しばしの休息
金髪蒼眼の女に縋られ、衣に懇願されそうして衣と余は「第2王女親衛隊」なるものに今は属している。以前この金髪蒼眼にべったりとくっついて挙句に下劣顔に一網打尽にされていたよくわからんやつらは皆人民であったらしく、親衛隊なるものはあの際に急務で設けられた特隊であったらしい。いやいや仮にも一国の姫なるものなれば警護の者が鬱陶しい程纏わりつくものであろうと思うものの、やはりそこはこのルーンウェイ国がルーンウェイ国が所以であろう。弱国の中の弱国。なんだか同情さえし得る。兎にも角にも、人民らは本来あるべき民の姿へと戻り、第2王女親衛隊は解散した。そう、一度皆散り散りになり衣と余、一人の女子が今は「第2王女親衛隊」となっておる。いや、まったくの阿呆だ、隊ですらない。
こうして改めて余らが置かれている現状について余が呆れているが、金髪蒼眼の女は一見理知的に見える表情を綻ばせながらこれでノールウェイ国も未来が開けましたなどと言うものだからたまったものではない。成程確かに衣と余が持つ力を存分に振るえば隣国のルーマ帝国だか何だかわからぬ一国など埃を払うがごとき容易く葬ってみせるだろう。しかるに、余らはつい先刻に力を持ちすぎた故に世界から異物として切り離されてばかりである。そこでこの異世界において児戯が如く思う存分に力を振るい飛ばされるのはかなわん。次はこうしてどこぞへたどり着くということさえかなわんかもしれぬのだ。余の見解に衣は「思いっきりやらなければ大丈夫だよ灯おねえちゃん」と可愛げに喉を鳴らす。金髪慧眼は仲睦まじく衣と手を取り合い踊っている。些か能天気な二人にため息もこぼれ落ちていくのであった。
やたらとでかい窓がある。 月が朧げに光っている。窓が無暗に大きいせいで手入れが行き届かずに埃が残ってしまっており、豪華な装飾が施された窓が本来あるべき爛々とした様子は影もない。埃の薄化粧を施した窓越しに見下ろす町並みにはぽつぽつと灯りが点り人がわずかに行き交うのが見て取れる。「第2王女親衛隊」なる怪しげな軍へと所属することになった余らは金髪慧眼の女からひとまず客室の一つを自由に使っていいとあてがわれることとなった。どうやらこのアーウェン城は人手が大部分ルーマ帝国へと行ってしまっているため月に一度は町の皆の手を借りながら大掃除を敢行しているようで余らが訪れた時期というのが丁度それにあたるらしい。ので、こうして真夜中過ぎても大掃除は今も続いているようでごとごと部屋の外から騒がしい音が聞こえる。客人を一向に寝かさんとする心意気にはこと感服するに至る。阿呆共の乱暴は今後も度々起こるであろうことからこの程度のことは水に流し、余らは寛大な心で受け止める。さてルーマ帝国をこれから打ちのめすにしても余らは騙し騙しに力を出していく必要がある。また世界に飛ばされて挙句まっくらなのは嫌なのじゃ。しかし存分に力をふるえんとなると少々面倒である。ルーマ帝国というのはなかなかの大国らしく存分に振るわぬ状態で端から潰していってもぐら叩きのごとく永遠に戦いが終わる気がしない。いや、余としてはそれでも一向に構わんのだがその場合衣が煩くてかなわん。余がそこそこ楽しめ、衣が煩くいわないほどの適度な期間での戦争が望まれる。どうしたものか。そうして考え事をしていると衣がいい加減に眠たくなったらしい。
「灯お姉ちゃんもう寝ようよ…」
その一言をぽつりとつぶやいたと思ったらすやすや寝息をたてるのでおとなしく余も眠ることとした。




