第17話 街道発見
白鷺大樹改めて、ラセツと名乗ることになった俺は身支度を整える。
今日は町へと行くのだ。
只、行けるのは俺とプロメテウスそして粘鎧だ。
粘鎧の名前の由来は極めて単純。
粘菌鎧略して粘鎧だ。読みは、ネンガイ
役割としては、極めて重要な生命維持装置だ。
うっかり魔力濃度が高い所に行ってしまったときに吸収、遮断を行ってくれる。
まあ、これは捕食しているだけで俺を助けてくれている訳でもなければ意思疏通がしっかりできていると言う訳ではない。
因みにだが、酸性のスライムは斬られると自分を切った武器を酸で以て腐食させるため、俺を斬ろうとすると粘鎧に少しずつ溶かされていく仕様だ。
言うなれば俺は全身に武器破壊属性がついているのだな。
すごいだろう?
まあ、そんなことは兎も角身支度である。
俺が持っていくのは、天群雲剣。
まあ、俺が刀と呼んでいる最初の一振り。
叢雲ではない。
そして、滝のある階層の木に実っていた法螺貝。
これはしっかりと手入れを行い、笛として使っている。
しっかりとした良い音がでる。
こいつを鳴らせば魔獣の多くは逃げていく便利アイテム。
自分に注意を集めたいときにも使える。
そして、服。
戦闘に結構適応できるように頑張ったもので結構便利。
マント。
ボス素材をふんだんに使ったマントで色は真っ黒。
リバーシブルで深紅にしてみたい気もしたがしていない。
さわり心地は滑らかでありながらふかふかしていて、ラッコとも違うしかといって滑らかさを表そうにもコードバンとも違うなんか語彙力の乏しい俺では表すことの出来ない感触だ。
そして、弓矢。
はっきり言って遠距離攻撃は必須だ。
後は和風な命の水を少々。
お土産や、交易品の数々を風呂敷包みで持っていく。
さあ行こうか。
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下駄を履いて鍵を閉めて山を下り始める。
麓に行けば行くほど建築物は多くなっていくが、誰もいない。
熊とかリスとかダンジョン以来の友はいるがはっきり言って人じゃないから数えない。
下りれば段々と暖かくなっていくがはっきり言って寒いよりも良い。
急ぐ訳でも無し、とゆっくり日差しを受けながら春の訪れを感じつつ歩く。
道は熊が歩いている場所が踏み固められて出来たもので、そのうち石畳にしようかと思わないこともない。
今でも神眼を飛ばして街道を探していたのだが、広めのが結構あっさりと見つかった。
一日二日で恐らく出られるだろう。
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一日二日とか言ったけれど、まだ朝は寒いため寝袋から出る覚悟を決められずに結局3日かかってしまった。
ヤギの皮とかを使って作ったテントの実用性も証明されたし、トントンである。
遊んでいただけでない証拠に、有能きわまりない俺は街道を渡る人間の記憶をチョイと覗かせていただいて情報収集も怠らなかった。
結構な情報を漁ったが、ここの街道はあまり人気がないみたいだ。
元々この街道は魔の領域とか禁域と言われる、強めの獣から魔獣に至るまでが住み着くまさしく人外魔境の地で問題が起こった場合に各国が軍を派遣するために作ったために、街道の幅が広くなっているらしい。
禁域は基本的には普通の土地だが、時折妙に強い個体が産まれたり、他所からやってくる為に恐ろしいと言われている、らしい。
それで一回大危機に見舞われたときにどんなに仲が悪くとも、戦時中であろうと禁域から現れた危機には共同で対処することと決められた。
で、そのうち領域に面しているニ国には防衛費が各国から出されてるとさ。
その二つの国が、
ガル・ダーサ王国
テレッシア王国
だ、そうだ。
元々ガル・ダーサ王国は小国で、国民および国費は困窮していたのだが、
時の宰相であるチョウシュウ・オッカネスキー公爵が大変な遣り手であり、禁域に面していることを奇貨として、砦や街道を作成する費用を他国から捻出させた。
それを使い、国民に仕事を回し経済を回しだし、更に自らの領地で最も力を入れていた水の代替品としての酒ではない高価で香りの良い酒等の嗜好品を多く流通させることで国外へ通貨を流出させず、逆に外貨獲得に動いた。
また、禁域に面していることは危険であるから軍備が必要だと言うことを建前に多くの技術を手に入れたと言う。
その流れのままガル・ダーサ王国は最近更に力を着けているらしく強国であるテレッシア王国に並んでいる。
テレッシアはここから近い方の国でぶっちゃけあまり話すことはない。
近いと言っても俺が少しずつ逸れながら歩いていたから近くなっただけで、ダンジョンからでも、建築物からであってもガル・ダーサ王国の方が近い。
人を集めたら暫くは引きこもる予定であるから関係ないが。
特筆すべき点は、テレッシアは今国が荒れている上に飢饉が来ているらしい。
まあ、知っていたからわざわざ逸れながら歩いていたンだし、このタイミングで出て来たのだが。
今回の作戦に名前をつけると言うのならば、
ドキッ!弱味に突け込んで祟り目作戦!?
~✴️
ラセツが街道目指してトコトコと歩いていた頃に、ひとつの馬車が街道を通っていた。
この街道を使う利点は幾つか有るのだが一番の理由として税金がかからないと言うのが大きい、が、この街道はあまり人気がない。
なぜかと言えば、極めて簡単な事である。街道を使ったとしても行くところがないのだ。
ここが繋いでいるのは、この街道が出来た理由から察せられる様に兵達のひしめく砦である。
だから通る者は追加の兵か禁域に観測に行く者ぐらいである。
しかし、この馬車の主は兵士ではない。
糸目で色白、金髪は長くその所作は油断ならぬものであることを匂わせている。髪の毛から覗くのは少し尖り気味の耳。
まあ、尖っていてもそこまで大きくはないのだが。
それは……地球で言うところのエルフであった。
物語と違うところは、でっぷりとしているところであった。
彼は、多くの店を持つが自身は旅商人を自称しており本拠地を持つものの商品を探してあらゆる所に現れる男であった。
彼こそは、《旅商人》ジェフ・セイル。
身分こそ商人、その中でも店を持っていると言うのに市民権を何処にも持っていない男にして、数多の繋がりを持ち一代で財を築いた豪商であった。
砦への商品の運送から売買。
これは多くの者が割りに合わないと辞めていった中で、この男は利益を多く出している事からもただ者ではないことが分かるだろう。
しかし、そんな彼でも本来はここの街道を使わない。
が、今は使う理由があった。
亜人排斥を掲げているガル・ダーサ王国から一時離れて時勢を読もうと考え、テレッシア王国に向けて馬車を進めているのだ。
ついでに、少女を乗せてだ。
無論、この男といえど、否、この男だからこそ護衛も引き連れている。
真なる商人を目指すこの男は、自分の持つ物であれば全て価値が分かっている。
要するに、取り返しのつく物とつかない物と、だ。
彼にとっては命よりも金銭と言う考えがわからない。
命は取り返しのつく物とは言えないが、金など手に入れたときよりも少し少ない位働けばお釣りが入ってくるだろう。
何て言ったって、儲け方を知ったのだから。
コネもツテももう出来ているのだから。
だからこそ彼は割高であっても良い護衛を頼む。
だからこそ、彼はミスを犯したのである。
いや、これはミスとも言えないだろう。
彼は良くも悪くも実力主義である。
雑種であることを蔑まれてきた経験もあり、前評判や新参者、余所者と言うのでは候補からはずさない。
故に今回の護衛選びも実力で選び、新参者を選んだ。
新参者の凄腕など怪しいと言うのに。
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さて、白鷺大樹改めラセツはその護衛とジェフの記憶も覗かせて頂いていた。
そして見終えた後に、基本的にのんびりしているこの男にしては忙しく動き始めた。
この男は利益を見つけるに敏であり、特に己の見せ場であれば、有って無い様なものでも見つけ出す程である。
そして、人の弱味につけ込むのがうまい。
本人は困っているのを助けている代わり、少々気持ちを頂いているだけだとほざいている。
そしてそれが本音である。
まあ、多くの者が助けられた事を感謝していることと、妙におかしなこの男におねだりされても、
高くついたなぁ。はっはっは。
と憎めない辺りがこの男が生きてこれた理由であろう。
適度な図々しさは、もはや才能である。
そしてラセツは辺りを見渡して、目的のものを見つけると笑みを浮かべる。
しかしこの男が浮かべる笑みは余程でなければ、にやりとした笑みで、今回もその例によってニヤリと笑い、街道をテレッシア王国に向けて……商人の進行方向に向けて走りだし、先程見つけた少し小高い丘へと一目散に駆け抜ける。
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ジェフは自分で御者を務めており…削れる費用は削る為だ…故に気付いた。
空気が不穏だ、と。
こういう空気の時は大概が襲撃されるときの空気だ。
そう経験で知っていた。
これは何も特別な能力と言う訳ではなく、親とかを見て何となく
今日は怒っているなあ、
とか、感じるときがあるだろう。
それを場の空気を読める商人が感じないわけもない。
「さて、護衛の皆さん、どうやら働いて頂くようです。」
ジェフはそう護衛に声をかけると、護衛たちはもう剣を抜いていて、
「ああ、もう知っている。ここら辺であれば、お互いに不干渉地帯だ、人死にの一つ二つは消せるだろう。」
そう言って剣を構えた。
ジェフに向けて。
ラセツ→やってやるぜ!俺だってやればできるんだ
ジェフ→私の目も甘かったようですな
襲撃者→やむを得ない理由があるのだ。悪く思うな




