出会い
入寮して一か月。
毎日のんびり気ままに過ごしていると、案外早く時間が経って行った。もちろん運動もしている。実力で成り上がったようなものだから、鈍らせるわけにはいかない。毎朝の習慣となった運動が終わった後はうろうろしている。
今日は天気が良かったため、校舎玄関の前にある噴水のベンチに座り目を瞑っていた。日差しはポカポカと暖かく、噴水の水音が心地よい。
しばらくそうしていたが、そろそろ戻ろうかと目を開け立ち上がった。すると、ふと見えた隣のベンチに座っている一組の男女。女性が男性の方にもたれかかっていて、元気がなさそうに見えた。
少し嗚咽の声も聞こえて心配になったため、声を掛けることにした。
「彼女。どうしたんですか?」
声を掛けると同時に、男性が顔を上げた。自然と女性の顔が見え、その表情が辛そうじゃないことにホッとした。
「あー……これはだな、」
「ねえ! あなたが外部生?」
「え? あ、私は外部生ですが……」
唐突に笑顔で聞かれ、驚いた。心なしかその瞳はうるんでいるが、男性の言葉を遮っていたからきっと聞かれたくないのだろう。
「やっぱり!
名前を教えてくれない? お友達になりたいの!」
ぐいぐいと来る女性に少し後ずさる。
あまり同年代の子と会うことがなかったから、友達もいない。だから、この状況でどうすればいいのかわからない。困ったまま何も言えないでいると、男性の方が女性の手を取り落ち着かせた。
「エミル。自分の名前から言ったらどうだ」
「ああ、そっか!
エミル・ハドラー。アスティア魔法学園の第一学年だよ!」
「私は、ユリア・フラントス。同学年です。」
手を差し出され、握手する。改めて女性――ハドラー様を見ていると、ほわほわしていてなんだかお姉様に似てるな、と思った。
赤みがかった茶髪は後頭部の上の辺りでくくられていて、顔も全体に幼げ。明るいオレンジの瞳はらんらんと輝いている。先ほどまでの様子が嘘みたい。
「ユリアちゃんね! よろしく!」
「はい。よろしくお願いします。」
「あ、あとこっちは……」
ユリアちゃんと呼ばれ、少し驚いたもののきちんと返せた。相手は貴族。目立たずに過ごすには礼儀正しくするのが一番だから。
そして、ハドラー様が男性の方を紹介するように手のひらを隣に向けた。それに倣い改めて男性の方を向く。
「俺はクレイ・シュミリア。同じく同学年だ。」
紺色の双眼と視線が絡んだ瞬間、ドクンと大きく脈打った。
なぜだかわからないが、既視感をおぼえた。会ったことはないはずなのに、誰かと重なる。
「――ユリアちゃん!」
ハドラー様に驚いたように名前を呼ばれる。そちらを向くと、何が何だかわからない深い思考の渦から抜けた感じがした。
「どうした、なぜ泣いている。」
「え……?」
シュミリア様に指摘され、自分の頬に触れると湿っていた。理由を尋ねられても分からない。だけど、胸の中が温かかった。なんで、この人に初めて会うのに嬉し涙を流したのか。自問自答しても靄がかかったように答えは見つからなかった。