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お誕生日プレゼントは美青年でした。  作者: ミケ~タマゴ
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♡01話 プレゼント①



「ミユアーミ、お誕生日おめでとう!」


 朝食をとりに食堂に現れた少女に、先に席に着いていた年配の女性が立ち上がって声をかけます。


「おめでとう。もう、おまえも16か。」


 女性の脇に座っていた貫禄のある男性も立ち上がって声をかけました。


 声をかけられた少女は目を瞬かせると、二人のいるテーブルに近づきました。


「ありがとう。お父様、お母様、おはようございます。」


 そう言いながら席に着いたのは、茶髪に茶色の目の可愛らしい少女です。女性と男性はこの少女の両親でした。


「お誕生日おめでとう! 我が妹よ!」

「お誕生日おめでとう! ミユア」

「お誕生日おめでとう! 今日も可愛いね」

「お誕生日おめでとう! そうだっけね」

「お誕生日おめでとう! 一つババアか」


 少女が席に着いたとたん、ガヤガヤと5人の青年が現れました。少女の回りで口々に祝いの言葉を述べます。おめでたい集団です。


「ありがとう。イチローネルお兄様、ジロートラヤお兄様、サブローハドリお兄様、シローアントお兄様、ゴローマルクお兄様」


 赤髪、青髪、緑髪、黒髪、黄髪の青年の顔を順番に見つめながら、少女はお礼をいいました。


「今夜の王宮舞踏会でミユアーミはデビューするのね。わたしとお父様からのプレゼントがありますよ」


 ガヤガヤ現れた青年達が席に着くのを見届けると、母親が嬉しそうにそう切り出しました。


「豪華なティアラと最高級の白いドレスだよ。おまえが身に着けるところを見るのが楽しみだ」


 父親も母親の肩を抱いて、嬉しそうに微笑みます。


「俺はルビーの首飾りをやろう」

「私からはサファイヤの耳飾りだ」

「僕はエメラルドの飾りが付いた靴だよ。」

「…………」

「オレからはトパーズの埋められた扇をやる」


 口々に祝いの品が述べられた後、何も言わなかった黒髪の青年に皆の視線が集まります。時間が経つにつれ、皆の視線に非難の色が混じり始めます。

 『おまえ、忘れてたな!』という非難です。


 その通りでした。お気楽な黒髪の青年はすっかり忘れていたのでした。皆の視線が厳しくなるにつれ、青年の顔にダラダラと汗がつたい始めました。

 しばらく沈黙が続きましたが、黒髪の青年は突然立ち上がりました。


「歌だ! ぼくからは歌と踊りだ!」


 そう叫ぶとテーブルから離れ、踊り始めます。


「オッオッオッ♪おたんたんたん、たんじょ~び♪」


 奇妙な動物の鳴き声の様なものから、変な歌が始まります。


 体を前後に揺らし、両手をヒラヒラと顔の横で振ります。キョロキョロと動く目が『今、考えてま~す』と物語っています。


「たんじょ~び、めでたいな♪めでたいな♪ハア、めでたいな♪」


 『めでたいのはおまえの頭だ』とは誰も言いません。視線を冷たくするだけです。


「おめでとう~♪おめでとう~♪おめでとう~♪」


 体をあちこちに捻る不思議な動きのダンスのようなものが披露されていきます。最後に高く足を振り上げジャンプ、着地と共に足と腕を体に引き寄せ、高速回転。回転が止まると両腕を広げて叫びます。


「おめでとう! これがぼくからのプレゼントだあ!」


「……こちらを向きなさい。シローアント。尻を見せて、おめでとうと言われても嬉しくないと思うぞ」


 父親が、呆れたように言って着席します。


「そうですよ。素直に忘れていたと謝れば良かったのですよ」


 母親もハアとため息をつくと椅子に座ります。


 後ろ姿の青年の姿がビクリと震え、そっと振り返ると項垂れて席に戻ってきます。


「ごっごめんよ、忘れてたわけじゃないんだよ。たまたま今日は記憶から抜けてただけなんだ。後でちゃんとプレゼントはさせてもらうからね」


 スッカリ忘れていたと白状しました。最初からそう言えばよかったのに、いらぬ恥をかくことに労力を使った間抜けやろうです。


「いえ、さすがシローアントお兄様。見事な歌と踊りでしたわ。ありがとう」


 ミユアーミはニッコリと微笑むとお礼を言いました。

 声は伸びがあり耳に心地よいものでした。──歌詞は残念無念これまた残念なものでしたが……。

 踊りも柔軟性と切れがあり、称賛に値するものでした。──変な歌付きの奇妙な動きじゃなければですが……最後をケツで締めるとか間抜け過ぎて哀れです。

 5人もいる兄たちです。ハズレも出ます。

 ハズレに対する寛容さを持ち合わせなければいけないとミユアーミは思いました。忘れていた事を怒ったりしません。


 そう、お誕生日とデビューのお祝いが一緒くたになって手を抜いてるとか、兄たちの祝いの品がバラバラの色使いで、身につけるには勇気がいるとか、そんな事は言ったりしません。


「あーっ、ミユアーミ。エスコートの男性なんだがね。知り合いの侯爵家の青年に頼んだんだよ」


 父親の言葉に、5人の兄が一斉に下を向きます。後ろめたいからです。


 ミユアーミは5度婚約をした事があります。5人とも兄たちの友人で、兄たちからの紹介でした。


 うつむいた兄たちを順番に見ながら、過去の婚約者達を回想します。


 最初は3歳の時、イチローネル兄が『美味しいお菓子を気前よくくれるいいやつだ』と男の子を屋敷に連れて来たのです。

 第一王子の遊び相手の一人として選ばれた兄は、王宮で知り合った遊び仲間の一人を紹介してくれました。いつの間にか婚約してました。

 でも、一年もたたず、『お菓子はもうこれ以上貢げない』という理由で婚約を解消されました。

 その後、王子の遊び相手は辞退されたそうですが、幼かったので記憶にあまり残ってないどうでもいい相手でした。


 次は6歳の時、ジロートラヤ兄が『打たれ強い下僕根性のあるいいやつだ』と魔術学院で知り合った少年を紹介してくれました。いつの間にか婚約してました。

 でも、一年もたたず、『子分にはなれない。もうこれ以上実験台にされたくない』と婚約を解消されました。

 その後、彼は別の魔術学院に移られたそうですが、少年に同情めいた気持ちを抱いた事が、記憶に残っています。


 その次は9歳の時、サブローハドリ兄が『趣味が合うんだ。ノリの合ういいやつだ』と通ってる学院の同級生を紹介してくれました。いつの間にか婚約してました。

 でも、一年もたたず、『趣味が被るんだ。これ以上目当ての女の子を横取りされたくない』と婚約を解消されました。

 その後、学院から姿を消したそうですが、婚約がなくなってよかったと思いました。ホント最低なやつでした。


 四回目は12歳の時、シローアント兄が通う芸術サロンの仲間でした。『話が合うんだ。分かり合えるいいやつだ』と紹介してくれました。いつの間にか婚約してました。

 でも、一年もたたず、『紙一重なんだ。仲間と思われるのは危険なんだ。もうこれ以上合わせられない』と婚約を解消されました。

 その後、サロンには現れなくなったそうですが、納得しました。頑張った方になんのわだかまりも抱きませんでした。


 最後は15歳の時、誕生日を迎えて間もない時です。ゴローマルク兄が同じ王宮騎士団の後輩の青年を連れて来ました。『無口だが、努力家のいいやつだ』と紹介してくれました。

 青ざめる青年といつの間にか婚約してました。

 でも、一年もたたず、『四回も婚約破棄してる女なんかごめんだ。兄弟になりたくない。もうこれ以上言いなりになってたまるか』と婚約を解消されました。

 その後、遠くへ配属が変わったそうですが、無口ではなく、溜め込むタイプだったようです。努力家というよりゴローマルク兄が怖くて頑張っていたのでしょう。自分が事故物件になっているのも分かりました。これで五回目、いよいよ嫁の行きてがなくなったのを悟りました。


 婚約者達は直接ミユアーミに解消の理由を言っていきました。本音です。

 でも、正式な婚約解消の申し出は、先方の一身上の都合と言う事になっていて、たくさんの慰謝料が払われました。両親はそのお金をミユアーミにくれました。いずれもそれなりの家格の方達だったので、別に結婚しなくても贅沢三昧しながら暮らしていけるお金が貰えました。ありがたい事です。胸をはって行かず後家ができます。


 五回も婚約しましたが、今ミユアーミにはエスコートしてくれる男性がいません。この国では初めて社交界デビューする女性は、婚約者に伴われ、白いドレスで舞踏会に出席するのが普通です。

 16歳を迎えた女性は年に四回ある王宮舞踏会の誕生日に近いものに出席するのです。ミユアーミの場合は16歳の誕生日が春の王宮舞踏会にちょうどあたりました。


 婚約者の都合がつかなかった場合、身内の若い男性が代理を務める事もあります。

 でも、5人もいる兄たちはどれも役立たずでした。


 イチローネル兄は王太子付きの側近として殿下の側にいなければなりません。これは仕方ありません。

 ジロートラヤ兄は魔術師として舞踏会で王宮守護の結界をはる責任者に最年少で抜擢されたそうです。これは喜んであげなければいけないでしょう。

 サブローハドリ兄は未亡人二人と約束してしまったそうです。これは複雑です。夫を亡くしたご婦人に優しいと解釈するべきでしょうか。二人の婦人と下半身で踊る兄の姿が見えるようです。微妙な腹立たしさをミユアーミは感じています。

 シローアント兄は王宮舞踏会での余興の依頼を受けたそうです。歌や踊りを披露するそうです。そんな才能があった兄を誇りに思わなければならないのでしょうが、実は笑い取り──ピエロの代わりなのではという懸念がぬぐえません。

 ゴローマルク兄は騎士として王宮警護にあたらなければなりません。まともです。

 これも仕方ありません。


 そう、5人もいる兄たちは誰も、妹にハズレを引かせた責任を取る事が出来ないのでした。


 俯いている兄たちを見ていると、母親が話し始めました。





練習のつもりで、もっと、短い話にするつもりが長くなってしまいました。1話4000文字位で5話で完結です。

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