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合宿・二日目の夜

「結局バレーより遊んだ比率の方が多かった気がする」

 大きな火が辺りを照らし、その火を囲むように人が立っている。キャンプファイヤーだ。

 周りは森になっていて、整備された道が一本あるだけだ。普通と違うのは囲っている人が皆詠唱していることか。なんでも毎年やっているらしい。

「なんか火を見てると意識がふらふらする」

 木村の隣の日野川が言う。この二人が参加していない理由は魔法が使えないのと使うと爆発炎上するからである。

「なにそれ? 火の煙と一緒に意識か飛んでるの?」

「うーん、そんな感じ?」

「僕は全く感じないから魔法かな?」

 二人が雑談していると火が動いた。まるで意識を持ったかのように。その見た目は人だったり犬や猫だったりと、様々な形を作り上げる。

 火は好き勝手に動き回り、数分経ってようやく普通の火に戻った。

 詠唱も終わった、なのに誰も動かない。最後にお祈りでもしてるのかと思ったが、五分は待ってもまだ動かない。流石に心配になった木村は近くの部員に声をかける。

「もしもし? これっていつまで祈るんですか?」

 しかし反応がない。聞こえてないのかと思い肩を叩いてみても反応がない。他の人も同様だ。

「……あ」

 そこで木村は気づいた。焚き火の位置、人の位置、数、詠唱の関連性を。

「っずった!」

 木村は焚き火を思いっきり蹴り飛ばそうとする。しかし近づいた瞬間焚き火の周りを青い光が包み込んだ。

 構わず蹴ると、バンッ‼︎ と木村は勢い良く吹き飛んだ。駆け寄ろうとする日野川に叫ぶ。

「日向! 火を吹き飛ばせ!」

 反応は迅速だった。日野川は焚き火の方向に手を突き出しながら詠唱をした。風魔法、といっても本来は扇風機程度の風しか出ない。

 ただし日野川が使うものは、普通ではない。

 轟ッ! と風が吹き荒れ、焚き火を守る青い光ごと吹き飛ばした。

 ただし、その余波を受けて周りの部員も軽く飛んだが。

「……ったた」

 その衝撃のおかげか吹き飛んだ部員は皆起き上がってくる。ホッと木村が安心した時、油断が生まれた。

 ブチリ、と何かが切れた音が、妙に近くで聞こえた。

 他の人を起こそうとしていた部員達が、音のする方へ顔を向けた。そこには腹から剣が出てる木村の姿があった。

「んだよ、このガキ魔力なしか? ゴミめ」

 誰かが叫ぼうとした。しかし悲鳴の声が出る前に何かが光を放ち、部員達が次々と消える。

 転移魔法、日野川はメモ帳を破り捨てながら叫ぶ。

「転移!」

 声か聞こえた時には部員のほとんどが光に包まれ消えた。残ったのは部長の八坂と立川、マネージャーの間宮、木村と美香と日野川の六人。ただし木村は剣に貫かれたままでピクリともしない。

「うっわ、転移使えるのがいるとかマジかよ」

「これで一人一つだな」

「やれやれ、何日持つやら」

 ぞろぞろと被り物をした人が出てくる。全部で五人、身体を見る限りでは全員男だ。

 手にはナイフだの錫杖だのを持っていて、着ている服には統一性がない。

 剣を持った男は木村から剣を引き抜き、蹴り飛ばしながら文句を言う。

「待て待て、こいつ魔力なしだぞ? これは数に入らないからしっかりと分けるべきだろ」

「いーや、先行した奴にバチが当たったんだ」

「ちげぇねぇ」

 がははと笑う男たちに対して、怒号が飛んだ。

「ふざけるな!」

 八坂は叫びながら一枚の紙を取り出した。紙が発光しながら消えると同時に八坂の周りが一気に冷え、無数の氷柱つららを形成し、男たちに飛んでいく。

「あらよっと」

 対して男が錫杖で氷柱を叩き落とすように振るう。すると錫杖に触れた氷柱は空気に溶けるように消えた。

「なに!?」

「ごちそーさんっと。中々の魔力だな、毎日頑張ったんだな」

 男は感心したように錫杖を向けながら八坂に言う。ただし八坂はこれを挑発と受け取ったようだ。

「立川、間宮、木村、それに日野川さん、手を貸してもらえるか」

 八坂が言うと立川と間宮は紙切れを取り出していた。

 しかし日野川と美香は何も手にしていない。目で訴える八坂に対して美香と日野川は静かに首を横に振った。

「すみません先輩、私魔法書持ってません・・」

「私も使えるのがもうありません」

 美香は手をプラプラさせ、日野川はメモ帳を指差しながら言う。ならば仕方が無いと八坂が新たに魔法を放とうとする。

「八坂君」

 それを立川が止める。

「どうした立川」

「このまま攻撃していいのかな? 逃げた方がいいんじゃ……」

 立川が逃亡を提案する、しかし八坂は首を横に振る。

「木村が、木村公太が殺された。俺は少なくとも、殺した奴をぶっとばすまで逃げるつもりはない!」

「かっこいいー!」

 そんな台詞にナイフを持った男が笑う。ナイフを八坂に向けながら言う。

「じゃあほらこいよ。お得意の魔法を使って友達の復讐を、な?」

 ナイフを持った男は視線を倒れた木村の方へ向ける。そこにはピクリとも動かないジャージを着た少年が転がっていた。

 その光景に、何かが引っかかった。

「……?」

 何かがおかしい。何かなのかは具体的にはわからない。それくらい小さな、そして重要な何か。

 周りを見てもおかしな事はない。男たちも平常で、八坂は今にも飛びかかりそうになっている。

 もう一度男たちに視線を向ける。それぞれが持つ武器には字のような物が書かれていて、武器の種類はナイフ、錫杖、鉤爪かぎづめ、警棒、手斧と剣。どれもきちんと手入れされていて、

「……あ」

「おいどうした?」

 剣、剣がおかしい。だって、

 さっき少年を刺したはずのその剣が汚れてないわけがない。

 男が声を出そうとした瞬間、

 ゴッ! と何かが空気を裂きながら男の額に当たった。

「がっ・・⁉︎」

 男はそのまま地面に倒れ、動かなくなる。

「お、おいフォー!」

「馬鹿! 構えてろ!」

 手斧を持った男が仲間の声を無視して駆け寄る。その頭にまたもや何かが高速で当たった。

「っ、のぉ……!」

 しかし意識は飛ばなかったようで、何かが飛んできた方を見た。

「な、に?」

 そこには、何事も無かったように木村が立っていた。服が破れて皮膚が見えるが、傷一つない。

「ほっ」

「あぎゃ!?」

 木村が地面から石を拾い上げ男に投げつける。石は肉眼では捉えられない速さで男に当たった。

「走って!」

 走れと言いながら木村は真っ先に走り出す。日野川と美香が追いかけ、うろたえながらも八坂達も追いかけ出した。

「こんの待ちやがれ!」

 男の一人がナイフを投げた。それは綺麗に木村の背中に突き刺さったが本人は何事も無かったように走り去って行った。



「さてと」

 月明かりに照らされた森で木村は呟いた。背中にはまだナイフが刺さったままだ。

 周りには他の人もいる。ただし八坂と立川は警戒を。間宮は恐怖を持って木村に視線を向けている。

 八坂が木村を睨みながら話しかけてくる。

「どういうことかは説明してくれるのか?」

対して木村は睨みに反応を示さずに言う

「あの人たちのことなら予想はできますが」

「違う。木村、お前のことだ」

「あ、僕ですか? まぁ当たり前の反応ですね」

 ヘラヘラと笑いながら、睨み合うように顔を向ける。もっとも八坂から木村の眼は髪で隠れて見えてないが。

「魔法が使えないと聞いていたのだが……」

「傷がないのは魔法じゃないですよ。いやこれは魔法の領域を超えてますが」

 背中に刺さったナイフを抜き取りながらなんでもないことのように言う。

「僕はですね、死なないんですよ」

 八坂と立川が顔をしかめた。間宮は更に怖がるように身を抱いた。日野川と美香は何も言わない。

「何も食べなくても栄養失調になって動けなくなることもない。呼吸をしなくても平気。更には怪我をしても一瞬で、確認なんてできないほどの早さで治ります」

 言いながら木村は自身の頭にナイフを思いっきり突き刺し、引き抜く。ナイフには血がついていない。

「傷は血がナイフに付く間もなく消えます。おかげで高いところから落ちても腹を剣で突き刺されても遺体が残らないような爆発を受けても死にません。骨は折れる前にくっつき、剣は血の流れを少し阻害する程度でしかなく、身体は塵になる端から再生します」

 八坂の身体が強張っていくのを木村は感じていた。立川は言葉の意味を別の意味で取ろうとしている。間宮に至っては木村を見る目が化け物を見る目だ。

 日野川と美香に目を向ける。二人は黙って頷いてくれた。

 木村は八坂に向かって言う。

「そういうわけなんで、逃げてください」

「……なに?」

 八坂は木村の言葉を理解できなかった。

 軽くため息をして木村はもう一度言う。

「全員を連れて逃げてください。あの変人は僕が引き止めておきます」

「……ふ、ふざけるな、死なないだけで魔法も使えない木村がどうやって止め」

 るんだ? と最後まで言えなかった。

 ドンッ! と爆発音に似た音がした。

 八坂が音のした方を見ると木々が薙ぎ倒され、一本の道を作り出していた。その入り口に木村がいつの間にか立っている。

 木村は八坂たちの方を見ずに言う。

「ここを真っ直ぐ行けばそのまま合宿所に行けるはずです。そのまま合宿所で引きこもってください」

「……な、にが」

「説明は日向と美香にしてもらってください」

 日向が棒立ち状態の立川の腕を掴み、美香が間宮を背中に背負う。

 二人は先にできたての道を行く。残されたのは木村と八坂二人だ。

「どうぞ言ってください」

「……くそ、くそっ! 木村、死ぬなよ!」

 八坂は日野川たちを追いかけながら木村にそう言った。その言葉を聞いた木村は思わず笑ってしまった。

「死ねませんよ」

 ドンッ! と音が聞こえた。

八坂が振り向いた時には木村の姿はなく、大きくへこんだ地面があるだけだった。

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