表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編シリーズ

竹ノ鳥籠

作者: 嶺ノ上

二作目となります。

私は一人娘として、専業主婦の母と上場企業勤務の父に大切に育てられた。目一杯の愛情が身に余るほど、窮屈なほどだったかもしれない。中学3年の冬、地元では有名な私立の女子高校に合格した。合格発表には、母だけでなく、父も仕事を休んでまで、一緒に赴いてくれた。とても喜んでくれた。私も嬉しかった。


これからもっと、楽しい生活が待ち受けている。私達親子はそう確信していた。




数日後、中学の友人に「合格祝い、遊ぼうよ」と誘われた。


父と母に相談したところ、「あまり晩くならないように」とのことだった。


その週の日曜、久々に再会した友人とカラオケで盛り上がってしまい、気づくと20時になろうとしていた。まずいと思い携帯電話を確認すると、父からの着信履歴がずらり。掛けなおすと、「すぐに○○病院に来なさい」と言われ電話が切れた。急いで病院に向かうと、父が待ち構えていた。


その日、母が亡くなった。警察からは、「××公園の林で発見された。身体中に刺し傷があり、死因は出血死。買い物の帰り道、襲われたのだろう。残念ながら、犯人の手がかりは皆無」と告げられた。

悲しみと怒りで、私は泣いた。



母の葬儀が終わった次の日、高校の入学は取り消された。父が独断で手続きをしたらしい。問いただすも、「お前は家に居なさい」としか答えてくれなかった。たしかに、今まで母のしていた家事全般を私がすることになるため、そういう選択肢もあるかな、と思った。それに、特別に金銭的に困るような家庭ではなかったため、あまり深くは考えなかった。





数日後、目が覚めると、家の地下にある父の書斎にいた。

地下とは言え、コンクリートがむき出しになっているわけではない。アジアンテイストと言えばいいのか、シックな木目調の床に、壁は竹を敷き詰めたように造られている。普段入ることがなかったため、その不思議な空間に見とれていると、あることに気付いた。



足枷が付けられている。途端にパニックになった私は、何とか外そうと試みる。しかし、その反対側は部屋にある、唯一無機質さを漂わせる鉄の柱に繋がっていた。


呆然としていると、父がやって来た。

「しばらく、そうしていなさい」


とは言えこの書斎、トイレやシャワーも完備されており、冷蔵庫や調理台、ソファベッドまである。

足枷の鎖が長いため、書斎から出られない以外は、なんとか生活は出来るようになっていた。

訳がわからなかったが、そのうち解放してくれるだろうと呑気に考えていた。






3ヵ月が経過した。




日常からはかけ離れた生活。私の中に、もう一人の「ワタシ」がいることに気がついた。

私は、この生活がいつまでも続くのだろう、と諦めていた。しかし「ワタシ」は、そうではなかった。


時折、「ワタシ」は体を支配し、足枷を外そうと試みる。しかし、そう簡単には外れず、「ワタシ」が疲れ果てたころに支配が解かれる。その支配は一方的なものであり、決して私の意思では解くことはできなかった。

「ワタシ」との意思のやりとりは可能だったが、私がもう諦めて、と伝えても、「ワタシは空を飛びたいの」と返してくるばかりだった。



父は週に一度だけ、私の様子を見に地下に来る。

とはいっても、食料と資材を置き、ゴミを持って戻るだけの、作業のようなもの。会話は「おはよう」と「ではまた、来週にな」とだけ。時間にすると30分ほどだった。




地下の生活が続き、5ヵ月が経過しようとするころ、ワタシが話しかけてきた。

「ここから出よう、協力して」と。私は勿論、諦めていたため「もう無理だよ」と返す。

するとワタシは、ある提案をしてきた。


私はその提案を聞き、恐ろしくなった。


だが、もはや、それしかなかった。



父は地下に来る際に、いつもカギを二つ腰に提げている。一つは地下に入る為のカギ。もう一つは、おそらく足枷のものだ。


ワタシは言う。「あの人は油断している」まさか自分の娘が、こんなに大切にしている娘が、自分に刃向かうわけがない、と油断している」と。


たしかに、そうかもしれない。地下には、それなりに危害を加えられそうな物もある。容認しているということは、それは油断なのだろう。




私達は、そのタイミングを待った。


そして、地下の生活が6ヵ月目に入った日。ついに決行することになった。




父がいつものように、地下へとやって来た。

「おはよう」と言い、食料と資材を置き、ゴミを持ち戻ろうとし、私に声をかけようと、私を見たその時。


私は腹部を押さえ、鉄の柱の付近に倒れた。

父は私を大切にしている。その大切にしている娘を放っておくはずがない。


案の定、父は私のもとに駆け寄ってきた。




その瞬間、ワタシは隠していたナイフで、父の目を刺した。突然の反抗と痛みに驚き悶絶する父は、少し遠ざかろうとした。すかさずワタシは、父の両脚も刺した。うずくまる父の背中を、また刺した。

父は逃げようとするが、初めに刺された場所が鉄の柱の付近だったため、そこはまだまだ私達の生活圏内だ。ワタシは父が動かなくなるまで、何度も刺し続けた。


やがて父は動かなくなった。

もう後戻りはできない。



私は父の腰から、血だらけになったカギを奪い、足枷を外した。


そして私は、警察に通報した。

何もかも話した。監禁されていた事を。父を刺した事を。






数年が経過した。

保護観察も外れ、私は祖父母の家から定時制の高校に通っている。


ある時、中学の友人から電話があった。久しぶりだったため話が盛り上がり、今度カラオケに行くことになった。友人は「前は夕方に急に帰っちゃったし、あんなことがあったけど…今回は何時まで大丈夫?」と聞いてきた。「晩くても大丈夫」と答え、約束をし電話を切った。



全てから解放された気分だった。

なんて、清々しいのだろう。

あんな竹の鳥籠での窮屈な生活は忘れよう。






もうすぐ私達は、一人暮らしを始めるつもりだ。








もう少し練って出直します…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ