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「ぎゃあー……」


 次の週の金曜日、日暮れとともに晩ご飯もそこそこに広場の生け垣に降りた

翡翠は、悲鳴を上げて飛び上がった。


「久しぶりね。どうしたの?大きな声だして」


「あっ、ミレイちゃん。こ、これ。お化け、かぼちゃのお化けだ」

 

 生け垣には、目や口がオレンジ色に光る大きなかぼちゃが並んでいる。


「ああ、これ。これはジャック・オー・ランタンっていって、ハロウインの飾り

物なのよ。十月三十一日はハロウィンっていうお祭りなの」


「はろうぃん?」


「そう。もともとはケルトの人たちのお祭りよ。この日が一年の終わりで、死

者の霊や、魔女や精霊が出てくるので、身を守るためにみんなが魔女や妖怪の

仮装をするようになったんだって」


「やっぱりお化けが出てくるんじゃん」


「大丈夫よ。日本ではクリスマスと一緒で、ただのイベントなんだから。まっ

たく男のくせに意気地がないわね。そう言えば、ハロウィンの日は、ここでハ

ロウィン・ライブがあるらしいよ。あなたの大好きな彼女も唄うんだって」


「ほんと?」


「それにね。あのこの本当の名前は白水翠しろうずみどりっていうみたいよ」


「そうかぁ、みどりちゃんかぁ。あっ、僕の名前に似てるね。僕の翡翠って

名前は、すごくきれいな緑色の宝石のことなんだって」


 翡翠はそう言うとうれしそうに目を細めた。


「ところであいつ、今日も来てるわよ。ほら」

 

 ミレイはデパートの入り口のほうへあごをしゃくった。例の男が、歌い始

めた翠の姿から目を離さずに、なにやらそわそわと電話をかけたり、煙草を

吸ったりしている。


「畜生、ブギーマンめ。今に見てろ。翠ちゃんは絶対に僕が守るんだから」


「ちょっと翡翠、大丈夫?それにブギーマンって何?」


「あっ、いや、こっちの話。ねえ、ミレイ。何とかあいつをやっつける方法

ってないのかなあ。二度と翠ちゃんの回りをうろつかないように」


「そうねえ、でもあたしたちは猫だから……」


「ねえ、ミレイ。ミレイって、ほんとに猫なの?」


「何それ。失礼ねえ。あたしがあの下品な犬や、不細工な猿にでも見える

っていうわけ?」

 

 見ると背中の毛が逆立っている。とびきりの美人で頭もいいのに、切れ

やすいのが彼女の欠点だ。


「いや、そ、そういう意味じゃなくて、ミレイは僕なんか足元にも及ばな

いくらいすごく物知りで、それに頭もいいからつい……」


「まあね」ころりとご機嫌が変わる。


「それじゃあ、ハロウィン・ライブの日までには何か名案を考えておくか

ら、その日にまた会いましょう」

 

 翡翠はミレイののんびりした返事が不満だったけれど、自分ひとりでは

歯が立たない相手だということは証明済みだから、ミレイに手助けしてもらう

しかない。


「ミレイ、約束だよ。僕に力を貸してね」


「まかせなさいって。あたしを誰だと思ってんの。あの……あっ、いけない。

それじゃあ、あたし忙しいから、今日はこれでね。バイバイ」

 

 ミレイはそう言うと、手を振るかわりにきれいなヒゲをぴくぴくさせて、

たちまち煙のように消え失せた。


―――― バイバイって。でもやっぱりミレイはただものじゃあなさそうだ

 

 唄い終えた翠は、集まってくれたファンの子たちと写真を撮ったりしてから

一緒にご飯を食べにいくようで、男はとうとう翠に近づくことができなかった。

翡翠は一人残って、その一部始終を見届けてから家に帰ったのだった。


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