あの日
…未来…
私を呼ぶ声が聞こえる。
私はなんとなくその声を聴きたくなくて耳をふさぐ。
それでも何度も聞こえてくる。
今、私は何してたんだっけ?
確か音楽を聴いていたような…
未来!未来!!
私を呼ぶ声がだんだん大きくなってくる。
嫌だなとなんとなく思った。
「未来!!!」
はっと気が付くと私の左腕は血まみれで。
目の前には泣いている子がいて。
「…鈴音?」
意識がだんだんはっきりしてきて、私は鈴音の名を呼んだ。
「未来ぃぃいいい!!!もーまた自分傷つけた!!!!ひどいよおおおおおおおおお!!!!!」
まるで自分のことのように泣いている鈴音。
でもそれは私が私の都合のいいように施した設定の中で取った行動であって。
本当に心からは心配しているのかはわからない。
それでも泣き続ける鈴音。
泣き止ませたいのもあったけど、私はとりあえずティッシュで血をぬぐった。
まただ。
これで何回目だろう。
私じゃない私がいるようでなんか嫌だ。
これを何というのかは知っている。
いわゆるリストカットというやつだろう。
でも私にはそれをしている記憶がすっぽり抜け落ちている。
あの日。
鈴音が私にすべて(といってもその時話してくれたのでさえほんの一部だと最近知った)を話してくれてから、この記憶が抜け落ちるのが日常的になってしまった。
そのたびに鈴音は泣き、私は彼女を泣き止ませようとする。
そして、もうこんなことはしないというのだが、結局次の日もやっている。
そんな日々が続いていた。
あの日から一週間。
私たちの関係は変わらず、変わったことと言えばこの行為のことくらいで、平凡な休みの日を過ごしていた。
「鈴音、ごめん…」
「謝らないでよおおお!!!謝るのはこっちの方だよおおお!!!!また未来を守れなかったよおおおお!!!!!」
…そう、鈴音は私の命を守るために作られたらしかった。
だからこういう行為も止められるようにできてるはずなのに、こんなので死なないと私がわかってるから、止めようがないらしい。
本当に命に係わることからは私を守れるらしいのだが…
実際のところ、あの日から鈴音は私に触れなくなった。
「うわーやっぱ痛そう…」
鈴音が私の傷ついた腕を見てくる。
「別に平気だよ。全然痛くない。」
そう答えると
「いやいや、後で絶対痛くなるよ!!!風呂の時とか!!!絶対痛い!!!」
「まあ、風呂の時は痛いけど…今は痛くないの」
「えー!!ぜええええったい嘘だー!!だって未来悲しそうな顔してるよ!顔色も悪いよ!!こんなことしないで!!!と言ってもまたするだろうけど!!」
はははと笑ってごまかす。
母親は私に無関心なので、血の付いたティッシュがあろうと服にちょっと血がついていようと何も言わない。
それだけは楽で良かったと思う。
過保護な母親だったら大騒ぎだろう。
今日もまた家で一日を過ごす。
大抵の休みの日はいつも家で過ごす。
鈴音はきっと退屈だろう。最近はずっと私といる。
たまに外に出てみない?と聞かれることがある。
でも私は別にいいやという。
そうすると鈴音もそうだね、外暑いもんねと返してくる。
私たちは夏休みという日を夏を感じさせない冷房の効いた部屋でほとんど過ごしていた。




