アーウェン城
ノールウェイ国の都であるキタノにはある逸話がある。それは遠い昔から伝え継がれてきている。ノールウェイ国はかつて別の名を持つ大国であって人間という種族が寄り集まって建立しており、その力は他国を寄せ付けないものだった。しかし盛者必衰はこの世の理であり、それは常である。かつての大国には自らが神と呼び心から信仰していた一対の天使がいた。漆黒の絹のように透き通った長髪を艶かしく纏う微笑のアーリ。炎のように真っ赤に咲き誇る長髪を威風堂々として着飾った焔のウェンディ。これらは姉妹のように仲良くあった。人々の生活にも浸透し、愛されていた。けれども人々はいつしか妬み、汚し、荒廃させた。そして一対の天使は身を醜く爛れ(ただれ)、一匹の化け物となって大国を食いつくした。これはノールウェイ国と名乗る小国となった今でも語り継がれている。
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「ーーという伝説があります。このお城、アーウェン城はその事を忘れないようにとの思いから作られたと聞いております」
エミルお姫様のそんな凛とした語り声を聞きながら衣は目の前のお城に心奪われていました。これまでキタノの町中を歩いているときにも視界にはずっとお城が目に入るほどおっきい。白塗いの砦を四辺の隅に揃って建てられていて、正面には真っ白な見上げほど大きな扉に可愛らしい天使様が二人、両扉に向かい合わせになって住んでて、丁度門を閉じていると手を繋いでいるようにみえるのがとても綺麗なの。お昼は真っ白、夜はほのかに橙にお城全体が光るのがまた幻想的なのですとエミルお姫様は目をつぶってその光景を思い出すようにお話するのでした。
お姫様に付いてお城の中に入ると、幾人かの制服を着揃えた男女の方がお出迎えをしてくださります。お出迎えしていただいたのは玄関の広間みたいだったけど、衣の鼻につんと埃の臭いが刺すのです。すんすんと鼻をすすりながら視線を横に滑らすと蜘蛛さんが巣作りをしてます。外から見たお城と中とでのギャップに衣はしゅんとするのです。そんな衣を見てエミルお姫様は苦笑いするのでした。
それから衣は客室に案内されました。こちらは蜘蛛さんは巣作りはしてなかったけど衣の鼻を埃くんがつんつんと刺してきます。まったくけしからん埃くんだ、のです!
これ、灯おねえちゃんの真似なのです。えへへ。
そうやって衣が一人遊んでいると灯おねえちゃんが起きてきたようで余はそんなに無愛想ではないとぼやくのがまた面白く衣はくすりと笑うのでした。




