対話
更新おせえ・・・
―――複数能力一体型
それは、変身系幻想種の超能力者に多い、非常に強力な能力のタイプ。
前にも説明したと思いますが、能力は一人必ず一つというわけではありません。二個持っているものも多数いますし三個持っている者もいます。三個は流石に少ないですが。
ですが、能力の質で見ると単体の能力者の方が旗が上がります。
それは何故かは未だ解明(そもそも超能力自体全く解明されていない)されていませんが、能力が複数ある場合、どこかした欠陥が発生するということがわかっています。
例で出すと・・・メジャーなところで【発火能力】がわかりやすいですかね。
単体の場合だと体中から炎を出せるのに、複数の場合は手のひらからしか出せないと発動場所が限定されてしまう、等といった欠陥が発生してしまいます。まあ、全身から炎なんか出したら服が燃えてしまうので限定されているほうがいいかもしれませんが。
こんな感じで複数能力保持者はどこかしら欠陥が出てしまうのですが、唯一の例外が『複数能力一体型』です。
彼ら変身系は、その名のとおり能力名のモノへと変身することができます。
目の前にいる編入生の【吸血鬼姫】なんていい例ですね、編入生はおそらく吸血鬼でしょう。
私が知っている種類では狼人などの獣人種、日曜朝九時ぐらいによくやっている科学戦隊モノの機学種、そして変わり種としての竜や目の前にいる吸血鬼などの幻想種があります。
比率的には、獣人>>機学系統>>>>>>幻想系統といった感じですね。とにかく何が言いたいかというと幻想種は限りなく少数ということです。
ここで重要なのが、彼らは変身だけでは終わらないということです。
そう変身系は変身したものの能力を発動することができるということです。
狼や獅子などであれば体力や筋力を代表とする身体能力が上がったりする程度で済みますが、機学種ならば保持する過剰技術の兵器の使用が可能となります。レーザー、ビームは当たり前、私が知ってる奴なんかだと衛星砲なんて馬鹿げた奴がありましたね。色々危なかったので宇宙の藻屑とかしましたが。
そして、変身系の中でも最もタチが悪いのが幻想種です。それは何故か?理由は彼らは伝説や諸説に書かれている全ての能力を使用することができることです。
メジャーな奴は全て網羅、たまに入っているマイナーな伝説の能力なんか入っていると面倒くさくてしょうがないです。
【死神騎士】とか凄かったですね、壁はすり抜けるどころか銃弾も当たらないし、近くにいたら徐々に生命力を吸われ、鎌はかするだけで相手を即死させる。
まあ、簡単に要約すると一つ一つが独立してもおかしくないぐらい強力な能力が一つの能力に纏まっているということです。故に『複数能力一体型』、わかりやすいですね。
五つとか六つとか普通に持っているくせに、能力の区別的に見ればあくまで一つですから複数能力ペナルティーもなし、チートですよね。
まあ、幻想種の絶対数が少ないのが救いですね。
「ディアボロス・ディスカパネさんですか・・・ちなみにですが、その名前はあなたの親がつけたのですか?」
「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」
「・・・いえ、少し気になっただけですから」
それにしても、ディアボロスですか・・・
まあ、いいでしょう。そんなものは親の趣味というか好みですからね。本人も不満はないようですし、私がいちいち言うことじゃないでしょう。
「それで、貴様は私に何を問う」
「まずは、あなたの能力の詳細ですかね」
正直それぐらいしか聞くこともないですしね。大見得切ったのに、なんかあれですね。
編入生は、いきなり核心を聞かれたせいか呆気に取られていましたが、渋々話し始めました。自分から話さないと、聞きたいことも聞けませんからね。
「・・・能力名は【吸血鬼姫】。能力詳細は、伝承に書かれた吸血鬼への変身だ」
「予想通りですね。変身後の能力詳細は?」
「・・・それを聞いて、貴様は対価を払えるのか?」
「むしろ、あなたが欲しい情報は今の情報で足りると思うのですか?」
逆に問いかけますと、編入生は舌打ちをし、忌々しそうに睨んできました。
編入生の聞きたそうなこともわかってますし、正直間違ったことは言っていないと思うんですがね・・・最近の切れやすい若者ってことですね。
「私も全ては把握していないが、今のところ判明しているのは血を武器にする【血錬武装】に自らを黒い霧に変える【黒霧変異】、傷を高速で再生する【隔絶生命】、ありとあらゆる嘘を破る魔眼【虚偽殺し】・・・何故後ずさる」
思わずドン引きしてしまいました。
・・・チートですね。これはチートです、学園長が怪しまれようとも隠そうとした理由が分かりましたよ。
しかも、今のところ判明しているのがこれですからね。まだまだ新しい能力が増える可能性もありと・・・うわ、これは面倒くさい。学園保安部隊の方々も大変ですね。
後、今のを聞く限り私の正体を見破ったのは最後の【虚偽殺し】みたいですね。確か吸血鬼の瞳は嘘を見破るという伝説があった気がしますが・・・私のステルスも”嘘”として認識されたのが原因でしょう。
とりあえず、能力名は『知った』ので今後見つかることもないでしょうね。編入生が嘘を付いていない限り。
・・・ああ、ちなみに能力名は各自で勝手に決めていいものではありません。学園長側近の能力者の中にいる【称号鑑定】という能力者が鑑定して決定、というか認識しています。
まあ、能力名も簡単に言えば魔法的な感じで言う真名みたいなものですからね、意外と重要なんですよ。
それでも今のところ真名をどうこうする能力は現れていませんから、自分の能力がどんなものかを知るぐらいのものでしかありませんが。
あ、それでも私みたいな能力者には大活躍ですね。
「他には何を聞きたい。今ならなんでも答えてやっていいぞ。もちろん対価は貰うがな」
「がめついですね・・・ごうつくばりはモテませんよ?」
「余計な世話だ。そもそも馴れ合ってくるような奴が来たら消し飛ばす」
筋金入りの人間不信ですね。いやここでは超能力者不信でしょうか?
社会は欺瞞に満ちていると言いますが、全てを疑っていたら今流行りの陰謀論だらけになってしまいますよ?
「そうですね・・・何故、そこまで超能力者を疑っているのかが気になりますね」
別に嫌われるのは慣れっこ、というか存在すら知られることもないのでいいのですが、理由もなくなんとなくは私も嫌です。
どんな結果にも、原因はありますからそれを知っておくのもいいことでしょう。
「・・・いいだろう」
予想外の返答だったのか編入生は意外そうな顔をした後、了承し話を始めました。
□ ■ □
〈side ディア〉
私は、世界にとって生まれた時から異常なものであった。
髪の色は父の美しい金とは違う、闇の黒。
瞳の色も、母の涼しげなアイスブルーとは違う、爬虫類のような金色。
そして、背に生えた蝙蝠のような真っ黒な皮膜のついた翼。
そうその姿はまさに悪魔。聖書に書かれた悪魔のような姿を持って、私はこの世界生まれた。
近所の人は私の姿を気味悪がり、子供たちは悪魔と言って石を投げつけてきた。
そんな私、世界からも、人からも嫌われた悪魔の化身。両親は、そんな私でも暖かく受け入れてくれた。
例え全人類に嫌われようとも、私には両親の愛があればいい。それが、私の小さな唯一の幸せ。
しかし、そんな小さな幸せの生活も、世界は奪っていった。
「初めまして、私の名前は刻々崎刹那。太平洋に浮かぶ超能力者学園の学園長と言えばわかり易いかしら」
黒い服を身にまとった大男たちを従えてやってきたのは、真っ白な髪に真っ白な目をした、人間味のないぐらい美人な女。
軽く自己紹介はしていたが、そんなものは必要ない。
なぜなら彼女のことを知らない人間はこの世界にはいないのだから。
「今日、私がここに来た要件は、勘の良いあなたたちならわかっているでしょう?今ならまだ見逃してあげる、その子を私たちに渡してくれる?」
「セツナ様、超能力者の隠匿及び所有は個人組織問わず極刑です。あなたの勝手な判断で、それを変えることは・・・」
「あら?いつからあなたたちは私たちに意見できるほど偉くなったかしら?」
「しかし・・・」
「どの国家、組織、軍であろうと私には意見できないは。世界を救った英雄に物申すなんて、あなたたちのボスはできないでしょうから。ねえ、偽物さんたち」
そう、この女は第三次世界大戦の終結の英雄。
文字通り、世界を救ったに等しい人物なのだから。
「・・・いつから、私たちが入れ替わっていると?」
「私を舐めないほうがいいわ。後ろから不意をつかれることは散々注意されているからね。それじゃあ、さようなら」
刹那は指をパチンと一回鳴らす。それだけで、刹那の後ろにいた黒服たちはブラックホールのようなものに飲み込まれていった。
おそらく、全員が入れ替わっていることを承知の上で連れてきたんだろう。そしてその目的は、抵抗の果てにある見せしめ。
恐怖に体を震わせていると、それに巻き込まれるように、私の両親も闇に飲み込まれていってしまった。
「これは、あなたに対しての警告。例え両親に許可を得たとしても、能力者自体が暴れることなんてよくあること、これは人質として受け取ってもらっていいわ。あなたが私の提案に乗らない場合、あなたの親は次元の闇に消えてもらうわ」
それは、ひどく冷たい口調であった。
最初は抵抗しようと思った。
超常現象を操る能力者の中でも最強の能力者と言われても、私だってその中の一人。
負けることはないはずだ、そう思った。愚かにも、思ってしまった。
結果、その最強の名は伊達ではなかった。
「どうしたの?そんな遅いナイフなんて届かないわよ」
投げたナイフは空中で止まる。
武器を捨てて拳で殴りかかりに行っても、いつの間にかその姿は消えており、後ろに回り込まれてしまう。
銃は最初から使わない。使えない。
まるで、強力な接着剤でくっつけられてしまったように銃は引き出しから離れなかった。
銃の時間を引き出しごと止めて、空間に固定しているのだ。腕力が人間離れした私であっても、引き剥がすことはできない。
そのあと、おそらく後から派遣されてきたであろう黒服に拘束され、私は学園に連れてこられた。
その心に、能力者への怨嗟の炎を燃やしながら。
〈side out〉
□ ■ □
「つまり、あなたが能力者を憎む訳は、両親に危険な目に合わせた学園長、そして迷惑をかける原因となってしまった自分自身の能力が憎いということですか?」
「ああそうだ」
編入生は忌々しいと顔で表現しながら、舌打ちをする。
なるほど、確かに自分の親を目の前で消されればそりゃ恨まれますよね。私としても、少しばかり共感出来るところがあります。
私のはそんな美談ではないんですけどね。ドロドロじゃありません、さっぱりした黒ですよ。
「良い両親ですね」
「・・・ふんっ!」
照れたようにそっぽを向く編入生。案外可愛いところもあるんですね。
しかし、今の編入生の話を聞くといくらか不審な点があるんですよね・・・後で学園長に聞くとしましょう。
あの人なら、大抵の事情は通じているでしょうし。
「・・・ですが、学園長の言っていることも一応正論。逆恨みは筋違いでは?」
「恨めばいいといったのはあっちだ。それより、今度は私の番だ。嘘を付けば、わかっているよな?」
「そんな意味のないことなどしませんよ。それで、大体予想はついていますが何を聞きたいのですか?」
「簡単なことだ。刻々崎刹那は、どうやったら殺せる?」
まさかの直球。もう少しオブラートに包むということをしたほうがいいのでしょうが、言っても直す気はないでしょうね。
「正解は『不可能』です。あれは能力者であって人間ではありません。一時的に殺すことは可能ですけど、死を与えることは不可能です」
「・・・どういう意味だ」
「時間を止める、時間を加速するなんて基礎中の基礎、序の序の序です。学園長が最強を名乗れるのは、それらを超えた応用力を持っているからです。名称はわかりませんが、常時空間存在理論でしたっけ?
例えで言うと、一秒間に殺せたとしても、次の一秒にも存在しているので直ぐに蘇る、あれは不死身、あなたみたいな不死者は足元にも及ばない不死身なんですよ」
まあ、時間停止コンボをくぐり抜けて学園長に傷を負わせること自体不可能な気もしますけど。
そこまで一気に説明すると、編入生は無言で屋上から出ていこうとしましたので、肩を掴んで引き止めます。
「その手をどけろ役立たず。貴様にもう用はない」
「残念ながら、私にはあるんですよ。今のあなたを放っておくと、必ず面倒なことが起きると私の直感が言っていますので」
具体的に言うと、学園長に突撃して玉砕して、それが終わったあとひたすら学園長のありがたい小言を言われる的な。決して経験則ではありませんよ。
「・・・何の用がある言ってみろ」
「そうですね・・・」
何か編入生を留められるような何かは・・・そうです。
「―――――デートをしましょう」