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「テネリーズさ・・・ま・・・ああ・・・愛しい女神」
この男も簡単なものだ・・。
婚儀の後から、相変わらずカルフォス王はやってこなかった。
テネリーズは、王宮の内部を牛耳る為に、
数々の有力者と密会した。
誇り高く美しい容姿と
テネ国の第一王女と言う身分も相まって
崇拝者を増やしていった。
無言で右手を差し出してやると
うやうやしく手の甲に口付けする。
男なんて随分容易いものなのね
思わず口元に苦笑が浮かぶ。
馬鹿な男達・・・。
「・・・それにしても・・・・随分王宮内の人数が少ないのね・・
王族も傍系が少し居るだけ・・・・変な国ね・・。」
密会を終えて人目に付かない様に中庭を横切ろうとする
テネリーズは何かに躓いた。
「カルフォス王!・・・・こ・・・・此処で何を!?」
躓いたものはカルフォス王の足だった。
「・・・お前か・・・」
カルフォス王は顔色の悪い顔をして
何処かだるそうに草むらから起き上がった。
「邪魔だ・・早くいけ・・・」
赤ワインのような艶のある赤茶色の瞳で睨みつけるように
テネリーズを見上げるカルフォス王の
テネリーズより少し小さい身体と
まだ成長しきってない華奢な肩や腕を思わず見つめていたが、
「・・・!!・・・カルフォス王!・・肩とお腹が!」
カルフォス王の肩とお腹にベッタリと
血が付いているのに気付いて
傷の具合を見ようとするテネリーズの手を思い切り跳ね除けた。
「私に触るな!」
カルフォスのその声に雰囲気に
毛並みの良い豹が毛を逆立てて唸っている様な緊張感を感じて
テネリーズは気圧された。
「油断しただけだ・・・・最近、食べていないから・・・」
「え!?」
テネリーズは、目を見開く
「・・・・いつもは・・・此処までにはならない・・・
先日の傷も癒えてなかったからだ・・・!」
あの時も油断した・・。
ぶつぶつ言うカルフォス王にテネリーズは、
カルフォス王の顔色が悪い事、
血に染まっている肩とお腹をまじまじと見てしまった。
「なんだ!・・・私をやすやすと大伯母や大叔父の刺客の手に掛かって
傷を負わされる弱い王と思っているのか?」
カルフォス王の浮かべている
年相応の少年のような憮然とした顔の表情に
テネリーズは思わず目を奪われた。
食事を食べてない?
大伯母や大叔父の刺客?
「・・・私は、強いのだ・・・・・
父上の子なのだから・・・」
「・・・ど・・・どうして・・・
最近食べてないの・・ですか?」
淡々と、しかし仄かに言葉に混じる
父王を誇りにしているカルフォス王の口調に思わず
テネリーズは質問していた。
カルフォス王は、怪訝な顔をして、
「毒が入っているからだ・・・まあ大抵の毒には慣れているのだが・・・
性懲りも無く、色々な毒を入れてくるからな・・あいつらは、
自分で何か獲ってくるのが一番良いが、
最近、婚儀の用意やらで忙しかったからな・・・暇がなかった。」
当然のことを言っているかのカルフォスの言葉に
テネリーズは絶句した。
「そう・・・・ですか・・・・・。」
「ああ・・・・だか、こんな事で私は、
倒れないなどしないぞ、私は父上の子なのだから。」
テネリーズは、搾り出すように声を出したが、
そのカルフォスの自分自身では気付いていない
孤独な横顔と
父王に対する深い愛情と
他の身内に対する憎悪を感じて
テネリーズは、胸が締め付けられた。
この王に心を奪われてはならない
この王は敵なのだから・・・。
その時、首を振るテネリーズの腕を掴んでカルフォスは
突然、地面に引き倒した。
「カルフォス!テネリーズ覚悟!」
次の瞬間、何者かが物陰から飛び出してきた。