月のウサギ
深夜1時の風の冷たさは僕がどんな地位や立場にあっても孤独だということを僕に知らしめた。僕が歩くこの葛飾区金町の寂れた住宅街は一定間隔である電灯を除いては光などなくてそれが自分自身の暗い未来の暗喩のように感じられて仕方がなかった。僕が暗い道を1人で歩くのにはわけなどなんにもなくてというかなんとなくとか現実逃避の一環でしかなくて夜ベットの上で寝れなくてボーッとしてたら不安に襲われたから外の世界に救いを求めてでてきただけだった。僕はこの暗い夜道をただただ歩くことが嫌になってとりあえず目的地というか行き先を決めようと思った。またよく考えず行き先を水元公園に決めた僕は10分とかそこらへんで水元公園についたけどやはり何をしていいかはわからなかった。公園の中央にある大きな湖は優しくその水面に月を写し木々は弱い風に揺れて静かな音をたてて僕を落ち着かせた。僕はふと思いつき水面を見つめてそこに映る月にウサギがいないか確かめた。もちろんウサギなんているわけない事をわかってたし予想もしていたけどウサギはいた。月面ではなく水面に。僕が気づいたことに気づくとウサギは水面の上をまるでこれが普通であると言った風にこちらに歩いてきた。その姿は優雅でウサギの形をとっていながらどこかの令嬢を思わせた。「君はどこから来たんだい」ウサギは僕の手前までくると幼い子供のような声で僕に話かけた。「すぐ近くにすんでるんだ、ここを少し歩いたとこ」ウサギの問いに僕は正直に答えた。ウサギが話しをしているという非日常をこの時はまったく感じていなかった。「そうじゃなくて君自身はどこから来たの?」ウサギは僕の答えに納得できなかった様子で改めて僕に尋ねた。僕自身?僕はどこから来たんだろう。両親だろうか。それとももっと別の場所だろうか。ウサギは僕が答えられないのを悟ると再び湖の中央に戻って行き今度は水面に浮かぶ月に飛び込んでいった。ウサギは月に飲み込まれ水面には小さな波が起こった。僕はその波が消えるのを眺め消えた後もしばらく水面を見つめながらウサギの問いの答えを考えていた。僕はどこから来たんだろうそしてどこへ向かうんだろう。僕は自分が感じていた将来への漠然とした不安を思った。僕は過去についてだって何一つわからないなのに生きている生きてこれたんだ。それでいいじゃないか。そう僕が考えつくと同時に東の空から太陽が上がった。だいぶ考えこんでたみたいだ。学校へ行かなくちゃ。僕は湖に背を向けて歩き出した。僕の背中には水面に反射した太陽の光があたって暖った。