少女の目覚め
ある日。
ひとりの少女が突然、倒れた。
前兆もなく、操り人形の糸が切れるように。
家のものはもちろん、近所の者までもが心配し代わる代わるお見舞いに行っていた。
時には果物を持ち、話しかけ続け。
時には手を繋いで静かに見守って。
――それから半年。
お見舞いに行くものも減り、もう目覚めることはないだろうと悲しまれていた眠り姫。
そんな眠り姫が、目覚めた。
その知らせを受け、駆け付けた家族。
真っ白な部屋の中に、二つの金色。
それは紛れもなく、少女の双瞳だった。
「ユリア……?」
倒れる前までは蒼色だったはず。
その瞳を見て、全員が困惑する。
少女は一度瞬きをし、ゆっくりと家族のほうを向いた。
瞳は前と変わらぬ蒼。
「……?
どうかされましたか?」
「いえ、何でもないわ。」
「ユリア……! 心配したんだから!」
「ようやくおきたか……やっと安心できるな。」
先ほどの沈黙が嘘のように家族は喜び。
少女は自身が倒れた時について詳しく聞き、寝ていた期間を聞いて目を見開いた。
「半年……」
「そうよ、半年も。」
「なんで倒れたのかは全くわかんないんだけどね。」
「眠り姫、なんて呼ばれてたんだぞ。」
そんなにねむってたんですね、とほほ笑む少女の姿は以前よりも大人びていた。
10歳らしからぬ雰囲気を持つようになり、多少違和感を覚えるものの家族はそれに触れず、ただただ普通に接した。
「はるかわ、やよい…」
少女の小さなつぶやきは、誰にも拾われず空気に溶けていくのだった。