ユリアの力 前半
私が選んだ場所は、いつもリアルフと練習している場所。そのせいで多少地面がくぼんでいたり、木が折れたりしているが誰も来ないためちょうどいいだろう。リアルフも最近は空気が読めるようになってきていて、静かに隣でおすわりをした。
「いつもここで訓練しているのか?」
「そう、ですね。リアルフに相手をしてもらってます。」
「ほう。言う事もきちんと聞くのだな。」
「ええ、いい子ですよ。」
当たり障りのない会話を挟んで、私が答え終わったところでまっすぐこちらに視線をむけた。威圧で少々息苦しいものの、慣れなければならないだろう。
「ユリア・フラントス。貴嬢の”力”を見せてほしい。」
「力……?」
「対戦の実力と、魔獣を手懐ける力だ。
まずは、一戦交えたい。そこの魔獣と一緒に来てくれてかまわない。」
それはどんなむちゃぶりですか。真顔で聞き返したい気分だが、もうすでに相手はやる気満々だ。なら、それに応えるしかないだろう。
仕方なく、練習用にと置いておいた木剣二本を手に取り、片方を相手に渡した。真剣ではないものの、初の人との対戦だ。気合を入れていこう。ちらりとリアルフを見て、準備完了か確認し、身体強化を施した。
「来い。」
「はい!」
ざっと駆け出し、一発。真正面から木剣を振り下ろす。もちろん、当てようだなんて思っていない。軽く受け流されるもバランスを整えて着地。そして、その間に後ろに回り込んでいたリアルフがすぐ攻撃を仕掛ける。が、予想されていてよけられる。
私たちは交互に攻撃を仕掛ける戦い方で、休む暇を与えずにとにかく攻撃する。その合間に少しずつ魔力を練りつつ、できれば混乱させたい。まあ、騎士団長様相手にそれはないと思うが。
「コンビネーションは悪くない。ただ、剣術がまだまだだな。」
「そのくらいっ、知ってます!
ウィンド・ブレード!」
余裕そうに評価されて少し、劣等感が生まれる。でも、冷静でいないと隙がこれ以上に多くなるため、押し殺す。そのまま、魔法名だけを告げて練り上げた魔力を放出。たぶん、今までで一番協力。とはいえ、魔法自体が初級なためたかが知れている。
「! 戦闘中に魔法を詠唱破棄か……威力も10歳とは思えないな」
「それは、ありがとうございま、すっ!」
なんか、やっぱり手加減されてる感じが消えない。リアルフと二人がかりでもこれとは……まあ、10歳だもん、そのくらい良いよ……ね?
……うん、これからはもっと頑張ろう。
「ふむ、大体わかった。
じゃあ、そろそろ終わらせるぞ。」
「っなら、少々危険ですが……!
ケージ・オブ・ストロームッ!!」
本気を出しそうな雰囲気だったために先手必勝。風属性の上級魔法でめったに使わない。なぜなら、前に言った通り危険だからだ。この魔法は対象を囲むように暴風を起こして滅多打ちにした後、風で吹き上げ落とす。騎士団長様相手でも、私だって多少なりともプライドがある。
……けど、やりすぎたみたいだ。
「っ!?
待て、私の負けだ!今すぐ止めろ!」
「す、すみません!!」
もちろんすぐに魔力を散らし、騎士団長様の様子をうかがう。
いくら鎧をまとっていても傷だらけになっていて申し訳ない。謝罪をこめて、治癒魔法をかける。
「……こちらの方こそ悪かった。
どうやら貴嬢の力を見誤っていたようだ。」
「いえ……けがをさせてしまい、申し訳ございません。
私の知識不足でした。」
上級魔法を軽く見すぎていた。次からはよほどのことがない限り、上級は使わずできるだけ初級で対抗しよう。
「にしても……大人顔負けの力を持っているな。
独学でここまで来たのならば、他の項目など一切関係なく尊敬する位だ。」
「おほめいただき、ありがとうございます。」
騎士団長様に褒められる機会ってめったにないと思うから、ただ純粋にうれしい。お世辞って感じもしないし、ちょっと笑ってるのがさらに。
それにつられて少しほほ笑んでいると、騎士団長様が口を開いた。
「魔獣を手懐ける力を拝見させてもらう。
森の中に入っても構わないか?」
「ええ、大丈夫です。」
そろそろもう一つの本題に入るようだ。
私たちは森の中へと入っていった。