裏側
「いるんでしょ?出て来てください」
「はいはいここでーす♪」
木村が呼びかけると、突然男は現れた。
黒いバトラースーツを着込み、人当たりの良さそうな雰囲気を持った若い男はニコニコしながら木村に言う。
「いやーご苦労様ですわざわざ脱走者の始末をしてくれまして」
「わざとこちらに誘導しておいてよく言いますね」
「ばれました?」
あははとわざとらしく笑いながら男は粉々になった石の欠片に向けて指先を向ける。青白い光が指先に生じ、石の欠片が消え去る。
「もう行ってもいいですか?僕もいい加減服を着たいです」
「おや、あれが何かを知らなくていいんですか? 気にならないんですか?」
「別に。貴方たち天使が何を作ろうと知りませんよ。……僕の大切な人に危害を加えなければ、ですけどね」
そう言い放ち、とんっと軽やかな音と共に木村は空高く跳ぶ。
それを見送り、男は片手を耳に当てる。
「はいはい。いえ回収は完了しましたよ? ただ少し粉々になってるだけです。……ご心配されなくとも彼は魔法を使えませんからこれが何かわかりませんよ。……ええ、『最悪』も良好。後数年放っておいても平気です。……わかりました。これよりNo.1『ミカエル』帰還します」
パチンッ、と男が指を鳴らす。
すると周りの空間は捻じ曲がり、その場はまるで何事も起きていなかったかのように、破壊の痕跡が消え去った。
その場所の上空に、少女がいた。
黄色を基調とした、まるでこれから舞踏会にでも行くようなドレス着た十歳女の子は、嬉しそうに笑っていた。
「……うふふふ」
背中から蝙蝠に似た翼を生やした女の子は、紅い瞳を木村に向けていた。
「みーつけちゃった。美味しい美味しい私のご飯」
その呟きが音になっていた時には、少女の姿は消え去っていた。