第3話 好奇心は九つの命をも
さて、今までの事を振り返った訳である、が。
人型の光は1人?を除いて男に見える。
少しばかり興味をそそられる香り。
つまるところ厄介な事を持って来る奴と同じ匂いがする。
「あなたがたをお呼びしまして申し訳なく思います。私は創造と、旅の神であるディネアと言います。」
と、金髪碧眼の女、ディネアが言う。
「おい、なにか可笑しな日本語をはなしてるぞ?」
「神ならば、自動翻訳ぐらい出来るだろうに……よし、ならば……」
ゴリラと須藤が言うが、緊張感が崩れるからやめて欲しい。
ただ2人とも、緊張しすぎないようにほぐす意味が強いようで、鋭い目付きであり、不思議と安心感というべきものが存在を主張し始める。
そうなると周りを気にする余裕も生まれる訳であり、急にこんな状況になったのだからパニックが起きるかと思えば静かであることに気づく。
「追い付いていないだけか」
ちらりと見ると茫然としている面々。
「突然呼び出さして頂いたのには理由があります。実は、あなた方に私の治める世界、バルストを、救っていただきたいのです。」
日本語がおかしいのはもう、どうでも良い。
世界を救え、だ。壊せ、では無く。
ということは俺が中心に召喚された訳ではない、はずだ。
不本意ながら、生産性の欠片もなくただ己の思うがままな生き方を振り返るとそう思えてしまう。
人生は何かを成すには短いが、何かを為すにも短く、それでいて何もしないには長すぎる。
仕方のないことなのかもしれない。
が、しかし
ただでさえ難解な世界に、非日常《非常識でファンタジー》まで持ってこないで欲しい。
どうにか穏便にテストの日の前日辺りに、記憶はあるまま戻してもらわなければならばい……
現実の冷たさを知りながらファンタジーな読み物で長い生の暇を凌ぐ孤高の戦士たちは、『えっ、なんだって?』と言わんばかりの顔で聞いてませんとアピールする。
愚かなことだ
「バルストでは600年後、こちらの世界では1年後にあたる日に災害が起きます。それを、食い止めて頂きたいのです。」
ほぼ全員が、嫌な予感を感じ『聞こえないなぁ』という顔になり、聞こえてませんヨ?とアピールするが、
「それはどう言うことですか?」
と、東が言ってしまう。
この時点で、大樹はムンクの叫びもかくやと言う顔を心に浮かべている。こういった手合いは反応してはいけないのだ。不幸が襲うッ!
それに便乗するかの様に、女神・ディネアは
「救ってくださるのですね!」
笑顔で、疑問形では無く言い切りの形で、逃げ道を塞いで来る。
「いえ、それは話しを」
「もちろんです。」
大樹の苦肉の策で、話を聞いた後に断る方向に持って行こうとしたのだが、東に先手を打たれた。ハメツヘトミチビクッ
大樹の思考を読んで行ったのでは無い
人、(神?)助けを行う事も正義感十割からでは無い。
日向が、困っている人を助ける人はステキっ!みたいな事を言っていたのを覚えていたからである。
尚、この時点で発狂スレスレ、空気は不穏さを増し、粘性すら強まっているようである。
大樹はよしておけば良いのに相手から提示されることの不満点や不備を見つけて回避する事にせねばならないと思った。
お前がやらねば誰がやる、そういった義憤に近いものが体を突き動かすのである。
何よりこの男、相手の話の穴と粗を探すのは得意なのだ。
Q.何をするの?
A.異世界バルストで、六百年後の災いを潰して頂きたいのです。
Q.一年では死んじゃうんじゃあ?
A.サポートはします
Q.俺らだけで?
A.現地の人間も動員します
Q.どうやって?
A.神託を使います
Q.加護は?
A.あります。
Q.じゃあ現地人にやればいいのでは?
A.世界にそこまで干渉できません
Q.じゃあ俺らは
A.自由意志で好きな事を行えるので
Q、現地人でもそうじゃあ?
A.いえですが……
Q.何か隠しているな?まさか、災いとやらと闘わせるのは娯楽か?最近そんなのが多いのが知ってるぞ?
A.……
~✴️
沈黙したクラス。
ある程度嗜んでいる者が,「帰らしてくれ」と頼むと、
凄みのある微笑みと、沈黙が帰ってくる。
ディネアと天使たちは事実の隠蔽の仕方を考える。
大樹たちのたどり着いた事実は、ゲームで言うならば終盤に分かる驚愕の事実。
結局、ディネア達は、厄介ごとは始末するに限ると、記憶をリセットさせ、不穏分子を追放する事にした。世界はバグを許容し得ないのだ。
「邪魔なのだ」
御付きの天使(仮)に突き飛ばされる。
こうして大樹は異世界バルストへと落とされたのであった。
大樹と言う小さな、されども水面を波打たせるのには十分な大きさの雫。
或いは、その名の通り大樹と成り得る種子はこうして撒かれた。
"賽は投げられた”
口は災いの元、その表現通りの出来事を巻き起こし不思議な空間に別れを告げる。
さらば地球、美しさを失いつつある故郷
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邪魔の邪の辺りから落とされ始めていた大樹。
彼は今、世にも稀な現象にあっていた。
それは……
「おびゅうぶぶぶぶぶぶぶふっぶ」
浮遊感無しに落ちる。しかし風圧はあると言う物である。
一体何があって俺が邪魔なんだ……
そう思いながら落ちる。
何をやったと言うのだ!記憶にない。身に覚えがないのだ!
記憶を消された彼は、何もやっていないのに落とされたと感じている。
なにもしていないのにお巡りさんに睨まれた時を思い出し、涙を流しながら落ちる。
風圧で呼吸が苦しくなった頃、ガサガササァッッッ、と音を立て木に落ちた。
異世界生活、開始。
~~✴️
時として、己に何か特別な物があると、感じ取ったときと言うのは無いだろうか。
分かり易くいうのであれば、「俺、呪われて?」と言う奴である。
トイレに腹を下して駆け込めばいつも埋まっているとか、入れても紙が無い。
疲れて帰って、風呂に入ろうとすれば頭を洗っている最中に給湯器が狼の遠吠えの様な音を上げお湯が水になる。
それが、両手の指では足りず足すらも使う程の回数がたった15年で起きる。
呪われていると言っても可笑しくないだろう。
いや、正確に言うのであれば俺の一族が呪われている。
巨万の富を得たと思った瞬間に、何かしらの要因が重なり続け全てが失われる事。
親に首が回らなくなり電話を掛けるとその直前にオレオレ詐欺に遭っていて切られる。
楽しみにしていた海外旅行。何故か、ハイジャック犯に占拠された飛行機に乗り合わせる。
例を挙げればまだまだある。
しかし、そんな中でも俺は飛びっきりの不運であろう。
異世界に呼び出され、訳も分からない状況で邪魔だと言われて、浮遊感とともに落とされる。
しかも、しかもだ。パラシュートも無しで、だ。
落下傘(笑)部隊だ。
ふぅ。
まぁ、そんな事はともかく、荷物を見よう。
飛ばされる直前に自分の鞄を掴んでいたことは不幸中の幸いだ。
通信簿に取り柄は切り替えの早いところです、と書いてあった。
荷物一覧
・カッター
・学ランと、ワイシャツ、下着
・アルミの筆箱
・裁縫セット
・シャープペンシル3本
・定規
・巧に渡されたもの
・鉛筆二本
・迷彩柄のレジャーシート(遠足の時から入ってます)
・ペットボトル天然水
・コンパス
・何故か曾祖父に今日渡された、人を殴り殺せるサイズの百科事典みたいな日記帳。
そして、謎の手元にあった古びた錆刀。
俺は、こんなの知らないぞ?
だが、この形は……
大樹は、知識探求し、それを自慢げに話す事を趣味としている。悪趣味だ。
そのため、
「これは、わらびての……そう。蕨手の刀だ。質素な作りに短い刃。間違い無い。八割程が東北で出土しているんだとか」
少しは分かる。
「正倉院にもある、らしい……しかしなんでここにあるんだ?俺以外の日本人……過去の神隠し、浦島太郎、おむすびころりん、かぐや姫。異世界を示すものは多いがまァ、良い。とにかく 火、水、食料、寝床だ。あと陽当たり。はてさて、蛇が出るか鬼が出るか……蛇の方が良いだろうなぁ。食べられるし」
大樹は、歩き出す。傾斜のついた道を上に向けて。
「日照権がある~らららら~」
変な歌が耳につくがしばらくしたとき、
ふむぅ。
大樹は唸る。
どうやらこの森と思しきものはじつは山であったが、山なのにドングリ(椎の実に似ている)やアケビもどき。
おそらくウサギとおぼしき饅頭型の糞しか見つからないのだ。
食料の痕跡が。
薪となりそうな木は集めながら歩いていたが、ここまで何も無いと逆に困る。意気込んでいたぶん困る。食事が取れないから困る。
どうしたものか……
この山の形は小学生が描く富士山みたいなもので、天辺が平たい。
山の中央に泉が湧いていて、上に何も無いからか落ち葉も入っていなかった。
一応、シャツの隅に付けて、粉とか出てこないかとか、シャツに触れている部分がかぶれないかとかは調べた。
一口含んだが、この感じは大丈夫だろう。
水は澄んでおり、水棲昆虫や両生類、魚類の類いはいないが、鍾乳石のように固形化した痕跡もないことから石灰水の類いのものではないと考える。
もちろん未知の物質である可能性もあり、海水のように浸透圧のバランスを崩す可能性もある。
が、それは運がないということで諦めるわけにはいかないので他の手段も平行して模索だ。
もしも洞窟に落ちてしまい、鍾乳石が存在する水場のみ水源とする場合は体内に石ができるとか、できないとか聞くが蒸留すれば行けるものなのだろうか……
大樹はこの後、泉の一部に面するように穴を掘り泉の水をぶちまけ続けてぬかるみを作った。
簡易的な罠で、その周りを円錐が埋まっているような形で掘るのは、ウサギを取るためである。
木を擦り合わせて火をつけようと三時間。
カバンにキーホルダーのマグネシウムスターター(火打ち石みたいなもの)がある事を思い出しそれで火を起こした。
最初に火を起こすために使われたのが、日記帳の1ページ目だった。
その火にドングリを入れ、パチリと爆ぜたら食べる。アケビを剥いて、中身の柔らかい部分を食べる。
食後、大樹は木を並べその上に寝転び一息つく。
一度直に寝た時に、ヒルに吸われて懲りたからであった。
「ふう、タンパク質が欲しい。山の向かいに明日は行ってみるか。」
二日目
朝起きた時に猛烈に不快感を感じた。どうやら、ビニールシートをひいたほうがよかった状況である。
体はしっとりと露に濡れ、火種は昨日のが奇跡的に残っているようで、木の根元に置いておいた薪を入れて火を起こす。
ググ、コポコポという音が腹からする。嗚呼、朝露で腹が冷えたんだなぁ。と現実逃避したくなるが仕方なしと穴を掘り、そこでする。
和式便所の様なものである。
終わったら、焚き火で一度沸かした泉の水を使って洗浄。穴には灰を入れる。
「ふう。」
と、一息。
しかし、大樹のはファンタジー感のあふれない生き方である。
異世界召喚と言うより遭難者のようであり、夢はない。
「さて、山に行こうか。」
そう言いながら、大樹はパンツをはいた。
大樹→適応
ディネア→???
他の人→う、頭が……はっ、ここはどこだ