第45話 闘争の果てにこそ
お互いが戦う時に邪魔になったのは、距離であった。
ラセツは、中距離からだと微妙に手が届かない上に、矢が怖い。
サックは、矢をじっくりつがえる時間はない上に、必殺の距離ではない。
距離を詰めるタイミングが物を言う世界に入っていた。
1秒、いや、それ以下でも遅れればやられることは間違いない状況である。
サックを殺したくないラセツであるが、事ここに至れば優先順位が一気に下がる。
敵を味方にしたいから手加減しました。結果、自分が死にました。
流石に洒落にならない。
極力殺さない。
ただそれだけしか枷は着けずに戦う。
他方、サックもそれを感じた。
今までの、手加減等という侮辱を感じていた肌が、戦闘に対してサックは珍しく高揚しピリピリとしている。
この時点で、踏み込みにあわせて矢を放てたらサックの勝ち、合わせられなかったらラセツの勝ちという単純な図式が生まれた。
もちろん、集中力が切れて踏み込む前に矢を当てられたらラセツの敗けであるが。
ラセツは完全に立ち止まり、サックもまた、タイミングを図る。
「それにしても、川をどうやって渡ったんだ?」
「真っ先に渡りきっていたからだ」
軍師が一人で敵陣に突っ込んできたと?
バカにしてる。
「それは、それは。勇敢なことで」
ラセツはそう言いながら足の指だけで少しにじり寄る。
「そうでも、ない」
サックは、少し後ろに下がる。
周囲に目がいっていないが、現状は兵士の多くに見守られるなかでの戦いであり、サックは注意するものが多いということも挙げられる。
何より、ラセツが場所をぐるぐる回ったのは極めて簡単な理由があった。
サックの背後を川にさせるためである。
お互いが妙に汗が出てくる展開に、思わず笑ってしまう。
「そろそろ、決めようか?」
「いつでも」
ラセツもサックも、一気に緊張感を高める。
一合いで全てが決まる。
たんっ
軽い音と共に、ラセツが距離を詰める。
それを待っていたサックが射る。
ラセツは、避けきれないことを知っていた。
故に、左手を盾に差し出して、籠手と筋肉に期待する。
「ぜらぁっ!」
刃を返し、弓を弾き飛ばす。
その勢いのまま、柄を握った拳で顎を打ち抜いた。
「……っう。痛いな」
伸びたサックを足下に、ラセツは貫通こそしなかったものの、矢尻がしっかり刺さった腕を見た。
「おぉおお!」
「わぁああ!」
歓声を受けたラセツは、天群雲を持った右手を掲げた。
~✴️
「ぐ、ぐぅ」
呻き声をあげながら目覚めたサック。
「目覚めた気分はいかがかな?」
「はい、あく、ほいうほどでは、ないな」
「顎を打ち抜いたから言葉が出ないだろう。まぁ、命があっただけラッキーだな」
「ふ、そえでか」
「お前を打ち破った今、アテウマを倒す障害などない。俺の勝ちだろう?」
「……まけたか」
~~✴️
「さて、川もしっかり流れきっただろう」
ラセツが天幕から出ると、荒れ狂った川もどこかへ、すっかり穏やかな様相であった。
「ラセツよ、どうする?」
「ザイナスか、総大将が軽々しく出てくるものじゃないぞ?」
なんとも説得力の欠ける言葉をラセツが言う。
「とはいえ、ここまで来れば大丈夫でしょう」
ビミは、ある程度の見切りをつけたという。
「おいおい、ビミまで来るとはどういう事だ?一網打尽に出来てしまうだろう?」
「そのときはそのときだ。そして、どうする?」
ザイナスが問えば、
「掃討戦だろう。もう戦力はのこッ!」
「どうした?」
「無駄に逃げ回っている」
「何?」
アテウマを中心とした敗残兵が無駄に逃げ回っているという話であった。
「川で分断した結果とはいえ、やられたな。まぁ、ちょっと戦争が長引くだけで勝ちは確定している。残党狩りしてから行こう」
「そうだな、指揮は?」
「ビミのままでいいだろう?」
「戦場では必要なこととは言え、気分が滅入るとは、この事です」
「しょうがないな。たださえ国力の落ちているテレッシアに無能は要らないだろう?」
「要らないというよりは、今回はその処理が問題なのだ。ここで少しでも解決できるならばしておきたい」
「エレン様を戴冠させたら私はもうこの国の所属ではないのですが……」
「まぁ、良いじゃないか。能力を疑ってはいないが、ここでの功績も含めて報奨は出すぞ?」
「美味しいもので頼みますよ」
「その年になって、まだまだ食道楽か」
「この年だからですよ」
ビミは、そう言い残すと早速指揮を執るべく動き始めた。
「やはり有能だよな」
「残してくれても構わないぞ?」
「冗談だろう?ゴミを片付ける報酬ぐらい寄越せよ」
「ゴミ捨てと、宝石を見つける事、どちらが大変だと思う?」
「……人それぞれだな」
~豆知識~
掃討戦、あるいは残党狩り
遺恨の芽になりそうな物は摘み取っておきましょう。
恨まれるぐらいなら、殺しましょう。
という、敵を全て処理することで、戦闘の意思どころか、根こそぎを奪ってしまうので統治が安定してできます。
それを避ける方法の一種が婚姻関係であり、同族になることです。
根絶やしにされることはない、とまでは言いませんが、それなりに温情が期待できます。
~✳️
特に何も番狂わせは起こらず、兵士たちがプスプス死体をつついている。
時々当たりがいるようで、確認作業は大切だな。と思わされる。
「この後はどうする?」
ザイナスは、川のこちら側の戦場を尻目に尋ねる。
「総大将として俺が率いてもいいが、冬の間は動きに制約が課せられるから厳しい場所もある」
ラセツも、大して興味があるわけではないから、それに答える。
「川か?」
「そうだ。特に、この川は雪解けがそのまま流れているから兵士も疲弊するし、一戦終えたばかりの連中にもう一度鞭を入れるのは、な」
要約すれば、寒いから嫌だ。兵士もいやがるでしょう? だ。
「ラセツよ。自身の勝ち戦で作った勢いで動かせるであろう?」
「まぁ、まだ戦争の終結は宣言していないから可能だろうが……」
ラセツは乗り気ではない。
正直、今更ながらアテウマに構っているというのは人生という限りある資源の浪費なのではなかろうか? と。
要するに、
「時間の無駄に思えるからやりたくない」
ザイナスは、こいつはやはり頭がおかしい。
そう認識した後に、
「周辺貴族がアテウマを持ち上げる可能性もある、しっかり始末する必要があるだろう」
ラセツは、そういえば、と。
「前にこれを書かせたのを忘れていた」
懐をごそごそやると、
「どこから出てきた」
ザイナスが思わずそう言ってしまうほどの量の紙の束が出てくる。
「エレンを支持するという、貴族の声明書だ」
「……いつの間に?」
「まぁね。はぁ、でも追撃するしかないか」
「そうだな」
「仕方がない。間違って殺されでもしたらことだ。行ってくる」
ラセツは、思い腰を上げると、自軍を形成するべく動き出した。
~✴️
「サック、おい、サック」
寝ているサックに声をかけるのだが、中々起きない。
検査もかねて、しっかり顎も首筋も触ったが問題無さそうである。
顎関節もちゃんとしている。
「わっ!」
大声を出すと、
「なんだっ!」
サックが飛び退き、構える。
「よしよし、起きたな? サック」
「ここは……」
「俺の配下になったんだ。働け働け!」
寝起きで働かせようとするラセツは鬼である。
「アテウマの残党狩りだ。あと、ザモンを迎えにいくぞ」
急に捲し立てられて全く理解できないサックは
「ザモン? 死んだはずではないのか」
ザモンが生きているということは噛み砕くことに成功した。
頭の回転が速い。
「殺すわけないだろう? ザモンは、アテウマを殺さないかわりに俺の陣営に加わってもらう」
「は?」
~~✴️
こうして、サックとラセツで軍を率いることとなり、残党を潰すべく川を渡り、味方になると声明を出した貴族たちの手も借りて着々と進めていた。
「貴族の手をこんなに安易に借りても良いのか?」
サックは、貴族の貸し借りを嫌というほど知っている。
そのせいで、負けたといっても良いからだ。
「貸し借りも使い方、ってやつさ」
「使い方?」
「そうだな。俺達の派閥に入りたいというのであれば、功績をあげてみよ。今の貴様らは我々から信用も信頼も欠いた状態である。励め」
ラセツが、そういうと、
「……それは、」
サックは言葉を失う。
「そうだな。現時点では派閥に入って欲しいのは俺達だ。だがな、入らなくて損するのは一緒さ」
貴族は、エレンを支持する他ない。
支持しなかった場合、他の支持した貴族によって潰されるからだ。
全員支持しなければ、怖くはないかもしれないが疑心暗鬼は止まらない。
そもそもが、王家を中心にしているとはいえ王の下部組織が貴族というわけではなく、貴族の盟主が王である。
先代の賢王の政策が上手いこと行ったからこそ、王が一段階以上高い場所に座しているのである。
つまり、貴族を守るのは王を中心とした盟約を交わした国家であり、王族、すなわちエレンに従わないということはテレッシア人ではなく、テレッシアの貴族が攻め込む大義名分を与えることになる。
今回の場合はビミ伯爵家の次期当主すなわち息子と、従わない貴族の領地を切り取った場合好きにしろ、とラセツを中心にザイナス等が密約を交わしているので、伯爵家の影響力を強めることになった。
これによって、辺境に近い、すなわちラセツの本拠地に近いザイナスとビミの強化に成功し、父親の属するビミと、攻め込める位置にいるザイナスという二人の裏切らない協力者を作ることに成功した。
図式化すれば、今回一番利益を得ているのは間違いなくラセツである。
「貸し借りは、貸せる時だけにしておけ」
あと、
「貸したものは返ってこないのが普通だ、貸したから返ってくるとは思わない方がいい」
ラセツはそう言いながら、川を渡る。
アテウマの位置は分かっている。
すぐにカタはつくだろう。
~~✳️
アテウマが逃げ込んだ場所は分かっていた為、あっさりと見つかった。
倒木に足を取られて、足を痛めて動けない状態になっていたのである。
「見つけたぞ、アテウマ。腐っても王族だ、手荒な真似をするつもりはない、エレンを悲しませるつもりもないから、殺しもしない。ついてこい」
ラセツは、ラセツといえども、貴人への配慮は忘れていない。
そこら辺の兵士であったならば、問答無用で担ぎ上げるが、王族たるアテウマには乱暴ではあっても、一応の配慮を見せていた。
「は、っはは。そうか、エレンは、良いものを持ったな」
アテウマも、また、王族であった。
敗者は、決して見苦しくてはならない。
それは、勝者を貶めるだけではなく、戦いを汚し、己をも汚す行為だからだ。
勝者には、敬意を。
アテウマは、取り巻きの貴族達が出来て以降、鳴りを潜めていた王族としての気力、器量が再び戻っていた。
どんな時にでも王足らんとし、出来るのが真なる王なのであろう。
取り巻きに甘やかされていたときには出来なかったアテウマは、真なる王ではないのかもしれない。
だが、一番の危機にあってその気高さを思い出せたのであれば、王の器はあったのだろう。
ラセツはそう知っていたが故に乱暴はせず、ただ、待った。
「敗軍の将が破れたならば、首となるが必定。下手な情けは侮辱だ。斬れ」
……その気迫が、前から出せていたならば、俺はお前を選んだかもな。
ラセツは、そう思っていた。
だが、それは伝えない。それこそ侮辱だ、とラセツは考えたからである。
「俺は、ザモンが欲しい」
代わりに、別の事を話す。
「ザモンか、あれはよく尽くしてくれた。サック、お前にも感謝している」
アテウマの思ったことは、恨みではなく、感謝だけであった。
ただ、暗愚になった時であっても仕えてくれたことは申し訳なく思っていたが。
ラセツは、死の際にこそ本性が出るものだ、と思いながら、斬ることはできないと伝える。
「ザモンは、今でも俺に下ろうとはしないだろう。だが、お前の命と引き換えにならば、下ってくれるだろう」
「そうか、身代金のようなものか。確かに、そちらの方が敗残の将らしい。それならば、斬らずとも良い」
アテウマは、いかに戦争を終わらせるか考えていた。
始めたのが自分ならば、終わらせるのも自分だろう。と。
「というわけだ。来てもらう」
「是非とも、ついていきたい気持ちだが、立てない」
それもそうだ。
全員の考えていることが一致した。
「はっは」
「「はっはっは」」
「「「はっっはははははっは!!」」」
変な笑いが訪れた。
「俺が背負おう。兵士は外で戦後処理中だ」
ラセツはそういうと、アテウマを背負った。
「将が、敵を背負うならばもう少し気を使うべきだろう」
「その心は?」
「後ろから刺されても文句は言えないぞ?」
「そりゃぁ、死んだら文句も言えないからな」
妙に和気あいあいとした雰囲気で帰っていくが、兵士たちも妙に混ざって、気兼ねない。
「ラセツ様、とはいえあまり引き抜かれては困りますよ?」
「はっはっは、ならお前も来るか?」
「家族が居ますから」
「家族は大事にするべきだ」
ラセツが誘えば、家族を理由にされる。
そしてサックは家族を大事にしている兵を励ます。
そして、川を渡りきった。
~✴️
「で、どうして兄上を背負っているの?」
「そりゃぁ、アテウマが足をくじいたからだな」
「……」
エレンは頭痛が酷く、そろそろ目眩もしてきた。
頭がおかしい人と一緒にいることが、ここまで苦痛だったとは……
という、顔をしている。
「おいおい、戦場で戦うのは仕方のないことだ。だが、勝敗がついたのに、恨みを持ち続けるのはおかしなことだぞ?怨恨は何も生まないからな」
突っ込みどころが多い台詞である。
「こういうのが普通なのかしら?」
「普通ではないと思います」
ザイナスは悪影響だ、と考え引き離したい思いであるが報告は聞かねばならない。
「報告は、向こうでしよう。流石に報告も多くなるしな」
~~✴️
「というわけで、こちらの損害はこの程度に収まったな」
「上手く行った方か?」
「まぁ、チャリオット部隊を吸収できなかったことが微妙だが、チャリオットだけは貴族の子弟が中心だからな」
「後腐れなく始末できたならば、プラス、か」
「ウゾウ家の方をどうしますか?」
「あそこは、吸収する家をこちらで選別するか、ガワだけ貰って中身を丸ごと変えるかだな」
「どちらにしても、動く必要があるか」
「アテウマを正式な当主として置いても良いかもしれないな」
「他の家のものが許さないと思いますが?」
「やはりそうか」
「では、次期ビミ伯爵に取らせるか?」
「私の息子にですか……」
「却下、有能なのは理解しているが、自立するには十分でも領地が増えすぎれば破綻するぞ」
「では、王家直轄の地にしてしまうのはいかがでしょう」
「それが一番無難か?」
「それまで場繋ぎが必要だが、それが一番無難だろう。」
「あそこを取れる位置の貴族の声明書は無いのか?」
「ふむ、と、確か……」
ラセツが紙を捲る。
「あぁ、あったあった。ただ、立地がここからウゾウ家を挟んで向こう側の貴族はまだ橋渡しが出来ていないから無理だ」
「なら、早急に王都までの侵攻が必要か」
「侵攻じゃねぇよ。帰還だ帰還」
「大義名分か」
「細かいことに気を付けていればこそ、出来ることもあるからな」
会議はまとまり、ラセツはアテウマと共にザモンのもとに行くことにした。
~~~✳️
ザモンは、どちらの勢力も関われないような場所に腰を下ろしていた。
「鉄砲水の設計向こうにずらしていてよかった。」
ラセツは思わず呟いてしまった。
本来ならば、ここら辺の一帯は全て流されていてもおかしくなかったが、ザイナスが森林資源は便利だからやめてくれと言い出したから変更したのであった。
味方になれと言っておきながら、罠で殺すのは、中々の鬼畜生である。
ラセツは、戦場であってもサックと対峙したときぐらいにしかかかなかった量の冷や汗がどっと出ているのを感じる。
ザイナスに感謝をするラセツであった。
「……アテウマ様」
ザモンは、ラセツ達に気付くとそう言った。
ラセツとしては、先に声をかけて欲しかったものだが、旧主との別れであるから仕方のないものだ、と納得した。
「ザモン、済まなかった。」
アテウマは、ただ謝った。
「いえ、我々が道を誤らせてしまったのです」
ザモンは、自分にも非があったのだという。
アテウマとザモンは瞳から滝の如く涙を流し、どちらともなく歩み寄る。
ヒシリと抱き締めあい、私が悪かった、我々も悪かった、と自分を責め、相手を許す。
「うむうむ。美しきかな」
怨恨に生きる王も、まるで心が洗われるような、そんな気持ちであった。
ひとしきり抱き合った後に、アテウマとザモンはどこか照れが出たのか、抱擁をやめ、ラセツに話をふる。
「下れというが、どういうことなのかが分からない。説明をして貰っても構わないか?」
ザモンはそう言う。
「あぁ、勿論だ」
ラセツは、快諾して、話始めた。
「俺は、国を作ろうとしてい
~✴️
というわけだ」
ラセツは時間が飛んだような、妙な感覚に襲われていたが気にはしなかった。
「成る程、つまりはテレッシア人ではなくなるということか」
「そう言うことだ」
「もとより、生まれには頓着していない。過ごす場所が変わるだけだ」
ザモンは、大したことでもないという。
「良いのか?」
「構わない」
こうして、ラセツはザモンを配下に加えた。
サックとザモンというテレッシアにおいて最強格の二人を加えられたことは望外の喜びであった。
最強格を二人も有していながら繁栄できなかったウゾウ家は、残念である。
哀れ。
ラセツはテレッシアの中枢から綺麗に有能な人員だけを切り取り、吸収することに成功した。
彼らが、ラセツの国である大和の中枢になるのである。
一応冷遇されている人材をメインに引き抜きをしていたが、結構ごっそり引き抜いた事は否定しない。
勿論、ある程度の引き継ぎもさせたが全てが埋まるわけではない。
が、無能な上は始末できているのでその分働きやすい環境ができているだろうし、頑張ってほしい。
ビミと、ザイナスのところからはあまり引き抜かなかったのもその為なのだから。
さりげなく、友好勢力からも人材を引き抜くのはラセツの恐ろしさである。
ラセツは、しかし、と考える。
国家経営のノウハウもない状態で、国家運営なぞ出来るわけもない。
そもそもの枠組みすらないことや、ルールは自分で組み立てられることを加味しても、戦いだけにしか能がない俺に成せるものか。
現代に暮らす日本人が、自分を中心に国家を形成するなどは不可能。フィクションにすぎない。
ならば、ノウハウを蓄積し、それを専門にしている者を中核に添えて、自由に動かせる様に整えるのが最良であるに違いない。
思考を終えたラセツは、ある程度の未来図を作ろうとした癖に結局は丸投げするということしか思い付かなかった自身の無能を恨んだが、自身の限界を知っているということは強みであると考えていたが故に、特に気に病まなかった。
戦場において馬鹿は早死にするが、度を過ぎた馬鹿は死なないものである。
そして、この男が後者であることは言うまでもない。
~~✴️
「この後の計画だが、さっさとけりをつける他ないだろう」
夜。サックとザイナスにビミとラセツが机を囲んでいた。
「それは間違いない。国力を疲弊させるのは友好国になる俺からしても避けたい」
「ウゾウ家を通れば、王家まで一直線ですが……」
「アテウマと、サックが居れば通れるのでは?」
「いえ、それが出来るとは限らないのです」
「構わない。歯向かうというのであれば潰す」
「好戦的だな」
「ここまで動いたからな、流石にこれ以上は時間が使えない」
事実、ウゾウ家を中心に結集する動きもあり、結束が強まる前に潰すべきである。
「そう言うものか?ここまで来れば、準備してからの方が良いのではないか?」
「拙速巧遅、今であれば拙速だが時間をかけたとしても事態は好転しないだろうから、無理だ」
進軍することに決まり、ザモンとラセツを前線に、サックを軍師、ビミを総括、ザイナスを総大将に決め、進軍することになった。
~~~~~✳️
兵士の確保にも成功し、侵攻してきた当時のアテウマ軍と同等かそれ以上の兵力を揃えることにも成功していた。
「気が合う軍師でよかった。人材を集めるときに二手で別れて出来るからな」
ラセツにしろ、サックにしろ奇策よりも定石を重視する考えの安定性を求めるタイプである。
「だが、妙に、好みが別れているな」
「それはそうでしょう。我々は好む戦術が違うのですから。」
サックは硬く受け止める事によってすりつぶしを図る、寡兵には負けない陣を構成することを得意とする。
それに対してラセツは敵の攻撃を切り裂いて受け流す、多寡に関わらず凌げるものの、うっかりしたミスが全ての崩壊に繋がる紙一重戦術を好む。
ラセツが精鋭を集めたくてしょうがないのはこれが理由である。
数が劣っていても耐えきれるが、雑兵が混ざると一気に崩壊するため絶対精兵主義である。
「烏合の衆をぶつける方策は、お互いに疲弊するだけだから避けたいのだよ」
だが、多少の練度であれば指揮官や中核の力で底上げできる事も今回実証されたのでラセツがサックやザモンを始めとして有力な戦力を吸収に躍起になっていたのもそう言うことである。
残念なことにザモンの弟子はチャリオットに乗っていたようで、ヤモンガ等の有力兵を失ってしまい少々残念であったがサンシタを含めて水準以上の強者を引き込めたことでウハウハではある。
元々兵士が王族の所有であるため、貴族以外は刈り取らないのが基本であるが、今回は無駄に貴族の子弟が多かったために残党狩りをせざるを得なかった。
ラセツから見ても有力な将兵が複数人居たが、数人しか引き込みをしなかった。
微妙に貴族の子弟が混ざっていたり、引き込むには少々めんどくさい人員や、引き込むメリットとデメリットが釣り合っていなかったりした。
下級貴族の子弟であれば、もう二度と名前を名乗れない覚悟で来てもいいぞ‼️と引き込みを仕掛けることが出来るのだが、高度な教育を受けているが故に有能であるという将兵が多く、得てしてそう言う貴族は高位である。
高位だとしがらみが多くて、めんどくさい。
有能のおまけで無能がついてくるなら兎も角、無能のおまけが有能というのはあり得ない。
「とはいえ、これは予想外だ。」
そもそもの話である。
ラセツは、戦争の方式を完全には理解していなかった。
今回の戦争は、国対国ではなく内乱にすぎず、兵士は王族のものである。
つまりは、兵士にとっては王族を有していない勢力が王族を害するというのは反逆になってしまうということである。
「腐っても鯛とはこの事だ」
「ちょっと、それは誰のことかしら?」
鯛が怒っている。
「アテウマのことだよ」
ラセツは大して悪びれもせずに言う。
別に嘘は言っていない。
「というか、エレン。お前がここにいるのは想定外なのだが?」
この馬車に乗っているのは、サック、ラセツ、ザモン、ビミであったのだが、何故かザモンが御者に、ビミがエレンに変わっていた。
「御者にザモンは贅沢が過ぎないか?」
「すぐに対応できるからと、代わってくれたわ」
「……ふぅ。で、何のようだ?」
「あなたが、国を作るとして、何をしたいの?」
「何故、それを?」
「同盟を組むならば、当然でしょう?」
それもそうだ、
「俺の作る国は、強い国だ」
「強い国?戦争でもするの?」
「戦争も、しなくてはならない理由があるのであれば、するかもしれないな。だが、強い国とは戦争だけではないのだよ」
「例えば?」
「飢えること無き国、経済が成長している国、地形や自然を生かせてる国……それらも強い国だ」
話しているうちに、敵陣が見えてきた。
わたわたとしている敵陣を、ラセツは脆すぎて見ていられないと言わんばかりの顔をした後に、
「磨り潰すぞ」
「はっ!」
ラセツとサックは、ザモンが馬車を止めると同時に降りて、ザイナスやビミと合流し早速と言わんばかりに陣を組出す。
今回は、こちらが多数で練度も勝っているため、サックが軍師となり、ラセツとザモンが前線指揮官として戦闘に参加する。
~✴️
「こんなに圧勝してしまって良いのか?」
ラセツは思わず、声を出してしまう。
王族がいるというのは大きいアドバンテージであり、それはアテウマも強気になる訳だ、と思わずに居られなかった。
「敵は総崩れ、条約を結ぶどころか兵士がまず従わないと来たか」
「本来ならば、あれが正しい王国のあり方です」
「そうはいうが、な。ビミ、戦闘が起きると思って意気揚々と出ていった俺は赤っ恥だ」
我に続け~!
と叫んで突貫したラセツは兵士全員に見えている。
そして、鈍足のラセツが敵陣につく前に降参が受理されてしまい、一太刀も浴びせることができなかった。
カカッ!と走ることができたのであれば間に合ったのかもしれないが、アワレ
ラセツは足が遅いのであった。
兵士も、おぉおお!とか言って着いてきてくれていたが、まさかの降参。
ラセツは、
「兵士からの信用が下がったに違いない」
そう言った。
「そうでしょうか?」
ビミは首をかしげた
ラセツ→私が一番強いのだぁあ!
サック→顎が痛すぎる
ザイナス→疲れた
エレン→よく理解していない
ビミ→落武者狩りでござる
龍生→ブックマーク、評価、感想ありがとうございます!
~✳️
ラセツ→羞恥
ザイナス→拍子抜け
サック→予想通り
ビミ→兵糧も中々
兵士→流石はラセツ陛下だぜ!敵がびびって降伏したぞ!




