再会
遅くなったよ、すいません。
後半部分にあまり自信が・・・でも、これ以上いい表現がなかったんだ。
周りを見渡す。
空は既に赤くなりかけていてちょうど頭の上に赤と青の境界線が見える頃、賑やかな音楽を奏で、色とりどりの看板を掲げる屋台とそこにいるのは学園島に住む生徒たち。
通常、能力者である生徒たちは許可なく学園島から出ることはできません。
外に出れば能力者排除組織に殺される危険性が高まりますし、むしろ国家の秘密組織にモルモットとして捕らわれる可能性の方が高いかもしれません。
そんな理由もあり学生が学園島外に出すことはよほどの理由がなければできませんが、しかし、能力者も一応人間。
学校しか存在しないなどという禁欲的な場所に、我慢できるはずがありません。
そんなわけもあり、学生の不満を貯めないためにも、学園島には様々な娯楽施設が揃っています。
企業も少々危険とは言え、常に学生が集まる場所として関心を高めており、各国の有名企業の店が揃っており、それらの店舗をすべてまとめた場所が、超大型ショッピングセンター『アストロ』です。
ああ言い忘れていましたが、学園島は六つの区域にわけられています。
第一に中央の学園区画、ここに学園島の学校すべてが集まっています。学園長の部屋もここですね。
第二に学園の東側に存在する東商業区画、アストロがあるのはここですね。言っておきますが、アストロだけでなく個人で店を出しているところもありますよ。大企業だけですが。
第三に学園の北に存在する北工業区画、ここでは能力者でしか加工できない素材を使った特殊工業製品が作られています。学園島全域分の電気はここにある発電施設でつくられています。
第四に学園の西側に存在する西学生寮区画、ここに学園島全生徒の寮が存在しています。教職員の寮も一部はここにあるみたいですね。
第五に学園の南側に存在する南研究区画、不可解な部分が多い超能力の研究のため、多くの研究者が集っています。初めて学園島に訪れる場合は、ここを通されますね。バレたらヤバい研究は地下で行われていると評判です。
そして最後、それらの区画を覆うように学園島の外周を占める防衛区画、ここが一番秘密が多いですね。まあ、防衛のための場所に秘密がないはずがないんですが。
ちなみに、わざわざ商業区画と寮区画が西と東に分かれているのは早めに帰寮させるためらしいですよ。
そして現在位置である東商業区画、アストロ、商業区画とは言っていますが別に楽しめるのはショッピングだけではなくゲームセンターなどもあり、数少ない大人のためのパチンコ、居酒屋なども存在しています。もちろん、生徒は二十歳以下は入れませんよ。
再び周りを見渡す。
賑やかなで荒々しい喧騒と香ばしい香り、ここは個人で店を出すほどの経済力がない企業のための屋台広場です。
使える敷地は祭りの時の屋台ぐらいのものしかありませんが、実力のある企業はここで着実に名声を高めていきます。
屋台にも当たり外れがあり、学生の中ではあたりを見つけるのが最近の流行りらしいですね。クラスメイトが言っていました。盗み聞いただけですけど。
この屋台広場にはたくさんの学生が思い思いに過ごしています。
もちろん、思春期の学生が増えればカップルなども見えてくることでしょう。
私の疑問はそこです。
何故、私は今・・・
「ハフハフ・・・美味美味、おい、あっちも美味そうだ。行くぞ」
その周りの生徒と同じくカップルのように編入生と手をつなぎながら、食べ歩きをしているんでしょうか?
いや、確かに引き止めるためにデートをしましょうとは言いましたが、まさか受け入れられるとは思いもしませんでした。しかも、恋人のように手をつなぐなんて。
私って、そんな魅力ある男じゃないと思うんですが。
後輩である水猫は、『先輩はイケメンだから絶対女ウケいいですよ!』とか言っていましたが、彼女はどうやってステルスをすり抜けて私の顔を見たんでしょうか?自分でも鏡に映らないのだから見たことないのに。
編入生は悩む私を引きずるように、大量の食べ物を抱えながら次の屋台へと向かっていきます。
これ、はたから見たら空中を掴んでいるように見えますよね、私透けているというか見えませんし。
「・・・どうかしたのか?自分で歩く気がないのなら引きずるぞ」
「もう引きずっている気がしますけどね・・・どうしてあなたが私の申し出を受けたのか少々疑問に思いまして」
「それは、思っていても口に出さない方がいいぞ。女に嫌われる」
「私は、私を正しくわかってくれる人と付き合おうと思っていますから大丈夫です」
「・・・ふん、それを一つくれ」
「あいよっ」
編入生はカスタードが餡の代わりに入ったたい焼きを注文し、抱え込んでいる食品の山に追加していきます。
とんでもない量がありますが、全部食べられるんですかね?既にかなりの量を食べてますが、腹の中がどういう構造になっているか気になります。
編入生に連れ回されるままに歩いていると、私の耳に携帯の着信音が聞こえてきました。
音源は私のポケット、このおどろおどろしい低い着信音は確か学園長ですね。
この聞くだけで気分損ねそうな音楽は、学園長にピッタリですね。
「失礼、私みたいですね」
編入生の返事を待つこともなく、電話を取ります。
「はい、もしもし学園長。現在私はつかの間の休暇を楽しんでしますが何か?」
『それならばよかったわ。休暇中ならば、他に仕事は入っていないわよね?至急、私の部屋に来なさい』
「休暇と言っているじゃないですか?労働基準法違反じゃないですか?訴えますよ?」
『学園島にそんなものはない。特定の国の法律なんか入れたら面倒くさいでしょう、私が法よ』
「なお悪いですよ」
それだけ言い残して、電話を切ります。
なにやら殺気を感じるので横を見れば、編入生は不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいました。何故でしょう?
「・・・奴からか。何があった」
「さあ、ただ学園長の部屋に来いとしか言われてませんね。それでは、今日はここで失礼させてもらいます。それでは」
「へ、ちょっと待て!」
「また明日会いましょう」
止めようとする編入生の手をくぐり抜け、学園長の部屋を目指します。
遅れたりしますと、面倒くさいですからね。なるべく急ぎます。
*
途中にあったテレポート便にまさに便乗し、ショートカット。いやいいですよね、長距離転移。
あ、お金は払っておきましたから大丈夫ですよ。
「それで、何か用ですか?それは、私の休暇を潰すほど重要なことですか?」
「ええ、とっても重要なことよ。報告お願い」
学園長が横に話を降ると、若干透けた女性が浮かび上がってきます。
肩でキッチリ切り揃えられた目に痛いサイケリックな色の髪に、少しだけきつそうなつり目と、シワの一つもないスーツを着こなした女性、学園長の側近のひとりである精神系最強の『丸澤茜』、二つ名・・・は忘れましたね。みんな仕事の鬼としか呼んでませんから。
「立体映像で登場とは、随分とお忙しいようで」
『それだけ事態は緊迫しているということよ』
「どこかのマフィアが超能力兵士でも使って抗争でも起こしましたか?もしくは反政府組織か何かが革命でも起こしましたか?」
『我々は学園島以外のことで外に干渉しないことが基本よ。お姉さまが決めたことなのに、覚えていないの?だいたいあなたはいつも・・・』
くどくどと始まる説教。そんな干渉しないのが基本とか言っていますが、保護と称した強制連行とか水猫の行動とかは大丈夫なんでしょうか?
長々と続きそうな説教に、流石に学園長も時間がないのか止める。時間を操る人間が時間がないとはこれはいかに。
「ごめんなさいね、茜。説教は今は勘弁してもらえるかしら?」
『わかりましたわ、お姉さま!』
私と話していた時とは百八十度違う笑顔で、説教を辞める茜さん。
ああ、そういえば茜さんは学園長のことがライクでなくラブの方で好きな変態でもありましたね。
学園長一途、気持ち悪いくらい一途ですからね。傍目から見れば面白いんでしょうが、こんなのに巻き込まれるとなると嫌で仕方ありません。
『単刀直入に言います―――テロリストが学園島の警戒網を突破した』
「・・・警備はどうしたんですか?怠慢ですか?」
『いえ、警備は完璧。【心理看破】の能力者も『臆病兎』もちゃんと働いていたところ、何らかの薬品を飲まされて眠らされてしまったみたい。予想外だったのは、『臆病兎』も眠らされてしまったことね』
軽く話を流そうとしたら、とてもではありませんが聞き流せない単語が出てきました。
『臆病兎』がやられた?
「あの『臆病兎』がやられたんですか?銃弾が嵐のように飛び交い地雷が山ほど埋まっている戦地から裸一貫で逃げ出したあの『臆病兎』が?」
『ええ、あの子の能力は悪意がなければ発動しない。それが仇となったみたい。テロリストに、綺麗になれる薬があるなんて言われてうっかり飲んじゃったみたいなのよ』
・・・頭が痛くなってきました。
「そんな古典的な誘い文句に乗っちゃったんですか?」
『自分の能力に反応がないから大丈夫だと思ったんでしょうね。後できつく言っておくから安心して。あまりあなたたちに私は任せたくないのだけど、お姉さまが一番信頼を置いているのは私でなくあなただから、頼みましたよ』
「そんなことはないわ。この子もあなたも、等しく私は愛しているわ」
『なら、今晩お姉さまの寝室にとつげ―――』
「ごめんなさいね。言い方を間違えたわ、あなたのことはこの子と等しいぐらいしか思っていないの。それに私はノーマルよ」
『・・・・・・』
立体映像が消える直前まで、親の敵といわんばかりの視線を送る茜さん。大人げないというか、もう少し自重したほうがいいというか・・・何も言えないですね。
「さて、茜からあった通り相手は私の手駒をすり抜けるほどの実力を持ったテロリスト。残念ながら、学園島保安部隊では対処は難しい、そこで今回はあなたに出てもらうわ」
「あまり派手な騒動で動きたくないんですがね」
「それは私だって同じことよ。あなたはこの学園島の十八番なのだから。でも他に適役がいないの、役不足だとは思うけどお願いするわ」
「・・・まあ、いいですよ。そういえば聞きたいことがあるんですが」
「何かしら?今なら大抵のことは答えてあげるわよ?」
機嫌が良さそうに、左手でペンを回す学園長。とてもゆっくり回っているのに安定しているのは能力を使っているからでしょうね。なんという無駄遣い。
いや、学園長の能力が無駄にならない時なんて来て欲しくないので無駄に使ってもらっていたほうがういいですね。
「編入生の事で色々と話を聞きましてね」
「・・・ああ、屋上での逢引にアストロでデートをしていたやつね。あなたが一個人に入れ込むなんて珍しいじゃない、一目惚れでもした?」
ついさっきのことであったのに、何故知っているのでしょう。おかしな監視網ができてないかが心配ですね、監視カメラには映りませんからきっと能力者を使ったんでしょうけど。もしくは盗聴器ですかね。
「そんなわけありませんよ。というか、私がそういったことができないのは百も承知じゃないですか」
「ふふふ、冗談よ。それでディアちゃんの何が聞きたいの?」
「彼女の連行時、随分と荒っぽい手段を使ったみたいじゃないですか。それが少々気にかかりまして」
私も何度か同行したことはありましたが、保護対象者の目前で能力を使用した脅迫などしたことは一度もありませんでした。そんなことしたら、余計に反超能力者団体が余計に活気づきますからね。
しかし、編入生から聞いた話では完全に脅迫、ずる賢く自分の利益に敏い学園長がそのことを忘れるはずがありません。
さらに、編入生のが言う学園長が連れてきた偽保安部隊、あれもおかしいです。
保安部隊は不定期で精神系最強の茜さんが、心理鑑定を行っています。口や記録でどうごまかそうと、彼女の心理鑑定から逃げることは叶いません。学園長に変態的に執着している茜さんは、不定期と言いながら三日に一回会うたびにさりげなくやってますしね。
それなのに、一人ならともかく全員が入れ替わっていることなどありえない。
「そうしないと、ディアちゃんが危なかったもの。しょうがないわ」
「親を時空の狭間に追いやって脅迫するほど、危なかったんですか?」
「・・・?」
学園長は、意味がわからないとばかりに首をかしげます。
だから、その年でやっても気持ち悪いだけだと・・・いえ、もうそれはいいでしょう。
「何を言っているのかわからないのだけれど」
「とぼけないでください、わざわざ偽保安部隊を連れていって時空の狭間に追放して、編入生の親も時空の狭間に追放したのでは?」
「・・・わけのわからないことを言うわね。彼女の保護に保安部隊など連れていっていないわ、行ったのは私だけ。それに彼女と私が最初に会ったのは―――」
目の死んだ、白髪の魔女は笑うように言う。
*
〈side ディア〉
「・・・感づかれたか?」
影が去っていくのを見て、若干不安になりながら、口の中に残っていたタイ焼きを飲み込む。
あの話が終わった後、あの影は唐突にデートをしようと言ってきた。
初めは何を馬鹿なことを言っているんだと呆れたが、そこで私は思いついた。この提案はチャンスだ。 ハニートラップ、影の嗜好がどのようなものかは知らないが、万が一特殊な趣味だとしても、私には落とせる自信がある。
別に自分の美貌を過信しているわけでない、母様と父様譲りのこの顔も確かに美しいとは思うが、それだけで一人の人間を依存させるほどではない。
私の自信の要因は、超能力だ。
実は先ほど影との会話時、一つだけ意図して言っていなかったスキルがあったのだ。
名称は【魅了肢体】、この能力は変身しなくても強度は落ちるが、相手を魅了させることができるものだ。
発動条件は、肌を触れさせること。影とわざわざ手を繋いでやったのも、この能力を発動させるためであったが・・・どうやら奴には効かなかったようだ。
憎き敵、刻々崎刹那の側近である影の手を借りればやれるかもしれないと思ったが、流石に魔女なだけあって、容易く落とされるような手駒は配置しないか。
「もしや、先ほどの呼び出しも私の考えに気付いてのことか?忌々しい魔女め、どこで監視している」
どうすれば魔女を出しぬけるか、糖分を適度に補給しながら策を練る。
しかし、変身前は私も少しだけ身体能力の高い人間。一日中歩きっぱなしでは疲労が溜まってしまう。
どこか休めるところはないか、そう思い周りを見渡すと、思わぬものが目に入った。
裏道に見えたあの顔はもしや・・・
「これはやる、好きに食え」
「えっ?な、なんですかこれ?いったい何?後でお金とか請求されちゃうの!?」
私より少し低いくらい、兎の耳が頭から生えたピンクの髪の少女に荷物を押し付け、裏道へと駆け出す。
突然のことに錯乱しかけていたピンクの髪の少女だが、私がどこかへ行ってしまったのを見て首をかしげながら袋の中の食べ物を食べていく。
・・・案外順応性高いな。
呆れ半分驚き半分で少女を見た後、能力を発動し空を飛ぶ。
街中での能力の使用は規則で制限されているが、別に空を飛ぶぐらいなら大丈夫だろう。まあ、元々あの魔女が作った規則など守るきはないのだが。
しばらく探索を続けると、そいつは工場の跡地に入っていくのが見えた。
慌てすぎたせいか着陸時スピードが抑えきれなかったが、変身後ならばこの程度の高さは自由落下しても大丈夫だ、骨折や捻挫などは起こらない。
はやる気持ちを抑え、廃工場へと入っていく。
入口から見てまっすぐ正面、そこにいたのは一組の男女。
男は闇の中でも輝くような金の髪を、女のほうは涼しげなアイスブルーの瞳を、その姿は見覚えがあった。
いや、忘れるわけがない。
なぜならこの二人は―――
「・・・と・・うさま?かあ・・・さまなのですか?」
この二人は、魔女にとらわれたはずの私の両親なのだから。
〈side out〉
魔女は笑う。嗤う。滑稽う。
「―――それに、彼女と私が最初にあったのはカプセル越し。つまり、彼女は非合法に研究されていたモルモットの一人。そして彼女の親は十年前に既に亡くなっているわ」
歳をとることを忘れた、世界の絶対定理である老いをも克服した魔女は微笑みと共にそう告げた。
偽両親登場。
次回を待て!