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転機

[腕見せてもらってもいいかな?」

初めて出会ってから5回目くらいのカウンセリングの時そう言われた。

週に1回毎回断ることもできず、カウンセリングを受け続けている。

この人と話すことが心地よかった。

この人になら別に傷を見せてもいっか…そう思って。

「汚いですけどいいですか?」

そう尋ねた。

「大丈夫!!これでも私結構見てきたから耐性あるし!!」

にっこり笑う中原さんは可愛いと思う。

優しい人なんだろうなとも思う。

「じゃあ…」

袖をめくる。汚い沢山の傷が現れた。

「おおー結構すごいね…なんでこういうことしちゃうんだろね?」

「分からないんです…やってるときの記憶が無くて…」

「そうなんだ。そういう人もいるよ。未来ちゃんだけじゃないから…そんなに思いつめない方がいいかもね…」

「思いつめてるってわけではないんですが…ちょっと気になっています」

「そうだよね。怖いよね…辛いと思うし。あのさ…」

「はい?」

「もしも良かったらでいいんだけど、ここじゃなくて、私の勤めている精神科の病院があってね。そこに通ってもらいたいなって思ったんだけど…あのさ、学校だと学生の間だけじゃない?未来ちゃんのその後の事も気になるからね。そっちでもかかわりたいなって思ったんだけど…駄目かな?」

「あの…私はいいんですけど、母が何ていうかわからなくて…」

「お母さんに内緒で一人で来ることとかできない?保険証とお薬手帳持ってきてもらって、後は予約をしてもらうことになっちゃうんだけど…」

「でも…」

「とりあえずさ!!無理にとは言わないけど話してみてくれないかなあ??」

「はあ…」

「あはは、ごめんね、暗い顔させちゃった…でも未来ちゃんのことが本当に心配なの」

真剣な顔でそう告げる中原さんを見て、ちょっと話してみようかなと思った。

どうせ反対されるかもしれないけど。機嫌がいいときに言えば許可してもらえるかもしれない。




夕食。母はいつも通りだ。何も会話のない時間が過ぎる。

「あのさ…」

「何?」

冷たい言葉。話しかけるなという感じだった。でも話すのは今しかないような気がした。

本当は機嫌のいい時が良かったのだけど、話すのが早い方がいいだろう。

「私さ、最近カウンセリング受けてて、そのカウンセラーさんが病院に行った方がいいんじゃって言われたんだけど…」

「あ、そう。いいんじゃない?勝手に行って来れば?私は何もしないけど」

そう言って食事を食べる。

私に関心が無いらしい。いつものことだが。

「じゃあ、保険証とお薬手帳貸して」

「わかった。後で置いとく」

案外あっさりと許可されて拍子抜けした。

でも良かった。怒られたりしたらこの人は止まらないから。

また殴られてしまうから。

怒られなくてよかったと思う。



「やっほー未来!!」

元気な鈴音の声に安心する。

「やっほー鈴音」

「おおー!!!いつもとは違うノリだ!!!なんかいいことあった?」

「いや、とくには」

「そっか!!!突然なんだけどさ私あと一か月でいなくなるから」

「……は?な「何でもないんだけどさ!!!消えちゃうの!!!未来のこの先がいい方向に行くこときまったからもう私は必要ないでしょ?だから消えるの!!」

「そんな…どうしてそんなこと言うの?」

「事実だからだよ!!良かったね!未来のこれからはきっと辛いこともあるかもしれないけど絶対幸せだよ!!」

「そんなの…そんなの分からないじゃん!!!決まってないよ!お願い!!消えないで!!!!!!!」

「もー未来はわがままだなーでも決まっちゃったからさーもう変えられないの」

「そんなことない!!!私が死ねばいいんでしょ!?」

「違うよ!!!!!待ってそんなことしても私が消えることは変わらないの!!!!」

さっきまで無理して笑ってたみたいで私が死ぬと言ったら一気に悲しそうな顔になる。

そんな鈴音にイライラした。

いや、鈴音にイライラしたわけじゃない。

ただ鈴音が消えるのが怖かった。

「じゃあどうしたらっ……どうしたらいいの!?!?!?」

「どうもできないんだって…決まったことだから…」

「さっきから決まったことって何!?誰が決めたの!?」

「神様だよ」

「神様??」

「そう。私を作ってくれた人。私にとっての神様。逆らうことは出来ないの。安心して。まだもうちょっとだけ一緒にいることを許されているから。さっきも言ったけど、あと一か月ってところ」

「…ずいぶんと余裕があるんだね」

「まだ未来のことはちょっとのことで変わるかもしれないからね。でも大抵どんなことがあっても決まったことは変わらないんだけどね」

「そうなんだ…本当にいなくなっちゃうの?」

「うん…ごめんね」

「もういいよ…ごめん取り乱して」

「それは全然いいんだ!!てゆーか消えるって言っても姿が無くなるだけで、未来の心に私は一生住み続けるんだよ?だから悲しいことなんてないんだ」

「どういうこと?」

「だから!私の姿は消えても存在は消えないの!!!だから大丈夫!!!」

「そういう問題じゃないと思うんだけど…」

「そういう問題なのだ!!!大丈夫だよ、安心して」

鈴音は柔らかく笑った。

ふにゃりとした笑顔。

悲しそうで、私はきっともっと悲しい顔をしているのかもしれない。

そう思って笑う事にした。

不器用でも。

笑えば、喜んでもらえるような気がした。

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