合宿・初日『鬼ごっこ』
ぴろりん、と面白味のない着信音が鳴った。
美香は携帯を見ながら、隣の木村に伝える。
「あと十四人みたい」
「最初何人いたっけ?」
「……鬼が十人、逃げるのがその他だから約百三十人」
「……今開始何分?」
「……二十分」
はぁ、と二人は同時にため息をつく。
合宿で最初にやることは、山の中で鬼ごっこだった。先生曰く「走るのでも遊んだ方がよく走るし楽しいでしょ?」らしい。
なぜかマネージャーや手伝いの木村たちまでやることになり(日野川は鬼側、逃走者だと絶対捕まえられないから。制限付きだが)それから二十分後。
現在逃走者十四人、残り時間十分。
木村は魔法を全く使えないため、見つかればアウト。美香は得意魔法が物体操作(物を硬くしたり柔らかくしたりすることができる魔法。これが出来れば就職に困らない)なため、鬼ごっこには役に立たない。
ちなみに二人が一緒にいる理由は木村が携帯を持ってない(使えない)からである。
「美香、来たよ」
「え?」
美香が体操服のポケットから一枚の紙を取り出す、その紙は発光した後バラバラになる。
「来てる、前から時速六十キロほど。……お兄ちゃんひーお姉ちゃんの魔力の流れだけ良くわかるよね」
「美香のだってわかるよ、なんとなくだけど」
木村は魔法が使えず、魔法を使って見ることができる魔力の流れが見えない。だが、かなりの時間を共に過ごしている二人の魔力の流れだけはわかるのだ。見えてないが。
「じゃあ、予定通りに……」
「悪い子はいねーがー!」
ダンッ! と勢い良く何かが落ちてきた、騎士の鎧を着けた日野川だ。
制限その一、魔力の制限。
この鎧は魔力がある一定量以上放出できないようにされている重さ三十キロの鎧だ。ただし日野川は元々魔力は平均的で使う本人専用魔法の効率が良すぎるからSランク認定されたのでこの制限にそれほど意味はない。
「ふっふっふ、さあ観念して捕まるが良ーい」
がおー、と言いながら日野川が突っ込んでくる。二人は動かない。
「かーくほーー!」
日野川が二人に手を伸ばし、――日野川の視界から二人が消えた。
「……りゃ?」
日野川は周りが随分と暗いと感じ、日の光を探して上を見上げると、
「捕獲完了」
「ひーお姉ちゃんゲットだぜ!」
二人がそこにいた。笑っている木村兄妹を見てようやく日野川は自分が落とし穴に落ちたのだと気づく。
「な、なんの! 私ならこのくらいの高さ跳んでみせる!」
と言いつつぴょんぴょん跳ねるが、ギリギリ届かない。日野川は軽く三百メートルは跳んでいるはずなのだが、それでも届かないというとんでもない深さだった。
「あー!? 卑怯な!!」
「僕はルールに従ってるだけだよ?」
制限その二、攻撃の許可、
これは鬼側がBランクとSランクに対し、逃走者がCランク以下に対しての配慮だ。
逃走者はBランクに直接攻撃でなければ魔法の使用許可。Sランクには全面的に許可をしている。……これも意味がなかったらしく百人以上捕まることになっているのだが。
「じゃあ僕らは行くね」
「終わった頃に引っ張り上げてあげるー!」
「だーしーて!!」
十分後救出された日野川は、しばらくふてくれていた。