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十月の二度目の金曜日は雨になった。雨が降ると、日暮れの訪れるのも早い。
夕方の五時を少し過ぎると、空はもう薄暗くなって、街のネオンやイルミネーションがいっせいに輝き始める。いつもフェアリーが歌を唄っている場所も雨に黒く濡れて、彼女の姿はない。
翡翠はベランダからぼんやりと広場を見下ろしていた。水に濡れるのは大嫌い
だから、雨の日は出かけることができない。もちろんミレイも雨の日は現われな
い。
「ひーちゃん、寒くない?お部屋に入ったら」
ママの声がした。フェアリーのことが心配でたまらないけれど、どうすること
もできない自分が悲しかった。翡翠はとぼとぼとソファーに戻っていった。
「ひーちゃん、何だか元気がないわね。雨嫌いだもんね。雨降るだけでテンショ
ンが下がるんでしょう」
ママが笑いながらなでてくれたけれど、翡翠は珍しく返事もせず丸くなって、
両腕の間に顔を埋めた。
次の日もまだ雨が降っていて、結局その週はフェアリーの姿を見ることができ
ないままで終わった。ママが言ったように、雨が降るとテンションが下がるとい
うのは本当で、しかも無性に眠くなる。翡翠はほとんどベランダにも出ずに、ソ
ファーやママのベッドで寝てばかりいた。
そして翡翠は夢を見た。フェアリーが、恐ろしいブギーマンにさらわれて、暗
い洞窟みたいなところに閉じ込められている夢だ。大きな穴の中で火が燃えてい
て、不気味なブギーマンの影が壁に揺れている。翡翠は、フェアリーが縛られて
いるロープを、必死で喰いちぎろうとするのだけれど、ロープはなかなか切れず
ブギーマンに見つかってしまう。
「なんだ。このチビは。ちょうどよかった。今夜の夕食は、猫のスープにしよう」とブギーマンに首筋をつかまれ、吊り上げられたところで目が覚めた。
「ひーちゃん、なんかうなされてたわよ。ほかの猫ちゃんとけんかしてる夢でも
見てたの?」
ママの優しい声が翡翠の耳に心地よく響いて、翡翠はほっと体の力が抜け、照
れ隠しに一生懸命前足をなめているふりをした。