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「王・・・カルフォス・・王」
目の前でカルフォス王が倒れていた。
カルフォス王とテネリーズを狙ったらしい刺客は、
カルフォスの剣が一閃した瞬間倒されていた。
しかし、力尽きたようにカルフォス王も倒れてしまい
テネリーズは途方にくれた。
(今だったら殺せる。
この、憎い王を・・・・我が国とカインシーズの仇)
コクリと唾を飲み込んでテネリーズは肌身離さず持っている
剣のペンダントを胸元から取り出す。
隠された留め金を外し、剣の本来の姿を晒す。
刃には毒が仕込んである。
この小さな剣でカルフォス王に少し触れるだけで
苦しみながらカルフォス王は死ぬ。
「・・・・」
死ぬのだ
この幼い王は、
ただ一人父王だけを愛し、
親族に命を狙われ、臣下に恐れられる
戦いの才に恵まれた美しい少年王、
自分がどんなに孤独かも自覚をしていないこの王は、
知らずテネリーズは意識を失っている
カルフォス王の頬に手を添えた。
「哀れな王・・・。」
テネリーズは、王の傷ついた身体を見下ろした。
知らなかった・・・ただ、憎い仇とだけ思っていた。
自分の欲望のまま振舞う我がままで
冷酷で、残虐行為を繰り返す狂った王だと、
殺してしまうことが正義だとさえ思っていた。
でも、こんなに哀しい、
愛されない孤独な幼い王、
テネリーズの心が揺らめく。
意識を失ってしまったその、あどけない顔に
振り下ろそうとした切っ先が震える。
唇を噛み締め
テネリーズは息を吸い込む。
その瞬間カルフォス王の睫が震えて
狂っているくせに
透き通った綺麗な赤茶の瞳が開いた。
「・・・テ・・テネリーズ・・・
怪我はしなかったか?・・・」
少し掠れた声でテネリーズに聞いてきた。
振り下ろそうとしている刃が
見えているはずなのに気にした素振りも無く
カルフォスはそうテネリーズに聞く。
どこまでも純粋な瞳にテネリーズは頷いた。
「・・・はい・・・はい・・カルフォス王・・。」
「よか・・・た・・。」
カルフォスは、そう言ってまた瞳を閉じた。