第39話 超絶技巧!英雄動くとき
書き溜め投稿ではなく、5カ月ぶりに書いたので慣れるまでお待ちください。
「準備はできたか?」
アテウマは、ザモンに聞く。
「ハッ」
ザモンは、ここまで取り立てて貰った恩をアテウマに感じ、その恩を少しでも返すべく戦っていた。
無論、ザモンほどの男であれば大概の場所で取り立てられただろうが己の凄さを自覚していないが故の自己評価である。
ちなみにアテウマの功績はザモンを取り立てた事、サック・ボウを留められていることである。
「うむ、期待しておるぞ」
偉そうにアテウマが言えば、ザモンは身を引き締める。
ザモンに人を見る目は期待してはいけない。
「ザモン」
そんなザモンに声をかける者が居た。
「サックか」
「ああ」
「……」
「何か言ってくれても良いだろうに、いつも沈黙を寄越して返すな?」
「難しいな」
「ふぅ。まぁ、いいさ。そんなお前だから信を持てる」
さて、
「ザモン、どう思った?」
「馬に乗ってるやつなど、見たこともない」
「ああ、そうだな。大和、と言ってたか?」
「聞いたことのない響きの国だ」
「やはりか。ここいらには小国が数あれども、あのような名はない」
「やることは変わらない……変えられない、か」
「貴族たちがまともならば、キンユウ公爵と今の取り巻きの貴族を交代できないものか……」
「なにがあった?」
「怪しげな輩がのさぼるは不愉快、潰せ。とさ。馬に乗るなど虚仮脅しよ、とも」
「……」
「何か言ってくれても良いだろうに」
「難しいな」
「ふぅ」
~✴️
年の明けた清々しい日は過ぎ、寒さに震える最も寒い日も過ぎた昼下がり。
「これより始まる戦は、歴史に残る一戦である! 勝とうが負けようが歴史に残ることは間違いなく、敗軍について書かれることは如何に弱く、卑劣であったかのみ。
それは、いつの時代であっても変わりなく、我々が、敗北したとあっても変わらない」
「そう、我々は守るべき者を守るために抵抗するだけではいけない。勝たねばならない。
だが、安心するが良い。私の前に敵はなく、故に、私に敗北など有り得るわけがない」
故に、
「我が友軍である諸君にも敗北はない!」
「 」
「ラセツは、こう言うがそれは違う! 我らの前に敵はなく、故にラセツにも敗北がないのだ。
テレッシアの未来を憂う勇士達よ、その剣を矛を、誇りを! 見せ付けよ!」
「「「「「ぅおおぉおぉぉおぉおおおおおおぉお」」」」」
~~✴️
「ザイナスなんぞ、蹴散らせ!」
「ハッ。では、皆、行くぞッ!」
「「「「おぉおぉおおおーーー!」」」」
~~✴️
「超絶技巧、」
ラセツは呟きながらお互いの兵が睨み合うそのただ中で、自慢の強弓である飛竜を引き絞り、ひょうっと射る。
「手応え、」
矢はしゅっと風を切りながら飛び、山鳥の尾羽が、唯その勢いを伝える。
「あり。」
その矢は、先頭に居た、偶々ラセツの目に留まったと言う不幸な男の額に刺さり命を奪る。
どさり、と言う兵の倒れる音ばかりがその場を支配し、一拍をおいて
「「「「「う、おおうおうおいおおおおおおおお」」」」
両軍から響き渡る声、アテウマ軍からは称賛と畏怖を込めた声、槍を打ち合わせて、剣を叩いた音を贈られる。
エレン・キンユウ公爵軍からは、囃し立てる音が止まらない。
ラセツは、その声に応じるように鏑矢をつがえ、天に向けて射る。
ひぃいいいぃいいいいっ
と言う通常の鏑矢の“ぷをっん!”と言う音ではない、長い音をたてながら空に行き、ラセツの長い付き合いである天群雲は技量を越える切れ味で持て余すため、数打ちではあるがそれなりの一品を抜き放ち、落ちてきた矢を膨らんだ先端から羽に至るまで縦割きにした。
さらにどよめく周囲。
ラセツがド派手なパフォーマンスで、周囲の目を引き付けた後にエレンが叫ぶ。
「これを開戦の狼煙とし、ラセツに続けえ!」
「「「「うおぉぉぉおおおおおぉお」」」」
それを忌々しく思うアテウマは、
「くっ、速くしろ!」
その伝令を受けてザモンは
「敵も中々やる、だが、勝つのは我々だ! アテウマ様に勝利を捧げるのだ!」
士気が下がった。
ザモンが、精兵達が川に入る。
それを迎え撃つべくラセツ達が走り、川の中での戦いとなり、水の弾ける中、男たちの咆哮が木霊する。
「第一から第三は左翼方面へ向かえ! 四、五は俺と来い! 六から八は右翼へ! 精兵は俺が押す、雑兵を潰せ!」
ラセツの声はそんな中であっても馬鹿でかく、適切な指示を端まで飛ばす。
「ラセツと申したな? 勝負!」
敵兵が攻撃を仕掛けてくれば、
「如何にも俺がラセツ、よかろう! 尋常に勝負!」
それに応えて、剣を籠手で滑らせ、がら空きになった襟元をがしりと鷲掴み。
右に振りながら倒し、顎を膝で打ち抜く。
ラセツが前に進み、それを囲むように半包囲が作られ始めるが
「四番は右に、五番は左に!」
圧力をかけ、自分の戦いやすいように場を作っていく。
言うのであれば、色々なものが転がっている部屋で自分が寝られる場所を作る為に物を乱雑に蹴散らす様に、部隊を東西奔走させる。
「覚悟ーッ!」
「狙われ過ぎだッ!」
~✳️
「覚悟ーッ!」
ひっきりなしに狙われるラセツは遅れはとるまいと刀を振るが、剣を切り、鎧に当て、兜に斬り付け、血糊を浴び切れ味が落ちる刀を交換すべく下がろうとするが、
「我こそは、ザモンが一番の配下ヤモンガ、の息子に善戦する男、の兄タニン! いざ尋常に勝負!」
「人気者だな、おいッ!」
追撃が凄まじく、名もないような雑兵すら一騎討ちをせんと名乗りをあげて迫り来る。
そんなもの無視すれば良いと思うが、ラセツもまた男。
正々堂々立ち向かってくるものには応えてやりたい。
「第三から何人か、俺の武器を持ってこい! エレンに渡してある!」
武器の格がラセツの技量を凌駕するためにもて余している武器であるが、何を斬っても、何を防ごうとも決して折れず曲がらず切れ味の落ちない天群雲が必要になっていた。
「他に気をとられている場合か!」
「しょうがねぇだろッ!」
槍に対してリーチの短い刀で穂先を切り落とし、柄を左手で握りしめて引っこ抜く。
「しまった!」
「受けろッ!」
ラセツは石突きで顔面を突き、転倒させ後ろに下がる。
「我こそは、」
「大層な名乗りの割によえぇぞッ!」
左拳で顎を撃ち抜き、後頭部を奪った槍で叩き昏倒させる。
「キリがねぇ。四番は俺の横に、俺の後退に合わせて俺より遅く下がれ!」
「ハッ!」
「一番に左翼奥にある仕掛けを出せるようにしとけ、と伝えてこい」
「分かりました」
「ラセツ様、お届け物です!」
「よくやった!」
ラセツは懐のジャーキーをくれてやる。
「一番以外の全部隊、俺のところに来い!」
召集をかけると、同時に前進。
「一旦引けえええ!」
敵が叫ぶ声を聞くと同時に、
「全速前進! 敵の背を叩くは、野戦の習い! 遠慮斟酌するなぁあ!」
味方も攻める。
「川は渡りきるなよ!」
ラセツが吼えながら前線を押し上げていく。
「反転!」
敵兵が川を渡りきると同時に、第二波が放たれる。
「ジリジリと下がれ。背は見せるなよッ!」
ラセツが今度は受け手である。
「俺の部隊は俺に続けぇッ! その他の部隊はザイナスの指揮を!」
ラセツが全軍の指揮を取ることは事ここに至っては、不可能。
故にラセツは独立裁量を持つ自軍を形成。
ラセツ隊と仮称するが、ラセツ隊を形成したことで自己の援護と同時に鬱陶しい他者の援護と言う作業を委託。
自身が暴れられる状況を作ることに成功したのである。
ラセツが早く補足したい英雄ザモンが確認できない状況である以上、数を集めるのは愚作。
手広く広げることで、ザモンが当たらざるを得なくし位置を捕捉、ラセツ隊によって移動を助けさせ、ラセツはザモンとの一騎討ちをする。
ラセツが戦いながら考え付いた策である。
実際に、この作戦でザモンとサック・ボウが出てこない場合は勝利できるのでどちらに転がっても良い所か、当てが外れた方が良策とさえ言える渾身の策である。
ちなみに、もしもこの段階で一気に押された場合は川を利用する戦法のセオリーは出来るようになっている。が、ラセツとしては己が武勇でもってねじ伏せるのが好みなのであまり使いたくない。
とはいえ、セオリーは大切である。
流行りと言うのは、一周してまた帰ってくるのだ。
タピオカだのナタデココだの、何十年前に見たぞと言うようなものでも、若者にウケるのだから。
ポップコーンもまた流行るだろう。十年後ぐらいに。
UP DOWN Righit Righit チュー チュー チュー
さて、そんなことは兎も角、
「左翼に敵が固まってるが、あれは怪しすぎて逆に罠を疑うぞ?」
ラセツは左翼に眼を飛ばす。
「覚悟ー!」
「鬱陶しいぞ!」
周囲の守りを抜けてくる猛者に、少々ワクワクし、対峙する。
「名を名乗れ!」
「我こそは、ザモンが三番目の配下。サンシタ! いざ尋常に手合わせ願おう!」
「……サンシタ。サンシタ? よかろう! 我こそは! 大和が王、ラセツ・アツキ。義によりエレン王女に助太刀したものなり、いざ尋常に」
「「勝負!」」
サンシタは、サンシタ等と言う名の割に強い。
振るわれる剣は正しく豪剣、音をならしながら迫る。
「なんだよ、強いじゃねぇか」
ラセツは右の腕を剣の腹に当て、籠手で滑らせることで自分の右に振らせ、左で刀を一振り。
サンシタは、左に回ることで回避しながらラセツの側面に回り込みながら剣の腹をラセツに向けた状態で構え直す。
「剣を腕で流すとは……二ノ太刀を受けよ!」
そう叫ぶや否や、
「突進じゃねぇか」
剣を盾に、肩から手までを覆う形でタックルを仕掛けてくる。
その勢いは金猪程でなくとも、猪の如く。
ラセツは足を止め、全身の筋肉を引き締め、左手のしょうを全身の回転運動を使い、重い一撃を放つ。
「唸れ、豪腕ッ!」
バンッ、という音と共に炸裂。
「ぬぅん。重い」
ラセツはサンシタを弾き飛ばす。
鎧を纏い、勢いを乗せきった敵を弾き飛ばしたラセツにサンシタは技を破られながらも、称賛する。
「見事。この技が破られた今、為すことはない。」
そのまま膝まずく。
「その潔さ、気に入った! 鍛えれば一角の者とも成れよう。俺について参れ!」
「おお、なんと言うことだ。戦場での敗者は勝者に従うのみ。貴方についていきましょう。」
「うむ、良く言った。行くぞ」
ラセツは、サンシタを引き連れ戦場で戦う。
~~✳️
ラセツは、戦いながらも慎重であった。
例えば、隙が大きくなる大振りをするよりは突きを好むし、ブレが出る蹴りはあまり使わない。
殺すよりも、倒す。
人は些細なことで死ぬが、わざわざ殺すよりは隙がない状況を作ることの方が優先されていた。
弱らせれば自分以外がカバーしてくれるようにしっかりと位置取っているからである。
また、ラセツにとっては当然のことではあったが、最大の誤算はサンシタである。
人は将棋のように取ったら自分で使えるということはあり得ない。
感情があるし、利点を考える頭もあるからだ。
ラセツの古代的な考えと自信、負けたからには何をされても仕方ないというサンシタの考えが重なりあったからに他ならない。
「雑兵には用はない! 退けば斬らない!」
ラセツの咆哮は、遠くまで届く。
それによって未だに自分が健在であることを誇示し、味方の士気を揚げつつ、敵の動揺を誘う。
が、同時にそれは敵の動きを加速させる要因ともなる。
目の前にハエの親玉がプンプン飛び回っていたら潰したくなるものだろう。
一度は驚くだけだろうが、それが何度も何度も繰り返されるのだ。
しかし、
「寄らば斬る! 寄らば斬る!」
しぶといもので、決してミスは犯さず、味方のミスを起こさせず、敵の失敗を誘発させる。
英雄の末裔たる、サック・ボウはここで作戦を切り替えた。
今までは、面を制圧することで衝撃力足り得るチャリオットを自由に使える状況に持ち込み、制圧、降伏させようとしていた。
サックにとってはこの戦いは勝つことは当然であるが、次がある為戦力は温存せねばならなかった。
それも、両軍の。
賢王の制度に則れば、兵は王家のものでなければならない。
つまり、本来ならば戦なしで恭順させられたのだがエレンとザイナス、ジェフによって戦の大義、実権、物資、全てが揃い、戦に関わっていたベテランをラセツが限界まで酷使することでこの状況を作らせた。
ラセツは個人で見れば成る程、特殊な能力もフルに使ったのならばこの場で突出した存在である。
だが、それだけである。
大規模な魔法?
斬撃を飛ばす?
無理である。
ラセツの持つ大規模な魔法を撃とうものならば、ここら一帯は硫黄と火焔で舐められるだろう。
大きな力とは、それを扱うのにもまた大きな力を必要とする。
何より、加減を間違えればラセツも死ぬ。
では、この場において功労者は誰であろうか?
旗印になったエレン。
エレンがいなければ、そもそも戦争は難しかっただろう。
公爵たる、ザイナス?
ザイナスがいなければまず兵が集められなかっただろう。
商人のジェフ?
物資がなければ、戦争など出来なかっただろう。
つまり、彼らを繋いだ時点でラセツの役割はほぼ終わっている。
ラセツは、個で軍を打倒するのではなく人でもって軍を成す才能を持っていた。
ラセツがかつてそれを知ったときに最強を目指していたが故に泣いたが、それより五十余年。
遺憾なくその才を発揮していた。
故に、作戦を切り替えたサックは大胆にもラセツと面する部分に厚く布陣、他の一ヶ所を除いてがら空きにすることにした。
すなわち、ラセツを防いでいる間に他の場所から一点突破を図るのである。
ラセツに遅延戦闘を仕掛け、他方をがら空きにしてでも突破口を作る博打に近い手である。
そう、本来ならば博打である。
しかし、英雄がいる。
~✴️
「サック……どうした?」
「ザモン、そろそろ出てほしい」
「難敵か?」
「いや、難敵を避けて浮かせてほしい」
ザモンは、どういうことか、考える。
「敵の崩れそうな所を潰してくれ、そこにチャリオットを送り込む」
「成る程、分かった。楔となればいいのだな?」
「そうだ。兵力はお互い温存させたかったがことここに至っては、そうも言ってられない」
「……サック、いや。やめておこう」
「ザモン……?」
「成したいものがあるのならば、止めることは無粋だろう。そんな資格もない」
「……。」
「さぁ、どうすればいいのか指示を出してくれ」
「……ああ。そうだな」
「まずは、難敵はどこにいる?」
「ここだ。この周辺は兵の動きが良いことから、恐らく指揮官としての力が高い」
「成る程、前線指揮官か。倒せないのか?」
「先程から、兵は戦っているようだが声が聞こえ」
『この私を、討ち取らんとするのならば! 死を覚悟せよぉおぉお!!』
「……この通りだ。」
「成る程、分かった」
「ここから攻めてくれ。上手く行けば分断できる」
「分かった」
ザモンはそう言って立ち上がると、槍をもって歩みを進める。
貴族のなかには、戦争の前に軽蔑の表情を浮かべていた者もいた。
しかし、戦場においてこの男が歩みを始めたとき。
侮るものは愚か、道を遮るものすら居なかった。
~~✴️
後生の歴史において、この場面が大きく取り上げられることは少ない。
ザモンは、戦場で戦うときにこそ描かれる男だからだ。
それが、英雄であるからだ。
しかし、ザモンを知るものは言うだろう。
戦場に向かうときにあって既に、ザモンは英雄であると。
ラセツ→ハッッハッハハ!
エレン→うるさい
ザイナス→うるさい
サック→うるさい
兵士→あんなになっても生きてるなんて、不死身なのか!?
サンシタ→真なる武人!
ザモン→難敵避けるも戦略なり。卑怯とはいうまい。
龍生→ブックマーク評価ありがとうございます。期待に応えられるようがんばります!
龍生→ 弓を弾くイラストは、https://mypage.syosetu.com/1392021/ひるねさんから頂きました。
ありがとうございました。
下の動いているのは、私の作った汚いのです。




