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合宿・初日の朝

 特に何もなく終業式が終わり、木村は少女二人に宿題をやらせ、終業式から一週間経った。

「聞いてるとは思いますが、木村美香の兄の木村光太です。今回は妹共々よろしくお願いします」

 まだ暗い時間帯に学校の校庭に何台ものバスが停まっている。

 この学校は小学校から高校までのエスカレーター式で、バレー部の合宿はいつも中学と高校合同で行っていた(美香は見た目小学生だが今年で中学三年生になる、木村と日野川は高校一年生)

 木村が話しかけたのは青ジャージを着た優しそうな顔をした男性教師と、その隣にいるかなり長身の男子生徒と女子生徒だ。

「僕はバレー部顧問の西森にしもりだ、よろしくな木村」

「男子バレー部部長の八坂やさかとおる

「女子バレー部の立川たちかわ琴美ことみだよろしく、木村君。……それできみの隣にいるのは……」

「はじめまして! 日野川日向です!」

 木村の両側に少女が立っている。右側には妹の美香が、左側には日野川日向が立っている。

 木村は日野川を止めたのだが、日野川は「学校でこうちゃんと普通にいられるチャンスなんだよ!」と言われて、反論して、多数決に至って負けた。

「よ、よろしく日野川さん」

「ええと、木村さん、木村君、これはどういうことなのかな?」

「僕は知りません」

「でもこうちゃん多数決で負けたよね」

「「……こうちゃん?」」

「頭が痛くなってきた」

 木村は頭を押さえてその場に座り込む、ちなみに西森先生は笑って見てるだけだ。

「えーと、お二人はどういったお関係なのかな?」

 立川が聞いてくる。何か誤魔化そうと木村が顔を上げた瞬間に、

「幼馴染の居候です」

「……あー、夏休み後がすでに憂鬱になってきた……」

 日野川が答えてしまい木村はめんどくさそうな声を出してしまう。

「え、えと、聞かない方がいいの、かな?」

「仲が悪いとかではないんだね?」

「お兄ちゃんたち仲はいい方だと思いますよ!」

 と、美香と部長二人は何やら話し始める。

 その端で、

「日向、僕に何か恨みある?」

「なんで?」

「いやさあ、……やっぱりいいや諦めた」

「?」

 そんな感じに少し待っていると美香たちが木村の方へ近づく。

「事情は理解した。心配しなくとも少なくとも表立ってSだのFだの騒ぐ人はここにはいないから安心していい」

「改めてよろしく、木村君、日野川さん」

「よろしくお願いします八坂君立川さん」

「よろしくお願いします!」

 何を言ったんだろう? と思いつつも木村はバスに荷物を詰め込んだ。



「海だー!」

「山だー!」

「そしてー!」

「「「合宿だー!!」」」

「……何やってるんだろ」

 バスに乗って三時間、合宿所に着いた途端に美香と日野川と数人の女子が降りていきなり奇行をし始めたのだ。

 他の部員は呆れ半分で見ている。どうやら平常運転らしい。

「おーいお前ら! 自分の荷物を持てよー!」

 男子部員が呼びかける。他の部員は皆自分の荷物を持っている。

 だが、

「何で皆魔法書持ってるの?」

 部員全員が手に小さな紙切れを持っている。紙には小さな文字や記号、陣が描かれていた。

 魔法書とは、魔法を使う際に使用する物のことだ。

 これらがなければほとんどの魔法使いは魔法を使えなくなる。中には魔法書を使わず全て詠唱して魔法を使う人もいるが詠唱はとても長く実戦では使い物にはならないと言われている。

「……まさか聞いていないのか?」

 八坂が驚いた表情で木村を見てくる。

「あの、その言葉に嫌な予感しかしないんですが、飛んで行くんですか?」

「いや、山を通って行くんだが……フルマラソンしたことあるか?」

「言いたいことはわかりました、大丈夫です。体力には自身があるので」

「ならいい」

 そう言って八坂は立川の方へ行く。それと入れ替わりに日野川が木村に近づく。

「山登りするの?」

「そうみたいだね」

「私どうしよっかなー、転移するか飛行するか……」

「二本足使いなさい」



「じ、じごくだ〜」「あとなんじかーん?」「三時間くらい、じゃなかったか去年は」「も、もう意識が……」

「ほらー! 皆まだ一時間しか動いてないぞー!」

「四分の一だ! あと四分の三頑張れ!」

 部員たちが走る中、道路を走る車を追い越していく。車に乗っている驚いた顔をしている子供に手を振る部員もいる。ただしすぐに車を追い越してしまうが。

 彼らの足元は少し発光していて動くたびに光は遅れて付いてくる。

「皆頑張ってー!」

 その上には幾つかの荷物と一緒に日野川と木村が飛行していて、それらの上にはほぼ透明の魔法陣がある。

「やっぱり風が気持ちいいねー。転移しなくて良かった」

「何のための足がついてるんだか……」

「じゃあ降りて一緒に走る?」

「勘弁して」

 部員たちは羨ましそうに上をチラチラと見ている。中にはそれとは別の感情で見てくる者もいたが。

「あと三時間も走るなんて普通考えられないよね」

「しかも全員全力疾走だよー」

「ひーお姉ちゃんたちずるいよー!」

「美香ちゃん元気いっぱいだねー」

「美香も学校ではかなり成績いいからね」

「私には及ばないけどね!」

「……日向に勝てるのって世界に何人いるの?」

「もー! お兄ちゃんも降りて走れー!」

「木村さん! 喋ってないで走りなさい!」

 暑い真夏の日、車を超える速度で、少年少女は走り続ける。

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