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お誕生日プレゼントは美青年でした。  作者: ミケ~タマゴ
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♡02話 プレゼント②



「そうなの。うっとりするほど、容姿の端麗なとても素敵な方なのよ。」


「ああ、顔がものすごくいい、よい青年だ」


「ええ、あんな綺麗な青年は、ちょっといませんわよね」


「ああ、顔だ。観賞できる顔だ。顔だけで十分価値があるいい青年だ」


 両親が兄たちの代わりに、エスコートを頼んだ青年を褒めます。容姿を褒めます。顔を褒めます。まるで顔以外褒める所がないように聞こえて、ミユアーミは眉をひそめました。


「夕方には迎えに来るそうだ。その時にちゃんと紹介しよう」


「今日は支度におわれて、忙しくなりそうね。早く朝食をいただきましょう」


 両親の言葉にミユアーミは頷きます。

 母親の言葉が合図になったように、メイド達が其々の前に食事を置き始めました。

 兄たちも、もう顔を上げています。後ろめたい時間は短かかったようです。


 朝食の皿が置かれていきます。鳥のササミに人参とキャベツの千切りのサラダ、りんご酢を使った薄茶のジュレがかかっています。

 澄んだ琥珀色のコンソメスープ、立ち上った湯気からは食欲をそそる良い香りがします。赤と薄紅と茶の3種のソーセージ、ちょっと焦げ目の付いたベーコン、振られた胡椒の黒い粒が美味しそうなアクセントになっています。

 五層のパンケーキはいい焼き色で、皿の脇にはホイップされたバターとイチゴのジャムとマーマレードの入った小皿がそえられています。そして生クリームがタップリ載せられたプリン──生クリームの上に置かれたチェリーの赤が映えます。


 他の皆の前を見てみると、パンケーキになっているのも、プリンがあるのもミユアーミだけのようです。他の皆は白パンでプリンはついていません。お誕生日メニューになっているのでしょう。

 豪華です。ミユアーミは思わず笑顔になりました。


「今日の糧を得られた事を天に感謝しよう。今日も健康で活動できますように『ゲンキモリモリモーグモグ』」


 父親が胸の前で手を組み、食事の前に祈りを捧げます。


「『ゲンキモリモリモーグモグ』」


 手を組み、父親に続けて皆で唱和しました。






   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「お嬢様、お迎えが来られたようです」


「えっ、もういらしたの?」


 メイドに三人がかりでドレスを着付けて貰っている最中です。報告に来たメイドのいる扉の方に慌ててミユアーミは顔を向けました。


「大丈夫です。もう、後はアクセサリーを付けて、靴をお履きになるだけですわ」


 慌てるミユアーミに年配のメイドの声がかかります。


 白いドレスは胸元のあいた大人っぽいデザインになっています。でも胸の谷間が見えないように白いレースでうまくカバーされていました。下品にならない大人っぽさです。


 胸は持ち上げました。寄せて集めて引っ張って、頑張ってあるように見せかけました。


 腰は締めました。実際のウエストはもっと下ですが、上の方を締め上げて足を長く見せかけています。胃が犠牲になりましたが、ミユアーミは耐えました。


 締め付けて余った肉は下方に追いやられています。腰から膨らんだドレスです。余った肉は隠されます。『まさかこれほどの肉が隠されているとは誰も思うまい』というほどの技術をメイド達は見せてくれました。


 耳にサファイヤと黒曜石の耳飾りがつけられます。黒曜石は細いチェーンと小さなフックが付いていて、サファイヤの耳飾りに付け加えられるようになっていました。


 胸元のルビーの首飾りにも黒曜石がつけ加えられます。中央を大きなルビー、その両脇を小さめの黒曜石が飾る形になりました。


 足先にエメラルドでとめられたリボンの付いた銀の靴は、小さな黒曜石が幾つもついた丸いゴムでエメラルドの部分をパチンと囲いました。


 トパーズの付いた扇は黒曜石の粒が先に付いた二本のチェーンが手元の部分に付けられ垂れています。


 シローアント兄は頑張りました。わずかな時間でこれだけの黒曜石の飾りを用意したのです。おかげで統一感は出ました。出た事にします。全く違和感がないとは言えませんが、狙ってやってるような振りは出来るでしょう。


 『それ、変じゃなくて?』という視線に『あら、様々な色彩を黒で引き締めているのよ。この新しさがお分かりにならないなんて』と視線を返す事が出来ます。鼻で嗤われる前に鼻で嗤って『これが分かんないなんてバーカ、バーカ』と相手を嘲笑し、『えっ、新しいの? 流行りなの?』と混乱させる事が出来ます。


 シローアント兄が誕生日を忘れていた事は、ミユアーミの中で帳消しになりました。


 肩に薄手のショールをかけて貰って完成です。


「お美しいですわ」

「いい出来です」

「別人のようですね」


 三人のメイドが口々に称賛の言葉をかけてくれました。化粧もバッチリです。顔がもう一枚の皮膚で覆われたような違和感があって、皮膚呼吸が出来ているか心配になりますが、メイド達はベテランです。これでいいのだと自分を納得させました。


 部屋を出て早足で玄関ホールに向かいます。階段の前までくると息を整え、ゆっくりと降りました。

 マナー教室で学んだ『淑女の階段の降り方』です。一段飛ばしで昇ったり降りたりはしてはいけないのです。どんなにもどかしくてもしてはいけないのです。『秘めた力は秘めておけ』です。


「ミユアーミ、用意ができたようだね」


 優雅に見えるように気遣いながら階段を降りきると、父親の声がかかりました。


 視線をそちらに向けると、両親と一人の青年が立っていました。


 一瞬で両親の姿はぼやけ、白い蝶ネクタイに黒の燕尾服を身につけた青年の姿だけがミユアーミの目に入ります。美しい青年でした。


 銀の髪はキラキラと艶やかで、前髪は後ろに撫で付けられています。肩に届くほどの長さはありませんが、少し長めの髪型です。青年によく似合っています。

 秀でた額、抜いて剃って形を整えているミユアーミの努力を、嘲笑うかのような形の良い眉。くっきりとした二重の、切れ長で深い紫の水晶のような目は、角膜の存在感が著しく大きく煌めいています。角膜が大きいと光を集め易いのでしょうか?

 ミユアーミはアイライナーで形をごまかし、シャドウで陰影をつけて、少しでも目が大きく見えるように頑張りました。まつ毛を長くみせるため、つけまつ毛を付けカールさせマスカラで伸ばしました。青年のまつ毛は自前です。長く自然にカールしているようです。

 高めの筋の通った鼻は顔の真ん中で形よくおさまっています。ミユアーミは鼻筋に白のパウダーで線を引き、鼻の両脇は暗めのファンデーションと茶のシャドウで影をつけ高く見せかけています。

 ファンデーションを塗りたくりごまかす必要のない、染みもソバカスもニキビもあばたも何もない白くきめの細かい肌。ほほ紅も塗ってないのにうっすらと紅の差す頬。リップライナーで縁取りしなくても形のよい唇。口紅を塗らなくても薄桃色で、かさつきなど全くない瑞々しさです。

 この顔はメイド達のキャンバスに絵を描くような高い技術と努力を鼻で嗤う、素で美しい顔です。


 姿勢よくスラリと高い背丈。肩幅は広く、締まった腰は高めの位置にあり足が長いのが分かります。胃を犠牲にダミーの腰を作ったミユアーミを虚しくさせます。

 仕立てよく体にフィットした燕尾服は、青年のスタイルの良さを際立たせよく似合っていました。


 ジーっとお互いを見つめ合う時間が過ぎます。青年の唇が何か言葉を紡ぐように動くのが目に入りました。


「ホホホッ、そんなに見つめてミユアーミったら。いった通り麗しい方でしょう」


 青年が何を呟いたのか考える前に、母親の笑い声がホールに響きました。


「ハハハッ、顔に見とれたな。この顔のいい青年はクリストファー・エドワード・ノホポヤ・アーブネギカモ侯爵だ」


 父親の紹介のすぐ後に、青年が胸に手を当て軽く頭を下げます。


「クリストファー・エドワード・ノホポヤ・アーブネギカモと申します。本日はこんな可愛らしいご令嬢のエスコート役を任されて光栄です」


 背筋がぞくりとするような甘さのある声です。優雅な所作に声も麗しい青年でした。顔を上げて、ニッコリと微笑みかけてきます。ミユアーミは思わず目を細めました。何か眩しさを感じたのです。青年の背後に薔薇の花が咲き乱れ、回りがキラキラと輝いているような錯覚にとらわれました。


 コホンと父親の咳払いが聞こえ、ミユアーミはハッと我に返りました。


「ミユアーミ・ルルベル・サラサ・ノースリッチモンドですわ。こちらこそ、こんな素敵な方にエスコートして頂けるなんて、夢のようです」


 ドレスの裾を軽く摘まんで膝を曲げます。何度も練習した挨拶です。辛い特訓でした。

 『いーいザマスか?淑女は初めの印象がとても大事ザマス。美しく上品に優雅に、最初の一発に魂を込めるザマスよ』

 マナーの先生の言葉が脳裏を過りました。姿勢をムチでピシピシと正され、何度も何度も繰り返しました。血と汗と涙の挨拶です。魂の淑女の挨拶をかましたはずです。

 でも、笑顔はほんの少しだけ口元を持ち上げる事にとどめました。まだ、化粧を崩すわけにはいきません。


 青年が近づいて来ます。間近に見ると目が痛くなりそうな美貌です。


「どうか、クリストファーと呼んでください」


 そう言って差し出された青年の手に、白い手袋をつけた手を軽くのせました。


「では私の事もミユアーミと……」


 艶々としたよく手入れされているのが分かる形のよい爪、長い指。手までも極上な青年でした。





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