第16話 羅刹となろう
その後、色々と物色し、武器のほとんどを鋳溶かし、俺の七つ道具とでも言うべき武術にあった武器にする事にした。
古来日本は中国との貿易に金と刀を送っている。
ならば、それと同じことをさせて貰おう。
と思ったがほかの国の文字が書けない。
リッチに教えて貰おう。
さてさて、そんな俺は出口を見つけた。
「ふんっ!」
扉を開けてみると、螺旋階段がある。
そこを上っていくと、
「長くないか?もうかなり上ったんだが? 」
上を見てみると、あともう二周回った所に扉があった。
外に出ると、落ちた場所にいた。
「やっと、帰ってきたっ!」
その後、設計図に沿って色々な物を作り始めた。
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作り始めて十年の月日が経った。
かなりの物を作った。
水路も作ったし、家もログハウスから、純和風の家までを作った。
瓦や、煉瓦を作るために施設を作ったし、製糸場もどきや、鉄などを溶かすための反射炉も作った。
まあ、他にも色々作ったのだが・・・たった十年で作り上げた。
天才だと思う。
しっかり木材、煉瓦等も乾燥させた。
天然素材にこだわった。
天然素材しかないが……
寝る間も惜しんだ。
寝る必要はもうほとんど無いらしいが……
そして、蚕っぽいのから糸を取り、着物を大量に作り子供から老師まで、各種のサイズを取りそろえた。
蚕は何故か肉食で、定番のように糸を吐くのか?
と思ったら牙で食らい付こうとしてきた。
サイズは地球産の倍程度なのに、迫力はもはやモOラ。
若干泣きかけたが、繭を入手して絹を作り始めると、地球でも経験していたがやはり臭い。
バルスト産はそれに輪をかけて臭い。
まあ、虫の話は置いておこう。
俺は服を手に入れて落ち着いた時に考えた。
異常に早く色々な物を作った俺はこの職業でも生きて、うん?
待て、主人公達が町を作るのって異常に早い。あれはどうしているのだ
魔法、スキルという存在が思い浮かんだ。
そう、魔法にスキルだ。
俺は神の魔法を手に入れているではないか。
俺は愕然とした、しかし、作業の効率を良くするのは全て魔力が必要だった。
では、俺が使えるのは?と見ていくと。
いくつか例を挙げようと思う。
<星天の祈り>
天に己の気を送り、事前に選択した己の所有物を上から自分のいる星めがけて落とせる。落とせる数は十個以上。上限は無い。
<卷属化>
血を与え、己の卷属とする。
それによって、相手の生命力を上げる。
相互の承諾が必要
〈召喚〉
召喚に応えると事前に言って貰う事が前提で自分の周囲に呼び出す。
<卷属召喚>
自分の周囲に卷属を呼び出す。
召喚よりも楽であり、承認も必要ない。
強制的に呼び出すことも可能
だそうだ。
ただ、星天の祈り以外はほぼノーコストなのに対して、星天の祈りはかなりの量の気を使う。
他にも、硫黄と焔を天から落とすって言う奴もあった。
気と言えば、プロメテウス曰く、
「お主の気の総量は種類が多い分かなりあるぞ。
しかも、こんなに気の種類が多いのにそれぞれを分ける事も出来る。
ただ、これらの魔導書は基本的に魔力と神気しか使わんよ?」
だそうだ。
つまり、信じられるのは己の肉体のみってか・・・
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俺は、再びダンジョンに潜っていた。
途轍もない苦労をして、紙を生成、方法を確立した。
その後、武器を作るために薪等が必要になったのだ。
大量のトレントを刈る。魔物はどうやら俺が次の階層に行くとまた湧くのだ。
だから、伐採に次ぐ伐採を行っている。
例のデカいボストレントはいない。
またいつか出てくるだろう。
木を回収した俺はいそいそとかけ上る。
そして、炉で武器を溶かし、固め、折る。
それを繰り返し、玉鋼をつくった。
そして、刀の刃や槍の穂先、長刀の刃なども作っていく。
これらは地球のオークションにでも出せばそこそこの評価を取れるだろう。
しかし、これらの物は所詮数打ちの勘を取り戻すためのもの。
俺が力と共に渡す物では断じて無い。
俺は、魂の一品物を作りたいのだ。
そのために、水から土まで材料は全て厳選した。
そして、一本一本丹念に作ッた。
刀は俺の今使っている天群雲の剣に遠く及ばないが、それ以外の数打ちは越えたと思われる。
ならばと、現段階で出せる最高火力を出させ、灼竜の骨を溶かせなかったが変形させ、武器に使っていたのも溶かした。
そこからは、本気で一つずつ一つずつ丁寧に、丁寧に作り上げた。
季節が二度巡った頃、稲科と見られる植物を見つけた。
米の様だったのだ。
しかし、その米は日本の米の長~い品種改良の歴史なめんなよっ!
と言わんばかりの味だった。
でも!六十にもうすぐなる俺は頑張った。
代替わりすると、美味い奴同士を掛け合わせた。
俺の望むように育つのが少なからずいた。
そういうのを重ね六年目。
「ウム、なかなかだ」
俺の親戚の太郎作さんの米には全く及ばないがそこそこの米が出来た。
アミロース含量が日本の米とはまた異なり、東南アジア系の物に近い。
パンを作るならちょうどいいだろう。
別に米に命を懸けるほどの情熱もなかったが、収量が見込めて、品種改良が非常に容易なことから今後のいい経験になったと思う。
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「てな感じの事をやったんだ」
俺は、リッチと老師に邪眼を使い説明した。
「なるほど。確かに凄まじい切れ味だ」
と、リッチ
二人に顔出して無いなあと考え、収穫を振る舞っている。
ちなみに、作った建築物のほとんどは山の麓にあり、ダンジョンのそばには、純和風の一際力を入れた家しか無い。
山の傾斜の上で作るのは手間が掛かるし、土砂災害が怖かった。
山頂の泉を使って、一つ一つにしっかりと水路がある。
一応、井戸も二つは作ったが、高低差がある泉の方が使用が楽なのだ。
しかし、手入れの行き届いたゴーストタウンっていうのが、自分で作ったのに怖くなってきた。
ついでにと、リッチと勉強をし文字を覚え、老師と木刀とかを使って本気で戦ったがやはり、強かった。
リッチと老師に計画を実行する事を言って帰ろうとすると老師が、
「大樹、お前の作った武術はこの世界では異端だ。お前の武術は、`眼”を使わない技は全て戦闘経験とお前の教えがあれば本来ならあり得ないが、誰でも使える。その武にあたって、リッチの言い忘れている事を言おう。」
一息で酒を煽り
「お前の世界では知らぬが、この世界では`真名”と言う物がある。
これは、親や名付けの呪い師が付けた名だ。
この名を他の者に知られると言うのは、魔術で弱みを見せることになる」
だから、と
「他の名を決めておくと良い」
と言ってきた。
なるほど、真名ねえ。
日本にも、幼名と言う元服するまでに悪霊に取り憑かれないようにする名があった。
竹千代とか。
しかし、名は変えたくないものだが、
「大樹よ」
プロメテウスが言う。
「お主が本気で彼の者に一矢報いると言うのならば変えるべきだろう」
大樹は目をスッと細め思案する。
果たして俺にとって為すべき物は何か?
本当に大切な物は何か、と。
「・・・」
思わず黙りこむ大樹だが
「決めるのならば今決めるがいい。
そうでなくば、」
後悔するぞ?と。
嗚呼、そうだろう。
誇り高き白鷺の末裔にあって、名を捨てる。
これを先祖への侮辱と取らなくてどうすることか?
今、名を捨てる事によって俺は白鷺で無くなる。
少なくともこれからで会うものにとっては、そうだろう。
しかし、俺は、為さねばならない。
例え総てを擲とうとも。
もし、いま名を変えると言うのであれば、俺は偉大なる祖先に対して誓うことになるだろう。
例え、何を愛そうとも、何を作ろうとその総てを捨てる覚悟を持たねばならない。
誇りも、体裁も。
栄光ある死など無いであろう。
野望果たすその前途で死ぬと言うなれば、俺の魂は苦しみ続けるはめになるに違いない‼️
神に挑むとはそういうことなのだから!
為し遂げたとしても俺の全ては変わっているだろう。
誇りも何もない、只生ける屍、糞尿でも食らう低俗にして下淺なる畜生にも劣る屑へと成りはてているやも知れない。
それは…茨の道であろう。
先程の問いかけは恐らく、今ならば引き返せる、と言う事だ。
俺が辞めると言えば困るのは古の賢人であろうに。
慈悲深いものだ。
「良いだろう。名を変えよう」
それが、我が覚悟の証拠にして、決して引けなくする楔であろう。
「そうか」
プロメテウスは憐れむように呟く。
「ならば、羅刹を名乗るがいい」
「ふん。ラセツ、か。神への反逆者ならば相応しい名だろうよ」
そう言って俺は、決意を新たにし、
異世界の町に行くことにした。
第一編 落ちて堕ちた俺は 完
次回、第二編 穴蔵からの生還
ラセツ→我こそが悪鬼羅刹なり、我が前に立ち塞がるもの悉くを滅ぼさん
プロメテウス→……私は、このようなことをして許されるのだろうか
リッチ(仮)→……
老師→世俗において邪念と呼ばれるものも、研鑽には必要よ




