入寮
馬車に乗りゆられ、約十日間。
ついたのは、キラキラと輝いて見える王都。初めて着た場所に少々はしゃいでしまったものの、騎士団長様は何も言わなかった。その瞳がまるで子供を見るようで、なんだか恥ずかしくなってすぐに冷静さを取り戻した。
「ところで、騎士団長様。
私はどこに住むことになるんでしょうか?」
「今日から学園寮に入れるからそこで過ごすことになる。」
「そうなんですか」
寮……つまり、自室が持てるという事だ。家では貧しくはないが富んでもいなかったため、自室はないに等しかった。
アスティア魔法学園に期待が募る中、騎士団長様からの一言ですこし気分が下がった。それは、身分についてだ。
アスティア魔法学園に通うのは主に貴族や王族。私のように、身分の低いものがそこへ入学することは少ない。もし入学できるほどの実力を持っていても、大体が遠慮してしまうのだそうだ。遠慮する理由は、もちろん身分。
いい人がいれば悪い人がいるように、いい貴族もいれば悪い貴族もいる。過去に、私のように入学した者がある程度居たそうなのだが、その人達は貴族にいじめられて人間不信に陥ったそうだ。そのことが広まり、さらに入学希望者は減っていった。
やはり、身分の壁は大きい。自分の地位が高ければ高いほど偉ぶってしまうのはもう、人間の性だとしか言いようがないからどうやっても消えはしない。
なら、目立たないように努めよう。どうやっても多少は目立つかもしれないが、そこからだんだん沈めて、存在感を薄くしてしまおう。平穏な学園生活が理想だ。
「ついたぞ。」
「わぁ……!」
目の前にそびえたつのは大きな門。その向こうには広いグラウンドと大きな校舎があり、装飾もキラキラとしていて驚いた。今は長期休暇中なのか、人気はほとんどない。
「すごいですね!」
「ああ。」
ぶっきらぼうに頷いた騎士団長様は、すたすたと進んでいった。それについていくとたどり着いた大きな館。
「ここは……」
「女子寮だ。貴嬢の寮番号は寮長に聞け。
私はもう戻る。」
「ありがとうございました!」
「……頑張れよ」
必要最低限のことを言って、最後に小さくつぶやいたかと思うと踵を返していってしまった。とりあえず、騎士団長様の言われたように寮長に自室の番号を聞いて寮で一息つこうと思い立ったのだった。