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憎き敵の国ヘイトフィル国の王宮に用意された
王妃の間へと辿り付いたテネリーズは
深いため息を吐いた。
今から一週間後に婚姻の儀式が行われる。
あんな幼い年下の国王に自分の国テネは負けたのだと、
そして私はこれより先、私の国であるテネが
逆らわない為の人質となるのだと、
弟と婚約者と母を私から奪った
4つも年下の少年王の妃とならなければならない事を
テネリーズは絶望した。
「カインシーズ」
胸元に手を当てて、ドレスの上から
胸元に感じる剣の形のペンダントに触れて婚約者の名前に誓った。
「必ず貴方の敵をとります。」
2歳年下の病弱な弟が正式に皇太子として立太子し、
ようやく安心して、カインシーズと結婚出来ると幸せに
胸を膨らませていたと言うのに、
今、カインシーズによって贈られた婚約の指輪は、
胸元の小さな剣の飾りへと形を変えて
テネリーズの手の平の下にあった。
「ただ、殺すだけなどしない、
王も、国も滅ぼしてやる。
テネ国の前に平伏させて、屈辱を味あわせてから
この剣で刺し殺してやるわ。」
テネリーズの瞳には『復讐』という名の冷たい光が宿っていた。
けれど、今の私は無力だわ
テネの王女、ヘイトフィルの王妃になる者と言っても何の力も無い。
まずは力を手に入れなくてはならないという事を
賢いテネリーズは、よく分かっていた。
表面上は反心など持っていないように
でも心は消して復讐の炎を消さないように
「姫様、お可哀そうに・・・・」
今回の婚儀に付いて来てくれた
テネリーズ付きの女官達が涙を拭うのを見て
テネリーズは鞭打つような強い口調で言う。
「泣くのではありません!
私の心は何時までも我が国テネとカイルシーズの物
野蛮なこの国と下賎な王などには負けはしません」
私は誇り高きテネの第一王女
テネの国王とその正妃の高貴な血を引く姫なのだから
あっという間に婚儀の当日になったけれど、
少年王は初めの出迎えから
一度もテネリーズに会いに来なかった。
我が国が負けたからと私を軽んじているのかと
テネリーズは悔しさに唇を噛み締め
婚儀の為の衣装に身を包んだ。
負けはしない、
私はテネの高貴なる姫、
国の名を貰って名づけられたテネリーズ、
小国の幼い王など私の足元に跪かせる。
頭を上げて大神殿へと足を踏み入れた。