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あなたは、誰?  作者: とらまる
第二章
12/25

出会い


 入寮して一か月。

 毎日のんびり気ままに過ごしていると、案外早く時間が経って行った。もちろん運動もしている。実力で成り上がったようなものだから、鈍らせるわけにはいかない。毎朝の習慣となった運動が終わった後はうろうろしている。

 今日は天気が良かったため、校舎玄関の前にある噴水のベンチに座り目を瞑っていた。日差しはポカポカと暖かく、噴水の水音が心地よい。




 しばらくそうしていたが、そろそろ戻ろうかと目を開け立ち上がった。すると、ふと見えた隣のベンチに座っている一組の男女。女性が男性の方にもたれかかっていて、元気がなさそうに見えた。

 少し嗚咽の声も聞こえて心配になったため、声を掛けることにした。


「彼女。どうしたんですか?」


 声を掛けると同時に、男性が顔を上げた。自然と女性の顔が見え、その表情が辛そうじゃないことにホッとした。


「あー……これはだな、」

「ねえ! あなたが外部生?」


「え? あ、私は外部生ですが……」


 唐突に笑顔で聞かれ、驚いた。心なしかその瞳はうるんでいるが、男性の言葉を遮っていたからきっと聞かれたくないのだろう。


「やっぱり!

名前を教えてくれない? お友達になりたいの!」


 ぐいぐいと来る女性に少し後ずさる。

 あまり同年代の子と会うことがなかったから、友達もいない。だから、この状況でどうすればいいのかわからない。困ったまま何も言えないでいると、男性の方が女性の手を取り落ち着かせた。


「エミル。自分の名前から言ったらどうだ」

「ああ、そっか!

エミル・ハドラー。アスティア魔法学園の第一学年だよ!」

「私は、ユリア・フラントス。同学年です。」


 手を差し出され、握手する。改めて女性――ハドラー様を見ていると、ほわほわしていてなんだかお姉様に似てるな、と思った。

 赤みがかった茶髪は後頭部の上の辺りでくくられていて、顔も全体に幼げ。明るいオレンジの瞳はらんらんと輝いている。先ほどまでの様子が嘘みたい。


「ユリアちゃんね! よろしく!」

「はい。よろしくお願いします。」


「あ、あとこっちは……」


 ユリアちゃんと呼ばれ、少し驚いたもののきちんと返せた。相手は貴族。目立たずに過ごすには礼儀正しくするのが一番だから。

 そして、ハドラー様が男性の方を紹介するように手のひらを隣に向けた。それに倣い改めて男性の方を向く。


「俺はクレイ・シュミリア。同じく同学年だ。」


 紺色の双眼と視線が絡んだ瞬間、ドクンと大きく脈打った。

 なぜだかわからないが、既視感をおぼえた。会ったことはないはずなのに、誰かと重なる。


「――ユリアちゃん!」


 ハドラー様に驚いたように名前を呼ばれる。そちらを向くと、何が何だかわからない深い思考の渦から抜けた感じがした。


「どうした、なぜ泣いている。」

「え……?」


 シュミリア様に指摘され、自分の頬に触れると湿っていた。理由を尋ねられても分からない。だけど、胸の中が温かかった。なんで、この人に初めて会うのに嬉し涙を流したのか。自問自答しても靄がかかったように答えは見つからなかった。

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