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合宿・初日の夜

 なんだかんだで時が経つのは早い、と木村は思う。

 時刻はもう六時、部員たちは美香や一部の数人を除いて体育館の床にぐったりしている。

 というのも今日は延々走ったり跳んだりしかしてないからだろう、バレーの練習は一つもなかった。

「みんなー! 今日の活動は終わりだ、各自部屋に戻って夕食まで休んでおけ!」

「「「はい!」」」

 返事はいいものの誰も立ち上がれていない。

「じゃあ私たちは食堂行きましょうか」

「あ、夕飯作りですね」

 間宮まみや紀香のりかという名前のマネージャーに木村は付いて行く。他には八人マネージャーがいたのだが(男女四人ずつ)先に食堂へ行ったようだ。

 そこに日野川も来ようとした瞬間、木村は日野川を押し戻す。

「日向はここで皆を見ててくれないかな?」

「い、いや私も手伝いを……」

「日向? 人には得意不得意があるんだよ?やるなとは言わないけど部員の皆のご飯だから、わかるよね?」

「う、うん」

「よーし、ならここで皆を見ててね」

 と言いながら間宮と一緒に木村は食堂へ向かう。

 その途中で間宮が話しかけてくる。

「あの、なんであんな全力で日野川さんを止めたんですか?」

 その言葉に木村は何かを達観したような、諦めに近い表情になる。

「はは、そりゃ僕だって合宿で死人を作りたくありませんから」

「えーと、ジャガイモの芽でも入れるんですか?」

「そうじゃないんだけどね。間宮さんは日向がSランクになった理由知ってる?」

「え?凄い魔力を持ってるからじゃないんですか?」

 木村は少し笑いながら違うと言う。

「Sランクになるのは、まぁアメリカには魔力が強すぎてなのもいるけど、基本的にはある種の『特別』を持っている人のことだよ」

「特別ですか」

「例えば魔法書を使わず魔法を使える『静寂の魔女』、全ての魔法を打ち消す魔法を使える『神殺し』、とかそんな感じ」

「日野川さんは何ですか?」

 そこで、木村は少し黙った。

 何かを堪えている。間宮にはそう見えた。

「木村さん? どこか具合が……?」

「あ、いや、大丈夫です」

 ははっ、と木村は笑っている。顔は笑っていないが。

「日向の『特別』は効率だよ」

「効率? 燃費が良いってことですか?」

「そうそう、日向の魔法は全て日向専用に改造されているんだよ。一般人がお湯を沸かすのに使う魔法を、日向は鉄なんかを溶かすレベルまで徹底的に効率化されてるんだ。登録名は『最高の魔女』だったと思う」

 食堂に着いた二人は夕食の準備を始める、夕飯作りはマネージャーの仕事らしい。毎回二人ほど手伝いがいるらしいが。他の人は既に準備は終わっている。

 料理も近代は全て魔法を使うこと前提になっているため木村は大したことはできないが、料理を教えることはできるだろうと思って手伝いに来ている。

「あれ? 結局料理をさせないのに何の関係が?」

「徹底的に効率化された魔法しか使えないんだ、日向は。つまり具材を切れば霧のようになるし火を使えば爆発する。それでもいいなら日向呼んでこようか?」

「いえ、いいです! 呼ばなくていいです! さあ作りましょう!」



 木村は男子部長の八坂と二年の先輩の鳥坂というガタイのいい男の相部屋になった。

 ただし、今現在二人はいない。八坂は合宿の予定について話してくると言って指導室へ、鳥坂は無言でどこかに行った。

 時間はもう九時、やることのない木村は一人部屋で黙々と宿題を片付けていた。

 コンコン、とノック音がした、木村は反応しない。

 コンコンッ、と少し強めにノックをされた、木村は反応しない。

「こうちゃーん? いないの?」

 日野川だとわかった瞬間扉を開ける。

「なに? 僕今宿題と格闘中」

「ちょっと聞きたいことがあって来たんだけど……」

「なに?」

「人に聞かれると困るし、中に入れて」

 と言いつつ既に中に勝手に入っている日野川に木村は少し呆れている。誰かに聞かれるとまずいようなので鍵を閉めておく。

「で、何の話?」

「怪しい人たちがここを観察してる」

「…………」

 途端に、部屋の空気が変わる、普段とは比べものにならないほど真面目な顔に、二人はなっていた。

「……数は?」

「六人、山に他には誰もいない。装備がバラバラだから多分盗んだ物」

 日野川の言葉に木村はほっとするように息を吐いた。

「……なんだ驚かせないでよ、ただの脱走兵じゃん」

「ただしずーと私たちを見てる、思考は読めなかった」

「様子見でいいんじゃない? そんなに気にする必要ないよ」

「わかったこうちゃん。……ところでこうちゃん!」

 一瞬で、日常が戻ってきた。

「明日の予定見た!? 海だよ! 泳ぎだよ!?」

「見たよ、バレーの練習はどこに行ったんだろうねこれ?」

 さっきまでの会話はまるでなかったかのように、二人はいつもの日常に戻った。

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