第22話 覚悟はあるか
傭兵のルールを自分なりに纏める。
・武器を抜かれたら、殺してはいけないが武器の使用を認める。
・ランク制依頼ランク
1、村のお手伝い
2、町のお手伝い
3、魔獣の討伐
4、魔獣ランク2以上の討伐
5、魔獣ランク4以上、魔物の討伐
6、魔獣ランク6以上、魔物ランク2の討伐
7、魔物ランク4以上の討伐。このランクは、それ以上のモノを200達成
6、強者 依頼ランク4以上を100達成
7、猛者 依頼ランク5以上を100達成
8、二つ名持ち 依頼ランク7以上を30達成するか、他の傭兵からの知名度、誰の目からも明らかな偉業を成し遂げるなど、で付くだそうだ。
ちなみに、過去にランクは駆け出し傭兵がリーダーの、チームが魔王を倒した時、世界中を`駆け出し傭兵アルバと仲間たちによって魔王サクシャー撃破”の文字が踊ったそうな。
そのせいで、組合に批判が殺到したため、ランク4と8が生まれたらしい。
・受けきれない量の依頼や、達成が困難な依頼は避ける。
まあ、組合に責任が行くし、相手も困る。当然のことだろう
・魔物、魔獣災害の時の召集に応えること。
魔物や魔獣の大量発生が起こった時、その地域にいる冒険者はそれに関する仕事が組合から渡されるらしい。
この四つらしい。
そして、俺は駆け出しか、実力者になる事が出来る。
しかし、実力者になるためには、この色々と厄介なステータスを見せなくてはならない。
まあ、これは流石に要らない騒ぎになりそうだ。畏敬の念を集めるのであればともかく、恐怖、嫌悪はいらない。
俺と同等ぐらいの相手だと、巨人殺しも発動しないだろうし。
結局、巨人殺しの能力は自分の2倍くらいのスペックを誇る相手からしか使えない。下手に噂になって、1.8倍くらいの敵と闘おうものならば、殺されて、血が舞うよ。
そんな考えの末、駆け出し傭兵、いや、冒険者が一人誕生したのだった。
俺よりも強いやつに会いに行く!みたいな?
考える前から日は沈みかけていたが、今ではすっかり日は沈み、夜になってしまった。
ラセツは、馬車の窓……と言ってもガラスが填められている訳でも無い、木の扉を開ければ直ぐに風の入るモノを開け放ち、そこからするりと抜け出すとそのまま走行中の馬車の外に出て、木枠に捕まりながら移動する。
足は浮いた状態の手だけで移動して馭者を務めるジェフの隣に空いている僅かなスペースに立ち、そしてジェフを背にするように座る。
「なあ、ジェフよ」
「なんですかな?」
ラセツの眼差しに思わず唾を飲み込む。
「お前が、人を信じる基準はなんだ?」
「どう言うことでしょうか?」
「俺のような、得体の知れない男とも面識を持っておこうとする商人らしさを信用して、話したいことがあるのだが……」
成る程、やはりよく見ている。
そうジェフは考えて、少し嬉しくなる。
商人らしさ、これはジェフにとって最上級の誉め言葉である。
「分かりました。私の信じる基準は取引相手として考えた場合にどうなるか考えて、裏切らなさそうな場合ですな」
「商人を金蔓にしか見えない者、差別するものが腕利きには多いのです。
しかし、私はかんがえたのですな!
ならば、差別しない腕利きの方とは良い付き合いが出来るのではないか?と」
「ふむ、なるほど。それで・・」
「そして、貴方はきっと何かを欲しておられるでしょう?」
ジェフはニヤリと笑う。
「ほう?分かるか?」
ラセツも悪代官のような笑みを浮かべる。
稽古によって鍛え続けたラセツはこういう顔をしてもどこか憎めない。
「ええ。何かおおきな事を成そうとしておられる」
「ふふふ。これをどう見る?」
そう言って、結構危ない場所に座るラセツは、器用にも背負っている風呂敷を前に持ってきて広げ始める。
そして、着物、和紙、腰に差した刀、槍をだす。
これらは全てラセツのお手製の物で、刀、槍はラセツの言うところの`量産品”数打ちである。
その後に、ジェフの持っている手綱を奪い取り、街道を進む。
この行動は、これを見ろと言うことなのだろうと察したジェフは、拝見しますと断った後、それらを見て、一つ息をつく。
常識は捨てるためにあるのだ。
そう思って。
「これに関われることを考えた場合、どうなる?」
「無論嬉しい事ですが……?」
「成る程。君がこれに関わるには商会の全てをなげうつとしても、、、か?」
「これほどの物と共ならば」
「ふうむ。そうか。そんなに価値があるとは……」
「そ、それでこれらの物は……?」
「そこで、先程の話だ」
「成る程。これらであれば、確かに信用は必要でしょうな」
「いや、そんな事はどうでもいい。これは、お前を引き付ける為の餌にすぎん」
「?」
「俺は、奴を、エレンを王として祭り上げる事にした」
「……」
「そのために。お前の力が必要だと言うことだ」
「さっき言ったよな?全てを擲つと」
「……」
「どうしたんだ?」
「fが」
ジェフは謎の声をあげて、倒れた。
~✴️
……やるか。
気絶しているジェフを放置して、目を覚ましたらしいエレンに声をかける。
「エレン、お前はどうする?」
隣に座る白髪の少女に問い掛ける。
「どうするってどう言うことよ?」
「お前が、これからどうするかって言うことだよ」
「そんなの分かるわけ無いじゃない」
諦念のような、疲れを感じさせる声で吐き捨てるように言う。
「……お前が、この状況をどうしたいか、だ」
「そんなもの、考えたって無駄よ」
「何故だ?」
「この髪の毛よ」
「何故だ?」
「知ってるでしょッ!この髪の毛は嫌われてるのよ!」
「それを変えたいとは、思わないのか?」
「…何を言っているの?」
「白い髪の毛であることで忌み嫌っているのは上流階級の一部だ。
よく言うのなら伝統的な、実態を表すのなら、カビの生えた、だ」
「そんなことを言えば不敬罪モノね」
ふんっ、と鼻息を飛ばしつつも、その眼は興味津々である。
それを見て、
……こいつを祭り上げるのは簡単そうだけど、俺以外にも付け入る隙を与えそうで怖いなぁ。
と、ラセツは考えていたが、
「貴族は、今荒れている」
そんな事はおくびにも出さない。
「そんな事は知っているわ」
「まあ、焦るな。そんなお前を落ち着かせる為に、少しお前の記憶の一頁を挙げてみようか?」
一息ついて、
「昔々。と、言ってもお前さんの記憶であるのだから遠くても十数年昔しかないのだが、まあ、それよりも少し昔」
バカみたいな出だしで始まる。
「とある強国にて、一人の王さまが居ました。
この王さまは、貴族と王族の溝があるのがいけないのだ。と言いまして、自分の息子と、有力貴族の娘達とを結婚させました」
訝しげにしていたエレンが気付いたと、顔に出し、何かを言おうとするがラセツはそれを見てニヤリと笑い、続ける。
「その時の王様は名君と名高い男でありましたので、貴族とも仲良く歴史上最も安定しているとも言われていました。
貴族達は王様との縁になるならと、娘が居る貴族は娘を、いない貴族は養女を取って教育し送りました」
「しかし、王さまの息子はあまり頭がよろしくなかったと言うか、独特な方でしたので目論み自体は悪くなかったのですが、行う時代が悪かった」
それは違うッ!と怒鳴り出しそうなエレンを視線で黙らし、刀を鞘走らせ納める。
チンチンッと鳴らして、口を開く。
「その目論みに後継者に同じように教育を施すと言うものがありましたとさ。
その目論みは、仲の良かった貴族同士の仲を切り裂き始めました。
特に大変だったのは、白い髪の少女。
彼女を生んだことによって、彼女の家はてんてこ舞い。
家は襲撃され、家族は居なくなってしまいました」
辛い記憶であり、思い出すだけでも辛いだろう。
それも、なにも知らない赤の他人に語られれば、怒りも湧くだろう。
しかし、エレンはラセツの黒い瞳に惹かれる。
それに宿る静かな狂気にか、それともその吸い込まれそうな色にか。
だからこそ、怖いもの見たさと言うような感覚で、続きを促す。
「しかし、少女は殺すことができません。
災いが起こるかもしれないからです。
なので、彼女はお隣の国でどんどん変わって行くガル・ダーサ王国に研究者として送られる…実質の国外追放をされることになりました」
ラセツは、エレンを惹き付けるために、時に大袈裟に時に小さく手振りなどを加えながら続ける。
揺れる馬車に内心文句を言いつつ。
「ガル・ダーサ王国は、テレッシア王国よりも白が嫌われており、庶民はともかく、村長ぐらいから嫌い始めます。
この国では、白は殺しても災いが起こるとは思われておらず殺されることもあります。それを狙ってテレッシアは送ったのですが…」
酒を一口飲んで、喉を潤し栓をして元の位置に戻す。
が、一口飲んだらもう少し飲みたくなり、ゴクリ、と喉を鳴らして飲む。
そして、栓をしようと言うときに、惜しくなりもう一口。
さらにもう一口と言うところで、
「早く話しなさいよ!」
怒られたので、名残惜しそうな顔をしながら栓をしてしまう。
げぷっ。
と息を吐くと顔をしかめられたので、軽く手で口元を扇ぐ。
「少女も苦労をしましたが、諦めませんでした。
しかし、彼女が諦めなかったのは友達が居たからです」
「ッ!」
何故、その事を…
驚愕するエレンをこれまた一瞥した後に、お見通しさ、と言わんばかりにウインクする。
そこそこ様になるように、一時期は毎日鏡の前で練習していた事もある。
「友達は、これまた白色でしたが彼女は明るく、人生を楽しんでいました。
それを最初は妬ましく思っていた少女も、ある出来事を切っ掛けに仲良くなりました。
それは、少女にとって大好きな母親といられたとき位の幸せな時間でした。
しかし、」
ラセツは、一息つけて、溜める。
「幸せと言うのは儚いものです。
いつかは崩れてしまう。
嫌だったことでも、幸せだったなあと、思うほどの絶望はすぐ側にあるのです。
テストの最中とかね」
冗談目かして言うが、エレンはラセツであっても隠しきれない思い、その一端を垣間見る。
それでも、この男は直ぐに隠し見間違いのように錯覚させる。
それに騙されて、目を擦るエレンを微笑ましく思いながら続ける。
「少女のかけがえの無い友は、研究者としてうだつの上がらない男が優秀だった少女を疎ましく思って、軽い気持ちで廃棄箱から取った道具を使い、驚かせて恥をかかせようと行われました」
ラセツは、急に入ってきた月光に目を瞬かせると、和服から出ている胸板をボリボリと掻く。
くぁー、と欠伸をした後に何気なくエレンを見て、射殺さんばかりの眼光で睨んでくる事に驚く。
「分かった、分かった。続けるから睨むな。愉快な話のが好きな性分なんだ」
そう言うと、もとに戻る。
ふぅ。とため息をつくとまた睨まれ、慌てて続ける。
「その道具は、危険だから廃棄されてもので、その道具の暴発で男は負傷。
少女は、友人に助けて貰い傷も負いませんでした。代わりに、友人は亡くなってしまいましたが」
「しかも、男は友人に罪悪感を感じるどころか、白だからと言いつつ、少女に友人のせいで怪我をおったんだから、活躍できた俺の功績分の金を払えと言います」
「少女を弁護するものは、居ません。
白だからです。
その事に絶望した少女は、国を出ると言う商人の馬車に乗り込みました。
そして、国に帰ったとさ」
「何が言いたいの?」
「悔しくないか?」
「悔しくないわけ無いでしょっ!」
「そうだろうよ。ならば、変えようとは、思わないか?」
「何を」
「白だからと言うだけで、差別され、軽視され、友を庇うことも出来ぬこの国を!そして、己自身を!」
「そんな事は…」
「出来ないと?」
「当たり前でしょ」
「いかなる犠牲も問わない覚悟はあるか?変えるために」
「出来るならね」
出来ないと、そう考えているのに、ラセツの言葉を頭で繰り返す。
「言ったからには、守れよ。己の信念を通すには覚悟が必要だ。
世界を欺き、壊し……自分さえも壊す覚悟が。それでも、良いな?」
「……ええ」
ラセツの迫力にびびった為に思わず返事をしてしまう。
「今、約定は成された。やるか」
「…何を?」
「国盗りだ」
「は?」
ラセツ→ハハハハハ
エレン→???
ジェフ→……?
プロメテウス→空気




