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お誕生日プレゼントは美青年でした。  作者: ミケ~タマゴ
3/5

♡03話 プレゼント③



 ミユアーミは両親と青年と四人で馬車に乗り込みました。

 青年はミユアーミの脇に、両親は向かい側に座ります。座ったとたん、背の高い青年との身長差が縮んだ事に気が付きましたが、これはフワフワしたドレスのせいであり、女性の方がお尻の肉が厚いのは当然なのです。そう、上半身と下半身の配分とか比率とかは考えてはいけないのです。


「フフフ、もう一度言うわね。お誕生日おめでとう、ミユアーミ。素敵な舞踏会になるといいわね」


「ああ、お誕生日おめでとう。いい青年だろう? これだけの顔が側にあれば、舞踏会を楽しく過ごせるはずだ」


 ニコニコと向かいの席で笑顔を浮かべる両親を見て、ミユアーミは悟りました。

 この美青年はお誕生日プレゼントなのです。

 6人目の婚約者のプレゼントです。


 横に座る青年をチラリと見ると、目があってニコリと微笑まれました。


 うっ、眩しいと目を細めながら、ミユアーミは考えます。

 これだけの美青年です。引く手あまたのはずです。脅されたのか、何か弱みを握られたのか……勘ぐります。何か理由があるのは間違いありません。


 なんという事でしょうか。楽しい贅沢三昧行かず後家暮らし計画が、危うくなっています。


 こちらを見つめる両親の笑顔から『嫁に行け~い。行くんだ!』という重圧を感じ取りました。







      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 王宮大広間に白いドレスが舞います。


 最初は両陛下のダンス。その次は他の王族や高位貴族の方々が混ざってのダンス。


 それが終わると、今度は舞踏会に初参加する女性を伴ったカップルだけのダンスです。白いドレスがあちらこちらで、フワフワクルクルと舞っています。流れる曲は春を寿ぐワルツです。


 青年はとてもダンスが上手でした。ダンスの先生や父や兄、限られた男性(考えたら婚約者とは誰とも踊った事はありませんでした)としか踊った事はないミユアーミでしたが、青年のダンスの腕前が素晴らしいのは分かりました。

 体が軽く、ステップが軽やかなものになります。巧みなリードです。優雅です。華麗です。もしかしたらダンスの先生より上手いくらいです。


 体がうまく誘導されていきます。歩幅も無理がありません。ターンもステップもスイングもとても楽にできます。一歩、二歩、三歩、ライズアンドフォール、自然に誘導され、とても優雅にいつもより楽しく踊る事が出来ました。


 曲が終わり、青年にエスコートされて広間の端の方に引っ込みます。ふうっと心地よい疲労でため息をつくと、大勢の視線を感じました。


 この視線は自分へのものじゃない事は、ミユアーミには直ぐ分かりました。

 こんな美青年が華麗なワルツを披露したのです。注目を浴びるのは当然でしょう。


「疲れていませんか?」


 脇の美青年は視線を何も感じてないように、ミユアーミに向かってニコリと微笑みます。


「あら、ミユアーミ様じゃありませんの」


 目を細めて青年に返事をする前に、女性の声がかかりました。振り返るとそこには、たいして親しくもない、どちらかというと邪魔臭かった学生時代の顔見知りがいました。自分の容姿に自信があり、男子学生を侍らしていた方のような記憶があります。

 チラチラと青年に走る視線で、なんで声をかけてきたのかという疑問はすぐに解けました。


「お元気そうなお姿を拝見して、安心しましたわ。五回目の婚約がダメになったと伺ってましたから、舞踏会には参加されないのではないかと心配してましたのよ」


 脇の青年に聞かせるように、体がそちらを向いています。パチパチ瞬きの、上目づかいの技を見せます。


「ハア、参加してます。ご心配どうも……」


 ミユアーミの返答は、おざなりなものになってしまいます。本当の心配とは違うし、彼女の目的が丸分かりだからです。

 気の抜けたミユアーミの言葉の後に、沈黙が続きました。

 彼女は目線や仕草で、頻りに自分の存在をアピールしていますが、青年は黙ったままです。ミユアーミも彼女をわざわざ紹介する必要性を感じていないので、黙ったままです。


「……えーと、私はミユアーミ様の学友だった」


「あっ、そう言えば王宮の庭園は素晴らしいそうです。見に行きませんか」


 痺れを切らせた彼女が自己紹介を始めたとたん、青年がミユアーミの顔をのぞきこんで話しかけてきました。ニコリと微笑まれます。


「はあ……」


 ミユアーミが目を細めて、気の抜けた返事をすると青年が手を握りしめてきました。


「失礼します」


 彼女の方を見て軽く頭を下げると、ミユアーミの手を引いて歩き始めます。目の端に、残された彼女の顔が赤く染まるのが映りました。



 広間から庭園の方へと出ました。


「あの、彼女と話さなくてよかったんですの?」


 手を引っ張って、早足で歩く青年に話しかけます。


「必要ありません。何の価値もない女性です。邪魔臭いだけです」


 きっぱりそう言い切った後、ハッとしたように足を止めてミユアーミの方を振り返りました。


「もしかして、親しくされている方でしたか?」


「いえ、全然」


 ミユアーミの即答に、青年はホッとしたように息をつきました。再び前を向いて早足で歩き始めます。キョロキョロと辺りの様子をうかがっているようです。


「あそこ……あそこに行きましょう」


 もう、かなり広間からは離れました。庭園の小道には、日が落ちても庭園の花々が楽しめるように所々に灯りが設置されていますが、青年が指差したのは何だか薄暗い一角でした。休憩用にベンチらしいものが見えます。

 庭園の花を見に来たはずなのに、ここまで全く花の観賞などはしませんでした。ただひたすらに人の気配のない奥を目指して歩いただけのような気がします。


「ここに座って下さい」


 青年は上着からハンカチを取り出すと、ベンチに敷きます。言われるままにミユアーミが腰かけると、青年は正面に立ちました。

 スーハーと息を整える仕草の後、ザっとミユアーミの前に跪きました。片膝を立て、手を前に出した優雅な姿勢です。


「ミユアーミ嬢、あなたは素晴らしい。価値のある女性です。どうかこの私と結婚していただけませんか?」


 まさかのいきなりのプロポーズでした。何をするつもりで奥を目指しているのか、好奇心で黙ってついてきましたが、これには驚きました。

 身の危険は全く感じませんでした。こんな美青年が自分に手を出すなんてあり得ません。そう、結婚したいなどと本気で思っているわけがありません。


「お断りします」


 驚愕から立ち直ると青年に答えました。ミユアーミの返事を聞いて、今度は青年が驚愕します。驚いた顔も崩れない、美しい青年です。


「なぜですか?!」


「嘘臭いからです」


 怒鳴るように叫んだ青年に即答します。


「どこが嘘臭いというのですかっ?!」


「あなたの顔です」


 立ち上がって再び叫んだ青年に、また即答します。


「顔?! 私の顔のどこが嘘臭いと言うのですか?!」


「全部です」


 続けて叫んだ青年に、またまた即答します。

 口をパクパクと数度開閉させた後、青年は息を整えて表情を引き締めました。


「具体的にお願いします」


 今度は落ち着いた声です。ミユアーミは頷くと話し始めました。


「では、言わせていただきます。あなたのような美青年が、わたしと本気で結婚したいとは思えないからです。あなたはわたしを価値ある女性と仰いましたが、自惚れるつもりはありません。

 さして美人でもなく、ましてや世間様では、5回も婚約破棄された事故物件扱いになっている自覚はあります」


 一気に言い切ると、青年がじっとこちらを見つめてきます。煌めく星を宿した紫水晶の目です。


「あなたには価値があります。おおありです。お金をたくさん持っていらっしゃるでしょう?」


「お金ですか?」


「ええ、お金です」


 今度は青年の即答です。黙って青年の顔を少し観賞します。お金目当てなら納得できますが、完璧に納得したわけではありません。


「他にもっと美人で、お金持ちの女性はいらっしゃるのではないかしら? 何も5回も婚約がなくなった女を、相手にしなくてもいいと思いますわ」


 ミユアーミの質問に、青年は大きく首を振りました。銀の髪の端が動きに合わせてキラキラと揺れます。薄暗いはずなのに、どこから光を取り込んでいるのか不思議です。


「いません。少なくとも私の知ってる限りの女性にはいませんでした。皆、婚約者がいるんですよ。5回の婚約破棄のどこが悪いのですか。ありがたい事でしょう。

 聖四公家の一つ、ノースリッチモンド家のご令嬢が婚約破棄されたおかげで、たっぷりお金を持っていて独り身でいると聞いた時は心が弾みました。うまく公爵とお知り合いになれて、娘のエスコートを頼むと言われた時は天に感謝しました」


 青年は力説すると拳を握りしめました。形のいい指で作られた拳です。見えている親指の爪が、形よくツヤツヤしているのが目に入りました。


「お金が欲しいだけなら、何も結婚しなくてもいいんじゃありません? それだけの美貌、容姿をしていらっしゃるんですもの。お金持ちの未亡人の愛人になるとかの手もありますわよ」


 ミユアーミがそう言うと、再び青年は大きく首を振りました。


「一度は考えましたが、私には無理だと思いました。容姿には自信がありますが、技術的な自信はないんです」


「顔だけですか?」


「ええ、顔だけです」


 青年は答えるとミユアーミの脇に座りました。着席の許可を取られなかったとか、不粋な事は言いません。


「私は全寮制の男子校にずっといたんですよ。8歳の時に母が亡くなって、母によく似た私の顔を見ているのが辛いとか何とか理由をつけられて、父に外国の全寮制の学校に放り込まれたんです」


 青年の身の上話が始まりました。耳の奥に甘く響く声です。





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