第10話 怒りに燃えよ!大樹!
前回のあらすじ
白鷺大樹は神への恨みを自覚した。
焼いた木の実が美味しかった。
蜂蜜酒美味しいけど甘いのがうっとうしい。
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大樹は食事を終えてふわふわとした毛を持つ葉で口を拭き取り、金猪の毛で作った見た目に似合わぬフサフサ感の歯ブラシを使って歯を磨く。
時刻は、時計があったのならば10時ぴったりを指しているだろう。
そう、就寝時刻である。
体調の良い時の大樹の体内時計は正確で、食事、就寝、起床、はたまた排泄まで、数分程度しかずれが無い。
方向感覚も渡り鳥の様な正確さを持ち、東西南北が大まかに、だが、夜でも大体分かる。大樹の貴重な特技と言えよう。
さて、寝る支度を整えた大樹は焚き火に、大きなトレントの木を割った薪木を投入する。
この木を取るのには危険を冒す必要のある為、一匹(?)分しかない。
〜採取時の回想〜
カン、カン
と言う音の響く今日この頃。
大樹は、トレント(仮)を竜と金猪の素材を複合して作った薙刀を使い斬り倒そうとしていた。
そして両方から切り終え…もちろんこっち側には倒れないように切った…た為、少し後ろに下がって、
「倒れるぞ〜!!」
周りに人は居ないが、木を倒す時の癖で注意を促す。
コレをやらないで切ると、親戚の木こりの叔父さんに殴られるのだ。
最近はそんなことやらないのが主流なのに……泣けてきた。
しかし、メキメキと言う音がしたと思ったら、木の実が来た時のような違和感。
刹那、向かい風が恐ろしい勢いで吹いてくる。
倒れる向きと反対にいるのだから、向かい風を浴びれば…
「や、やばい。退避ーッ!退避ーッ!」
こちらに倒れてくるのは、全長数十メートルの、胴回りも立派で神社などに在れば御神木となってもおかしくないような木だ。
当たれば潰れる。
大樹は逃げた。
それはもう全力全開であった。
金猪から逃げる時もかくや、と言う迫力で逃げた。
大樹は横に全力で逃げた、すると横風が吹いて追尾してくるのだ。
かと言って、右に走ってる最中に急な方向転換で倒れてくる木の下を通って左に行こうものなら上から積乱雲よろしくダウンバーストが来る可能性があった。
音を立てて迫り来る巨木。
生きた気のしない瞬間である。
まあ、倒木であるからして生きた木ではなく死んだ木である。……冗談は兎も角。
コレは間違いなくトレントの仕業であろう。
奴らは風使いなのだ!
恐ろしい目に遭った大樹は肝を冷やしながらも、横枝を切り落として丸太ん棒にしていく。
そして次に、そこいらに転がっている木の実を遠くに向けて投げる。
腐ると虫が沸くだろうし、そのまま放置して芽が伸びようものなら過密している為にしっかりとは成長はしまい。
木こりの教えを受けた大樹にそれは許せなかった。
まあ、実際には大樹が来る前からずっと綺麗に区画されていたように、過密化したら風魔法で周りのトレントによって折り倒されて、適度な空間が残されるのだが、大樹は其れを知らなかった。
で、だ。
大樹は丸太を輪切りにした。厚さ30センチの輪切りである。
次にコレを立てて、刀を構える。
「ふう」
大樹は鼻を膨らませながら息を吸い込む。
大樹は普段から30秒かけて息を吸い込み、50秒かけて息を吐き出す。
この動作を行なっている。
コレは、大樹が刀を振っている時に気付いたがこうするのを日常化すると肺活量が増加し、それと並行して筋肉の質も良くなっていた。
また、脳の活用できる割合も増えるのだがそれはともかく。
大樹は、刀を振る。
通常、木材を切るのに刀やカッターは向かない。
鋸の様に、楔形の刃が並んで居ないと噛み合って抜けないのだ。
だが、それでも。
大樹は、一歩進むために。
シュッ、と言う音も残さず。
斬った。
〜回想終了〜
と言うわけで、八つに斬った薪を生木の状態で焚き火に焚べて、乾燥させて置いたのを今加えたのだ。
大きさや風の状態、火の感じを見て大樹は明日の朝までは行けるか、と考えてから枝を集めて置いた所為で小山の様になっている、その中に潜り込んで頭だけ出して寝た。
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「くあ〜っ…んン…。」
朝の四時。
大樹は口をガパッと開けて欠伸をし、起き始める。
大樹の寝起きは悪くないが最近は朝に意識ははっきりとしているのに体が動かない事が多かった。
最初は金縛りかと思ったが、夜寝る時に体を温めてから冷えない場所で寝る。
そして、日光か焚火にあたり体を温めると活発に動く事が分かってからは、もう習慣化している。
今日は布団を厚めにしていたお陰かうごきやすいぞ?
と、思いながら枝を押し退けて出て来る。
カエルの冬眠明けか、羽化したてのカブトムシを彷彿させる動きでのっそりと現れた大樹は、腰まである長髪に絡まった枝を鬱陶しく思いながらも、未だ赤々と燃えている焚火にあたる。
しばらくしたら、火の中から良さそうな火種を竹で作ったライターに入っている前の火種と入れ替えて、腰に下げる。
そして、次に鍋の中に水を注ぎ竹の筒を置く。
竹筒の腰ほどまで水はある。
竹筒に、蜂蜜酒を注ぎ火に焚べる。
湯気に乗って仄かな香りがしたら、飲む。いや、呑むと言うべきか。
それで、体が中から温まり毛穴が開き始める。
そこまでしたら、よっこらせと立ち上がり鍋を片し出す。
鍋の水はまたしても出てくる竹筒に注がれて、背負子にぶら下げられる。
今の大樹の背負子は、金猪や灼竜の骨や牙、皮。水や蜂蜜酒。薙刀や槍に弓に矢筒、棒等の武器が入って、二宮金次郎かト◯ネコかと。
これでも抑えている方で、水よりも保存の利く蜂蜜酒を増やして嵩張りづらくしてるし、その蜂蜜酒にしても大部分は各層に埋めて保管している。
骨や牙にしても全部は持ってきていない。アイテムボックスなんて言うものは幻想なのだ。
尾瀬の荷物運びほど過酷じゃないさ、と自分を励ましながら今日も大樹は歩く。
歩く……木の実から逃げ惑う事数時間。
日の登る前に起きて、東に朝日を見る頃に歩き始めた大樹は携帯食の焼き木の実を食べながら木の実の弾丸から逃げ惑い、そして今、新しい階段が見えた。
〜第十回層〜
白鷺大樹は、階段をゆっくり降りる。
記念すべき(?)10階層であるからして、強敵を恐れていた。
しかし、それは天が落ちてくるのを心配したようで、馬鹿でかい木が一本あっただけだった。
その木からは、漂う様に光の玉が溢れていた。
木の大きさは縄文杉と比べても桁違い。
まさに巨木であった。
大樹はその木から溢れ出る光に、火に釣られる蛾の様に歩いていく。
大樹の心には、雄大な景色を見た人間の感じる感謝の様なモノがあった。
ふらりと近寄る大樹に、高速で降る物がーッ!
ボコっ!!
ドサッ。
大樹の頭に、木の実が落ちた。
大樹は倒れた。
大樹は痛みに耐える為に、怒りを燃やした。
そして、薙刀を持って幹に薙ぎ払いを加え続ける。
八つ当たりの癇癪である。
そして、とうとう、斬り切った。
自然破壊はんたーい。
ズズーン!と言う派手な音を立てて、巨木は倒れた。
大樹は痛みに倒れた。
ピクピクと震えていた大樹は、頭に手を置き≪治癒≫と唱える。
大樹が、体から何かが抜ける様な感覚を感じた後に発動する。
発動すれば傷は塞がり、痛みはあるものの段々薄れて行く。
ムクリと起き上がると、体に付いた土を払い、
頭にコブでもできていまいか?
と、頭をスリスリさする。無論、治っているが気になるのだ。
そして、おもむろに隣に転がっているバスケットボール程の木の実(世界樹の)を軽く放り刀でなでるように斬れば皮に切れ目が入るから実の尻とヘタの方を片手づつで持って捻る。
すると、切り目を境に皮だけが回りヘタの方がつるっと剥ける。
尻の方には皮が着きっぱなしであるから手も実も汚れない。
「むふふ。」
良い仕事をしたと言わんばかりの笑みを浮かべて怪しげな笑い声を漏らす。
そして、剥き出しになった半球に齧り付く。
齧り付けば溢れて来る果汁。
齧りながらも吸い付かないと垂れかねない。芳醇な香りと甘み、何処か酸味も感じるがそれが甘すぎるという事を防ぐ。
ーッ!いや、それだけでは…ない。
大樹はその果汁を飲み込み、その刹那目を見開き、心の中で驚く。
口に出さないのは、実から口を離すと果汁が垂れるからである。
果汁を飲み込むと、桃の様な甘味を感じるがジュース等でありがちな、喉がひりつくほどの甘さは無く、スッキリとした喉越しを堪能させてくれる。
思わず夢中になって吸ってしまうが、実を齧っている最中であってジュースを飲んでいるわけでは無い。
「ぶゴフッ、ゲフッ!ケホッ、ケホッ」
果汁に混じって果肉の粒が喉に吸い込まれ、変なところに入る。
「美味い、美味いね。体に力がみなぎる様だ。ウンウン、若返る様だ」
お前は何歳だだ。
ムシャムシャと食べ進めあっという間に一つを食べ尽くすと、最後にビワの実程もある巨大な種をプッと吐き出し、ゲフッとゲップをする。
しかし、食い意地の張った大樹は食べ足りない。
そして、後ろを向けば、
沢山あるでないか
と、言わんばかりの期待に満ちた顔で無残に倒された世界樹を見る。
胡座を組んでいた大樹は立ち上がるのも億劫だと、四つん這いで近寄る。
地味に速い。
大樹は実を一つもぐと、今度は違う形で食べようか?と考え、趣向を凝らし始める。
今度はスイカの様にしようか、と考えて再び実を放った。
~✴️
数百とある実を食べ尽くす事は大樹と言えど出来ない。
人は結局どんなに美味しくても、同じ物だけを食べ続ける事は出来ないのだ。
そんなことが出来るのはテレビで見る大食い選手ぐらいだろう。
まあ、つまりは飽きが来た。
大樹は、世界樹の巨木の中では小さい枝を一本(世界樹では小さいが普通にでかい。)斬り、杖にした。
形が気に入ったのだ。Vの主人公の持っている杖に似ている。
大樹の背負子からしたらそろばん型の杖の方が似合ってるが……
そして、実を四つ程背負子に載せる。
四つなのは、この実は水分を多く含んでいる為、案外重いのだ。
そして、いくつかは絞り竹筒に入れカスは纏めてザルの上に置き、もう一つのザルで蓋をするように重ねて蔦で縛ることで干して、ちょっとしたおやつにするのだ。
他の実はどうしたのか?と言えば、一個階層を戻ってトレントを狩り(刈り?)小さい小屋を作ってその中に入れた。入りきらない分は放置である。
嗚呼、もったいない。と、思いながら次の層への階段を探す。
「お、あれかな?」
大樹はしばらく探していたが大きな岩の陰に階段があるのを見つけた。
階段の周りはすっかり苔むして、大きな岩などもはや苔玉と化しているのに相変わらず階段は綺麗だなァ、と呟きつつ階段に早速手に入れたばかりの杖をつきつき進んで行く。
大樹は15の子供であるから手に入れたばかりのものを早く使ってみたいという欲求は自然である。
カツンカツンと杖を突きながら50段歩き進む。
常人だったら真っ暗で見えないが、大樹の目は階段が見える為長い階段だなァで終わるが、何も見えない状況で50段もの下り階段は降りたくないものだ。
さて、そうして降りて行くと
ンモ〜〜
…立派な牛達が闊歩していた。
次は牛肉か。
大樹→( ゜言 ゜)




