転機
「ユリア・フラントス。
貴嬢がアスティア魔法学園へ入学することを推薦する。
再来年が始まる日にまたここへ訪れる。それまでに決めておけ」
話も終わり、騎士団長様に帰る直前に告げられた言葉。
おそらく私と一戦交えたのも、私の力を見たのもこのため。私の実力が低く、力もなかったらきっと訪れなかった機会だ。
置き土産のごとく、置き去りにされたチャンス。こんな絶好の機会を逃すわけにはいかないだろう。再来年が始まる日、それは今から大体一年と半年後。それまでにできることをやろう。
家に帰り、家族にそれを知らせると一気に村全体へ広がり、お祭り状態だった。村の人々全員が喜び、私もうれしかった。
そんなお祭りも幕を閉じ、家族にこれからのことをきちんと伝えた。
せっかくの機会を逃したくない、これから約束の日まで妥協せずに鍛え続ける。決意を話すと、お父様に一つだけ聞かれた。
「ユリアはなぜ強くありたいんだ?」
それは、よくわからない。
以前からずっと強くなろうと努力を重ねていたが、前世の記憶を思い出してさらに強く思ったこと。だが、この理由を予想するなら。
きっと。
「大切な人を、守るためです。」
前世のような別れを迎えないために。
きっぱりと言い切れば、家族全員が顔を綻ばせて嬉しそうにしていた。
「それならいい。」
「ありがとう、ユリア。」
「私もユリアみたいになる!姉として抜かされたら嫌だからね!」
「ふふっ。
では、明日に備えて寝ますね。おやすみなさい。」
明日から、見つかった目標を果たすために鍛えよう。
この目標は、必ず果たす。
今度こそ――
――私が決意してから、約1年半。約束の日がやってきた。
「ユリア・フラントス。答えは決まったか。」
「ええ、もちろんです。」
約束通り訪れた騎士団長様は、私に問いかける。その問いに、この一年半のことを思い浮かべながら答えを返した。
「アスティア魔法学園に入学させてください。」
「そうか。
なら、この村にはなかなか戻ってくることができなくなるが……」
「承知の上です。」
この村は王都から少し離れていて、往復に10日はかかる。すると、長期休暇があったとしても戻ってこれる機会が少ない。そのことを気にかけてくださるのはうれしいが、私だってもう12歳。そのくらい理解できる。
堂々と言い切ると、騎士団長様はまた「そうか」と返すと目の前を歩き始めた。村の外に馬車が停めてあるのだろう。
それについていき、私は故郷から出て初めていく王都へと密かに胸を高鳴らせた。