみてくれ」
ザイナスはラセツに言われて読み始め……
「本当か?」
そう言う。
「分からない。分からないとしか言いようがないな」
ラセツはそう言うしかなかった。
ーーーー少し前ーーーーー
「赤っ恥だ!」
「そうでしょうか?」
「そうだ、これ程の恥は……ん?」
「どうしましたか?」
「伝令らしい」
ラセツの聴力によって、伝令の足音が捉えられた。
「でんれぇえ!!伝令です!」
「ご苦労」
ビミが受け取り、全体を触った後にラセツに渡す。
「俺の方が肉体的に丈夫なんだから、安全確認はしなくてもいいんだぞ?」
「そうもいきません。私の主になるのですから、そこはしっかりとしていただきたい」
「まぁ、お前を配下にするに必要だというのならそうしよう。配下の自慢の主になりたいからな」
「そうなさってください」
「もっとも、あれは間違いなくあいつだからな、そのようなことはしないだろう」
ラセツは、そんな軽口を叩きながら、羊皮紙を見る。
「封がしてあるのか……うん?この紋は」
ラセツが人差し指で封をなぞると、封が解けた。
ーーーー現在ーーーー
「そう、この手紙はまさかの第二後継者タイコウによる物だったというわけだ」
ラセツはそう言うが、ザイナスは衝撃的にすぎるこの手紙に驚きおののいた。
「と、いうわけで向こうからのお誘いだ」
「罠ではないのか?」
「そうしたらそっちの方が良い」
直に潰せるからな
「それは問題になるが?」
「やだなー、ザイナス。何も言っていないじゃないか」
「白々しい。まぁ、分かった。誰で行く?」
ザイナスが聞けば、
「エレン、俺、ザイナスで行こう。サック……は復興に回そう。途中まではザモンを連れていく」
「ザモンがいれば、道中は万全か」
「あぁ、人の身であそこまでの領域だ。並のものには遅れはとらないだろう」
ラセツは、そう言いながら手紙をもう一度見る。
タイコウ、か。
随分と随分だな。
そこに書かれていた内容を要約するのであれば、
『妹を助けていただいて感謝する。
そのお礼と今後について話したいので、お茶でもどうだろうか?』
だ。
流石に王族の前に行くのだから、上位クラスでないと出ることはできないだろう。メインではないのだから。
一応、テレッシアの国家形態は
王
公爵
侯爵あるいは、同じ意味合いだが辺境伯
伯爵
子爵
男爵
である。
侯爵は元々は辺境伯だったが、便利な位置だったために独立し場所で辺境伯か、侯爵かが決まっている。
今回は、侯爵、辺境伯が一斉掃除出来たためビミ伯爵が上位貴族となっている。
公爵であれば、王以外とは同格以上。
エレンに畏まっているが、実際はザイナスの方が偉い。
もっとも、血は水よりも濃い。
兵士を従えられるのも、権威があるのもエレンである。
権力でみれば、ザイナスの力を越えるのは王でも難しいが……
財布を握っているというのは重要である。
キンユウ公爵と王族は絶対に敵対しない友好関係があればこそこのバランスを保てているのである。
タイコウは現時点では侯爵クラスの力を持っている。
何故ならば、現時点で第一後継者だからだ。
ザイナスとエレン、ラセツ、ザモン
四人での王都行きとなった。
「と、いうわけだ。」
ラセツがエレンに伝えると、エレンは間の抜けた顔をした。
ラセツは、それを見て笑うと、さっさと馬車に引っ込み考えをまとめる。
タイコウは間違いなく実力者であり、現時点で王都に滞在できているという時点でトップであることは間違いない。
下手をすれば他の貴族に暗殺されていてもおかしくないのだから。
次に、エレンの立場だ。
エレンはザイナスを始めとした有力貴族を味方につけている。
現時点においては、サックとザモンも味方であることから並みの戦力相手には負けることはないだろう。
だが、
「タイコウとエレン、どちらに兵がついていく?」
~✳️
ーーー王都ーーーーー
テレッシアの中心地と呼ばれる王都は、戦乱の中心となることもなくそのままであった。
衛生状況も整えられて、井戸も多くある。
飢饉が発生したときに、王都で炊き出しなどをやらなかったのも正解で、浮浪者が王都に集うこともなく、治世の乱れもほとんど無かった。
経済の中心はこの地であり、物流の中心もこの地、政治だってこの地で行われる。
王都は乱れることを許されぬ、絶対の場所なのだ。
つまり、王都では絶対に軍が動くことはあり得ない。
動くとしたら、外部組織だが、それはラセツとしてはどうしようもないし、もし動かれたとしても逃がす算段はついていた。
王都が迎えられる地になったのは極めて簡単なことであったのだ。
お互いが一切の攻撃を封じられる地、だからである。
とはいえ、お互いの個人戦闘は問題ない。
つまり、何かあったらラセツがタイコウの首を取りエレンを王にすることだって可能である。
卑怯に思えるかもしれないが、ラセツにとってはエレンを巻き込みという残酷なことをしているのだから、正直なところ、その程度で王位がとれるならばそれでも良いとすら思っていた。
「手段を選ぶのは、三流。手段を選ばないのが二流。手段を選べるのが一流」
ラセツは、所詮自分が二流だということは知っていた。
そして、それを知っているのだから、分相応に勝ちを拾わせてもらおうと決めていた。
「勝ち負け、下らないと言われればそれまでだが、復讐なんかに身を捧げている自分が一番下らない。そんな今、下らないといくら言われてもたいして堪えはしないな」
人の生き死にすらを勝ち負けという、それは人によっては顔をしかめられることなのだろう。
だが、タイコウ一人の首で数千人が救えるのだ。本望であろう。
人の命は平等である、それはエレンであろうとタイコウであろうと、今にも飢えそうな子供にしろ一緒だ。
だから、一人の命で数千人が救えるというのであれば、数千人をとろう。
平等であるならば、一人よりも数千の命の方が重いのだから。
ラセツは、人道にもとると知っていても、そう信じて疑わない。
馬車の上でラセツは風を感じながら、揺られる。
春はまだ遠い。
~✴️
タイコウは、ただ一人、執務室にいた。
必要なものだけが置かれた事務的な雰囲気な部屋は機能美と言われれば機能美、無機質と言われれば無機質。
木以外で家具などが作られることが少ないこの国ではという話で、その部屋は日本で言えば木の温もり感じるおしゃれな部屋と言えたが……
そんな実用性重視な部屋に、1つだけ無駄と言えるものがあった。
肖像画であった。
タイコウは、立ち上がり、肖像画を眺め、
「ふぅ」
一つ息を吐いて、ゆっくりと椅子に座った。
ガラスなどというものの無いこの国では、木枠の窓を開けることで風と外が見える。
タイコウは王都を見て、空を見て、
「今日は良い日になりそうだ」
暗殺も覚悟している人間が訪れようとしているのは、勿論知るよしもないが、今日死んでも良いぐらいの良い日だとは思った。
それなりの覚悟はしてこの日を迎えたのである。
準備をして、服を整え、食事やその他もろもろを済ませ、ゆとりをもって過ごす。
大局に関わるのであれば、ゆとりを。
タイコウは、心を落ち着けた。
~~✴️
ラセツの流儀は、数あれども、馬車の上にいるというのは流儀というわけではない。
ただ単に、狭い空間にいるのが嫌なのである。
自由気まま、自身あるがため、風が赴くままに進む船乗りのように、本来は明確な目的なんて言うものは作らずに旅する男である。
行きずりに言葉を交わし友を作るもよし、拳を交えることもあろう。
それで良いのだ、という旅人であるが今は違う。
何かを成すために何かを為す。
それもまた、悪くはない。
結局はどうなっても、悪くはない。で済ます適当な気質であった。
そんなラセツが起き上がると馬車がきしんだが、遠くを見る。
「……王都はそろそろか」
ハシビ街道を遡上し始めてかなりの時間がたつが、盗賊や野党がいると思っていたラセツは少し安心したものの、若干の不安もあった。
この国が飢えているから、大和に国民が増やせるのである。
これで来なかったら、と考えると恐ろしい。
タイコウ、ラセツはお互いが妙なゆとりをもっていた。
「「嗚呼、今日は良い日だなぁ」」
~~✳️
「ここが王都か」
大きな門がある石灰色のレンガに囲まれた王都は、堅牢そうな様子を見せていたが人口の増加には耐えられそうもない、閉じた空間となっていた。
全体的に人口が少ない理由は間違いなくこういう閉じた都市が理由だろうが、魔獣や魔物の脅威を考えれば仕方ないとしか言いようがない。
風土や気候、様々な理由があるものである。
例えば、地球とは違って石積の中でもしっかりと固められるようにコンクリートに近いものが隙間に使われている。
コンクリートはローマで一時期使われていたものの姿を消したことから、必要が無くなったのかも知れないが、ここでは堅牢にするためにコンクリートが編み出され、魔獣に対抗するために鉄器がしっかりと配備されている。
チャリオットが中心で騎馬が居ないのは必要性がないか、あるいは時代がそこまで行っていないか。
人類史のifモデルとして色々と気になるところである。
鉄器の製錬、下水道が未配備、井戸が釣瓶落としですらないという点、車輪が木で出来ている、油圧式ダンパーとは言わないがサスペンションの未開発による馬車の不安定さ。
小さいことでも、たくさん気になることがある。
パピルス(植物紙としての)があるのか、羊皮紙だけで事足りているからなのか……
いや、傭兵カードみたいな魔法の力を使った物もあることを考えれば、必要ないのだろうか?だが、識字率はそこまで高くないという。
地球の歴史から見ればちぐはぐだが、こちらから地球の歴史を見れば地球の歴史こそちぐはぐだろう。
どちらかを基準にすると頭がおかしくなりそうだ。
ラセツは頭を振ると、馬車の中に入った。
ハシビ街道はもうすぐ終わる。
「入ってくる前に、言ってくれないかしら?」
「……すまない」
ラセツは思わず謝ってしまう。
ラセツが馬車に入るときに、如何に軽功卓越といえどもラセツはそもそもが重いのだから、馬車は揺れる。
そもそもが変な揺れの馬車であるから、エレンは死人の方が顔色が良いと言いたい顔をしていた。
「だが、戻すときは馬車の中でやるんじゃないぞ」
「貴様は、鬼か」
「流石にそれは……」
ラセツは責め立てられる。
「しかし、吐瀉った物を馬車内で放置した場合の、感染症やその他もろもろのリスクを考えれば、エレンには馬車の外に向けてごめんあそばせして貰わないと……」
ザイナスはラセツをはたいた。
~✴️
エレンが無事に、馬車の外にごきげんようしたのでラセツは水でしっかりとうがいさせ、手の上で固形燃料を燃やすことで簡易的な熱源としぬるま湯を与える。
「熱くないの?」
落ち着いたエレンが尋ねると、
「体質的に問題ない」
ラセツがそう答え、
「面の皮と同じで、手の皮も厚いのだろう」
ザイナスがひどいことを言う。
「……ぷふっ」
「ザモン、覚えておくと良い」
「なぁっ」
ラセツは、固形燃料を消すべく両手を重ねて消火する。
空気が無くなるというか、外部からの空気の流入を絶つことで燃焼を止めただけである。
手の上でやった理由は、エレンの気を紛らわせるためのパフォーマンスに過ぎないため、特に意味はない。
固形燃料の作り方は結構簡単である。
家で暇をもて余しているのであれば、ちょちょっとやっても面白い。
固形燃料で炊ける釜や、南部鉄器でお湯を沸かしたりと楽しめる。
エタノール、酢酸カルシウム、水だけで作れる優れもの。
今回使ったのは、蒸留したアルコールに竹酢液を加えたことで作った固形燃料。
注意点は、素手で長い間触ったりするとかぶれてしまうこと。
エタノールはアルコールの為、合わない人は一瞬で赤くなってしまう。
だが、竹筒にぎっしり詰めて、必要量だけをとることも可能な便利アイテム。
火事にお気をつけを。
「というわけで、そろそろハシビ街道も終わり、王都だから中に入ったわけだ」
「そう、もうここまで帰ってきたのね」
「こちら側の道を使うものは少ない。人の多さでどの辺りかは分からないのは不便だな」
「まぁ、距離が分かったところで行く道は変わらないし、それもまた旅だな」
「旅ではないが、言わんとすることは分かる」
~~✴️
「ここは王都だ!身分を証明できるものを出せ」
兵士に言われた馬車の中は少し困った事態になる。
エレン→王族の名乗りをあげている
ザイナス→公爵
ザモン→英雄
ラセツ→ラセツ
騒ぎになるか、門前払いの二択である。
まずは、ラセツが
「これで良いか?」
傭兵のカードを出す。
「傭兵……何の用だ?ごろつきはお呼びでないぞ!」
「少し知り合いにようがあってな」
「知り合い?」
「あぁ、セイル商会に縁があるんだ」
「そうか、入れ!揉め事を起こすんじゃないぞ!」
「ありがとよ」
無事に入ることができた一行は、約束の場所を目指す。
~理由~
傭兵がカードだけで入れた理由は、馬車と馬の二つによります。
そこら辺の傭兵は馬にも馬車にも縁がないので、何かの理由があって借りているか、傭兵がメインでないか、と察せられるため王都へ入ることが許されました。
本来であれば審査に時間がかかる為次の日になることも十分にあり得たことです。
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ラセツ達はザモンに馬車を任せる。
ラセツ特製の薬品は、ラセツの血液や薬草、羊や牛の骨や角を混ぜ合わせたものである。
ラセツの血液は毒性を持っているため、強靭な肉体や精神力を持っていない限り死に至る恐ろしい薬であるが、ザモンクラスであれば余裕。
と、言うわけで負傷した足やその他に塗布することと、時間がザモンの傷を癒していた。
万全な状態のザモンであれば、十数人程度であれば蹴散らせるであろうから安心して馬車を任せているのだ。
本来であればサックを連れてきても良かったが、アテウマが無能であったことから内政関連まで手を伸ばしていたことから普請関連まで全て丸投げをしておいた。
ここでサックに経験を積ませておけば、ラセツの国を建国するときに内政関連を上手くやってくれるであろう、という試金石的にザイナスの領地を使っていた。
ラセツとしては、人材育成、ベテランの回収、根幹要員の能力把握、燻っている人材の勧誘がメインである。
現時点で、エレンを王にするだけであれば如何様にも出来るようにはしてある。
そもそもが、ザイナスと王家のパスが繋がった時点で半分勝ちである。
他の家にもお手紙をカキカキして、色好い返事をもらっている。
もっとも、色好い返事が来ない家があれば、それはそれで便利である。
なにせ、いきなり忠誠と能力を確かめ、ついでに褒美を与えられることから好感度アイテムの一種かと疑ってしまうほどだ。
ついでに、好感度アイテムからドロップすることになった従者や兵士から有能な人材をピックアップして、ジェフやザイナスの名前を全力で使って取り込む。
そこら辺の見極めは、サックとジェフを中心に有望な人材を投入することで王都にいる今でも行われている。
戦での勝ち負けで家がなくなるのはしょうがないと言う、救済は求めるな、自分でやれ、という文化なのも良かった。
そうでなければ、けしかけたラセツには恨みしか残っていない。
一部の優秀で敵に絶対に回したくなかったり、絶対に欲しい人材のいる陣営には積極的に戦いを挑んでいるが、有能だと返事も良いものしか返ってこないことから、直接交渉に乗り出すのが大変である。
と、ラセツは考えていた。
ザモンとサッククラスは中々居ないものの、貴族当主に有能なのがいるとどうしても引き抜きたくなってしまうが、諦めざる得ないということを繰り返している。
当主を取り込もうとしている時点で頭がおかしいとしか言い様がないだろう。
「よし、行くか?」
「ええ。行きましょう」
王城に入った。
~✴️
タイコウは、招待した客が王都に入ったことに気づいた。
窓からでは、ラセツ達が入った門を見ることはできない。
何より、見えたとしても気づくわけもないのだが。
気付いた理由はただ一つだが、常人であればそんなものはあり得ないという様な手段で気づいていた。
「とうとう来たか。」
タイコウは立ち上がり、大袈裟なまでに身振りを激しく感情を表す。
「今日というこの日を一体どれだけ待ちわびただろうか?」
タイコウは万感の思いを込めた声で、言葉を吐き出す。
長い間くすぶっていた思いが口から溢れだし、止まることを知らない。
その様はまるで、これ以上無いほどの好物をずっと我慢させられた挙げ句に、色々と理由がつけられてお預けになった挙げ句に、残酷だと言われてもう二度と食べられないと思っていた食材が手もとに届くような、そんな気分だった。
「……」
影が一つ、部屋に舞い降りる。
「どうした?」
タイコウは尋ねる。
「エレン王女が、王都に入られました」
「その事か。知っていた」
報告に対して、タイコウはただ一言を返した。
それは常人ではあり得ぬ状況だった。
衛星中継で生放送をやっていたのか?と言いたくなるような状況であり、絶対に知り得ぬ情報を伝えたら知っていると言われたような状況である。
影は、戦慄していたが動揺も何も見せず、汗一つ垂らさずにその言葉を受け止めた。
「準備をしないとな」
タイコウは王族にふさわしい優雅さと、気品を纏いながらも楽しそうな雰囲気を隠しきれず……隠していないのだろうが……部屋から出る。
「おもてなしをしなくてはならないな」
ラセツ→江戸時代ほど厳しくはない
エレン→王都の警備はザルね
ザイナス→あの兵士の目は節穴か?
ザモン→……兵士の質も落ちたものだ




