夢の中
私が見ていたのは、夢のようで夢でない記憶。
ある程度の広さがあるそこには黒い髪をまっすぐ伸ばした少女がいた。
部屋の中にはたくさんの机、黒板があってまるで学校の教室の様。
椅子に座っている少女の横には、少年がたっていた。
『ねえ。』
『どうしたの?』
少女は、呼びかけられて少年のほうを向く。
少年の顔はぼやけて見えないが、なんとなく笑っているような気がした。
『春川 弥生さん。好きです。
僕と、付き合ってください。』
『ふふっ。もちろん!』
少年の告白に、少女は満面の笑みで答える。
突然のことに頭がついていかないが、二人はとても幸せそうだった。
暗転して、次に見たのはおそらくそれから5年後。
少年少女は立派な大人になっていて、幸せそうに出かけている場面だった。
『家はどうする?』
『んー、やっぱり子供部屋もほしいよね』
『じゃあ、二階建てかな?』
どうやら、二人は婚約してるみたいだ。
家についての話を膨らませている。
――その時。
『危ない!』
『え?』
青年に向かってぶつかってくる大きなもの。
それは、私が見たことのない白く四角いものだった。
誰かが彼に呼びかけ、彼はふと振り返るがその時にはもう遅く。
大きな音が聞こえたかと思えば、彼女の白のワンピースに真っ赤な血が映えた。
言わずもがな、彼の血だ。
『え、なに……?
な、にがおきたの……?』
混乱している彼女の前には、血にまみれた彼の姿。
おきて、おきてと揺さぶるも起きる気配がない。
それを理解したのか、彼女はストンと地べたに座り込み、声を上げて泣いた。
またも暗転し、次に見えたのは薄暗い部屋。
真っ白な部屋で、生活感も何もなかった。
そんな中、少しやつれたような彼女は。
その部屋の窓から真っ逆さまに落ちていった。
下をのぞけば、赤に彩られた彼女の姿がある。
私は。
夢として前世を思い出したのだといまさらながら思った。