-解散-
「相澤先輩とのユニットを解散!?…どういうことですか!?」
僕は、マネージャーに食ってかかった。
「…それが…ちょっと事務所同士でいろいろあったらしくて…」
マネージャーは、額に噴きだしてくる汗をハンカチで何度も拭いながら答えた。
「事務所同士でって…。…だって、相澤先輩のところの事務所とうちの事務所は合併するんじゃなかったんですか!?」
「それが…それが…社長同士でもめているらしくて…」
「まさか、どっちが代表になるかとかで、もめているんじゃないでしょうね?」
僕は、皮肉交じりに言った。しかし、マネージャーがぎくりとした表情をしたので、僕は「えっ!?」と声を上げた。
「…そんな子どもみたいなケンカの為に…?」
マネージャーは、黙って下を向いて、汗を拭き続けている。
「…そんな、まさか…。それだけのことで…」
僕はその後の言葉が継げなかった。
*****
僕はその夕方、仕事がなかったので、相澤先輩に電話をしてみた。確か先輩もこの時間は空いていたはずである。
ユニットの解散の話…もう聞いたのだろうか?
…しかし、先輩は電話に出なかった。
「仕事が入ったのかな。」
僕は、メールで「お返事下さい」と送信し、家で待つことにした。
・・・・・
夜、いつの間にか眠っていた僕は、パソコンから鳴る電話のベルで起こされた。
「いけね。パソコンつけたままだった。…メッセンジャー…?」
僕は、メッセンジャーに表示された名前を見て、驚いて電話を取った。
「先輩!!」
パソコンの端の方に先輩の顔が映った。表情が硬い。ユニット解散のことを聞いたのだろう。
「明良…もう先輩はやめろっていっただろ?」
先輩の力のない声がした。
「先輩、そんなことより僕達のユニット…」
「うん…昼に聞いた。…事務所同士のトラブルだってな。」
「はい。」
「俺…実は携帯を取り上げられたんだ。」
「!?…えっ!?」
「お前と連絡をもう取るなってさ。」
「じゃぁ…夕方電話した時、先輩が出なかったのは…」
「うん。明日携帯返すって言ってたけど、君のデータとか全部消されてるだろうね。…パソコンの方は事務所に知られてないから、大丈夫だけどな。」
「家のパソコンまで消しに来るとは思いませんが…念のため知られないようにしないと…」
「うん…。…なぁ明良」
「はい…?」
先輩はしばらく言葉を発しなかった。そして急に先輩の顔が画面から消えた。
「!?先輩!?」
「ごめん。声だけでいいか?今、顔を見られたくないから、カメラ抜いたんだ。」
僕は、ほっとした。誰かに邪魔をされたのかと思ったのだ。
「いいですよ。…なんです?先輩。」
「…俺達、ユニットを解散しても…友達だよな。」
「!?…先輩…。」
「もし、このまま連絡が取れなくなっても…友達だよな。」
「もちろんです。…でも、そんな気弱な事言わないでください!…先輩らしくないですよ!」
何か、嗚咽のような声が聞こえた。…先輩が泣くなんて…初めてだった。
「…頼むから…敬語もやめてくれって…」
「…ごめんなさい…。」
「…初めて…心から信じられる奴にやっと出会えたのに…こんなことで、解散だなんて…」
「先輩…だから解散しても、僕達はずっと親友同士です。連絡が取れなくなるのだって、しばらくの間だけですよ。お願いです。泣かないで下さい。」
「…うん…」
その時、何かガサガサという音がして、カメラの画面が映った。
「先輩…!!百合さん!」
画面に映ったのは、机に伏せている先輩の姿と百合さんの顔だった。
「お久しぶり、明良君。」
「はい!百合さんも…。」
百合さんは、机に伏せている先輩の頭をいきなりぱしっと叩いた。
「!…」
「こんなことで、へこんでどうすんのよ!…あんたらしくないわね!」
百合さんのその言葉に、先輩は机に伏せったまま、何かを言っている。
「ごめんね、明良君。…この子ね、こう見えて幼いころから人づきあいが下手でね。」
「!?…そんなことは…」
「今まで、友達らしい友達作れなかったの。事務所でもいつもむすっとしているから、女の子からも同僚からもあまり話してもらえなかったみたい。」
「…そうだったんですか…」
「そうそう…あの由希さんの事件があった時ね。怪我したあなたを励が送って行って、由希さんを私が送って行ったでしょう?で、家に帰ったら、励の方が先に帰ってきててね。私が玄関に入った途端、この子いきなりなんて言ったと思う?」
「?…」
僕はわからないというように首を振った。
「…「北条明良と連絡先を交換できたんだよ!あの北条明良とだよ!」だって…。私も隠れファンだったけど、この子はこの子で、あなたを評価していたのね。」
百合さんはそこまで言って、机に伏せたままの先輩の頭を撫でた。
「…先輩…」
僕は、胸に熱いものが広がるのを感じた。あの時の先輩は僕よりも冷静に対処してくれた。たぶん、あの時先輩と出会ってなければ、僕は未だに歌えていないかもしれない。
「あらいやだ…」
百合さんの声に、僕は思わず画面を見た。
「寝ちゃってるわ。…安心したのかもね。…この子ちょっと睡眠障害持ってるものだから…ごめんなさいね。」
僕は笑って首を振った。そして「そのまま寝かせてやって下さい。」と言い、明日また、必ず連絡することを百合さんと約束して、電話を切った。
*******
「…合併の話は決裂したよ。」
翌朝、事務所の会議室で疲れ切った様子のマネージャーが僕に言った。
「…そうですか…」
昨日は食ってかかったが、どうしようもないことはわかっていた。
「もう相澤君とは連絡を取るなとのことだ。」
その言葉を聞いた途端、僕は頭に血が昇るのを感じた。
「…そんなこと…強制される憶えはありません!!」
「…明良君…」
「先輩は、僕の恩人なんです!…声が出なくなった時、先輩が助けてくれなければ僕はいまも歌えていないかもしれない…。仕事を一緒にするなというのは、我慢します。でも、連絡を取るなとか、プライベートなことまで強制するのはおかしいと思います!」
「…わかってるよ…僕だって…わかってるけど…」
僕はそのマネージャーの小さな声ではっとした。
「…ごめんなさい…こんなこと、マネージャーに言ったって…仕方がないですよね。…マネージャーだって辛いのに…」
「…いや…ごめんよ。何も役に立てなくて…」
「マネージャー…」
マネージャーは肩を落として、会議室を出て行った。
…そう、今日も僕は仕事がない。
先輩とのユニットでの仕事以外でも1人で活動はしているが、このところ、歌番組にも呼ばれることもなかった。…それは何故か自分でもわかっている。
新曲ができないのだ。
僕自身で作れればいいのだが…残念ながら、僕にはそんなセンスがなかった。楽器も弾けないし、楽譜も書けない。詩だって作れない。
先輩とのユニットでは、先輩の事務所の人が曲を書いてくれていた。そして僕の事務所はそれに甘えて何もしなかった。…事務所同士の合併が決裂したのには、そんな理由もあるのだろう。
僕はため息をついた。
……
家に帰ってから、テレビをつけた。
すると、相澤先輩とのユニットが解散したことをワイドショーが告げているところだった。
「どうも、事務所同士と言うより、社長同士の意地の張り合いが原因のようですね。」
「あのユニットは、私、とても好きだったのに…」
「僕も、元々仲が悪いと言われていた2人が一緒に歌っているところを初めて見た時は、感動したものですけどね。」
「新曲も出ていませんでしたものね…特に、北条さんの方…。」
僕は、テレビを消した。
ふと、先輩の涙声が蘇った。
『…俺達、ユニットを解散しても…友達だよな。』
『この子はこの子で、あなたを評価していたのね。』
「先輩…」
思い出して胸が熱くなった。
『焦らなくていい。1カ月で駄目だったら、また1カ月延ばせばいいんだから。』
復活準備の時に、どうしても声が出ない僕に、先輩がかけてくれた言葉…。
「…そうだ…1カ月で駄目だったら、また1カ月延ばせばいい…!」
僕はパソコンの電源をつけた。
メッセンジャーを開き、オンラインになっているのを確認して、先輩に電話をかけてみた。
電話が取られ、カメラの画面がついた。
「先輩!」
「明良…よかった…オフラインだったから…」
「先輩…いや、励!!今度は僕が先輩ぃぃじゃなくて、励を助けて見せる!いや、励を助けると言うより僕達を助けるんだ。」
「…明良…?」
「事務所がなんと言おうと、ユニットを続けよう!」
「!?…でも…」
「1カ月で駄目だったら、また1カ月延ばせばいいんだよ!先輩ぃぃじゃなかった、励が僕に言ったじゃないか!」
先輩の顔が、泣き笑いのようになった。
「…何か思いついたのか?」
「うん。でもかなり無理があるし、成功するかどうかはわからないけど…でも、やるしかないと思う。」
「わかった…。お前にかけてみる。」
「ただ、協力者が必要なんだけど…」
「うん?」
「僕と同じような背恰好で踊れる人っていないかな…?」
「明良と同じ背恰好で踊れる?」
先輩がそう言って、ふと考える風を見せた時、後から百合さんがひょいと顔を出した。
「私はどお?」
「!?」
「姉貴!」
励もびっくりした様子を見せたが「そうか!」と言った。
「姉貴がちょうどいい。歌は最悪だけど…」
そこで先輩は百合さんにばしっと頭を叩かれた。
先輩は叩かれたところをさすりながら言った。
「最後まで聞いてから叩けよ!…歌は最悪だけど、ダンサーとしては俺より上だ。」
百合さんが「任せて」というように、親指を立てて見せた。
「なんとなく、明良のやりたい事がわかったよ。よし、打合せだ。」
「はい!」
元気になった先輩の顔を見て、僕は気分が高揚するのを抑えられなかった。
……
1ヶ月後--
僕はテレビ局にいた。
夜にある、生放送の音楽番組のリハーサル中である。
しかし、僕は出演者には入っていない。それでも、僕は楽屋に、ある人の付き人に化けて入っていた。
やっとこの日が来た。
…今日までいろいろあった。先輩が僕のことをけなしていると雑誌に書かれたり、僕がアメリカへ留学するとか言われたり…。しかしそれは誰かが捏造した記事だということは僕たちにはわかっていた。
そうやって僕と先輩を離れさせようとしているらしい。そんなことをするのは、お互いの事務所の誰かだ。これについてはマネージャーも怒っていたが、僕たちが相手にしないので、そのうちに何も言われなくなった。
しかし僕たちは相手にしていなくても、雑誌の読者や一般には信じる人もいる。そのうち僕たちはまた元通り仲が悪くなって、ユニットは完全に解散されたものと見られていた…。
・・・・・
楽屋にはテレビがあり、スタジオのリハーサルの様子が映し出されていた。
「…先輩だ…」
僕は思わず呟いていた。先輩がセットの上で新曲を歌っている。その下の中央でトップダンサーとして踊っているのは、百合さんだ。
百合さんはダンサーが足りない時、時々こうやってこっそり弟を助けていたそうである。ダンサーを雇うにもお金がかかるからだ。
百合さんの踊る姿を見て、僕の手足が勝手に動き出すのがわかった。
(うまく行くかなぁ…)
そう思いながら、百合さんの優雅な踊りに見入っていた。
(本当だ…。すごくうまい…。綺麗だなぁ…。)
百合さんは、若い時に宝塚歌劇団に所属していた。しかし自分の才能の限界を感じて、入団5年目の試験(というのがあるらしい)の直前に辞めたのだそうだ。
(どおりでダンスが優雅なはずだ…もったいないなぁ…)
僕は百合さんの踊りに見惚れていた。
*****
音楽番組の本番。僕はスタジオの端、下手側でダンサー達とスタンバイしていた。しかし山高帽を深めにかぶり、誰も僕とは気づいていない…はず…。皆、僕を百合さんだと思っている…はず…だと…思いたい。
先輩は一番最後に歌う。今日にしたのは、それが狙いだった。
ADがそっと近づいてきて「スタンバイお願いします。」と僕達にささやいた。
******
先輩が司会者に呼ばれた。楽しそうに話しているが、僕には先輩がかなり緊張しているように見えた。だが誰も気づいていないようである。気づいていても、新曲発表の為に緊張していると思うだろう。
「では、スタンバイも整ったようです。新曲頑張ってください。」
司会者に微笑んでうなずくと、相澤先輩は僕の前を通って、階段を上り、台の上に上がった。僕はその台の下、それも先輩の真下で、帽子を顔の前にかざしカメラ側に背中を向けて、ダンサー達と一緒にポーズを取って待っていた。この振付も百合さんがしたものだ。
こっそり交代した百合さんは、僕が見ていた楽屋のテレビでこの様子を見ているだろう。
イントロが鳴り始めた。
帽子はまだ顔の前にかざしたまま、振り返らずに足だけで踊る。先輩が歌いだす直前、僕は1回転半ターンをしてカメラ側に向き、さっと帽子を顔からはずして投げた。
「!?」
僕達の斜め前でステージを見ていた歌手達がどよめいたのがわかった。その向かいにある客席からも悲鳴のような声が響いた。
カメラを構えているスタッフがかなりとまどっている。先輩はリハーサルの時、自分の前にいるトップダンサーをできるだけ映してほしいと頼んでいたのだ。
(もしかすると、中断されるかもしれない。)
そう思ったが、音楽は切れなかった。先輩の伸びのいい声が響いている。僕は振り返るたびに、先輩と目配せしながら踊った。
そして間奏のところでは、僕と先輩は全く同じ振り付けで上下に分かれたまま踊った。練習ではメッセンジャー越しだったので、どうしても細かい時間差があってうまく行かなかったが、今はぴったり合っているのを背中で感じていた。…いや、先輩が僕に合わせてくれているのかもしれない…
******
曲が終わった。僕が最後のポーズを解いて息を切らしながら振り返ると、いつの間にか階段を駆け下りていた先輩が僕に抱きついてきた。
「…やっぱり…お前と一緒に歌いたい…」
先輩が泣きながら、僕の肩の上で言った。
「先輩…。…僕もです。」
番組はCMに入っているが、拍手が鳴りやまないのに気づいた。
僕達は体を離した。歌手達が立ちあがって、僕達を迎え入れてくれた。
「もうすぐCMが終わります!」
そのADの声に、司会者が僕達を手招きした。
「プロデューサーが、何か言いたい事があったら、言っていいって。」
僕達はびっくりしたが、プロデューサーの厚意に甘えることにした。
お互い顔を見合わせてうなずいた。打合せなどしなくても言いたい事はわかっている。
ADからキューが出た。
「さて、今日素敵なサプライズを見せてくれたお2人から一言どうぞ!」
僕達は司会者が向けてくれたマイクに向かって言った。
「これからもユニット続けます!よろしくお願いします!」
そう言って、2人で頭を下げた。拍手は番組が終わるまで鳴りやまなかった。
******
事務所に帰ると、マネージャーだけが独り、ロビーの椅子ににこにこと笑って座っていた。
「おかえり、明良君。」
「…マネージャー…」
僕はその後の言葉が継げなかった。僕のせいで、きっとマネージャーも罰を受けるに違いない。もしかするとクビもありえるのだ。僕自身はそれも覚悟で先輩と踊った。…だけど、マネージャーには責任がないことである。
「あのね。これからのことなんだけど…。」
「…はい…」
「相澤君とのユニットのことね…」
「?」
下を向いていた僕は、顔を上げてマネージャーを見た。
「社長が君たちが出た番組をたまたま家で見ててね。…泣きながら、僕に電話をかけてきたんだ。…明良君達に謝っておいて欲しいって。」
「社長が…!」
「君たちの方がずっと大人だって言ってたよ。」
「じゃぁ…事務所は?」
「合併はないけど、ユニットは続行だそうだ。向こうの社長さんとも和解したそうだよ。」
僕は気が抜けて、思わず傍にあった椅子に座りこんだ。
「…良かった…。」
先輩も今頃、同じように事務所で話を聞いているだろう。…そう思った時、携帯が鳴った。
「あ、すいません。マネージャー」
僕はあわてて椅子から立ちあがって、携帯を開いてみた。
『相澤先輩』
その文字が画面に出ているのを見たとたん、急に涙で目の前が揺らいだ。
「…先輩!」
「明良…先輩はやめろって。」
「やっぱり…無理です…。」
僕が泣き声でそう言うと、先輩の笑い声が帰ってきた。
……
翌週-
「先週は素敵なサプライズをありがとうございました。」
音楽番組の司会者が、ユニットとして出演している僕たちに言った。
「こちらこそありがとうございました。」
先輩が言った。僕も「ありがとうございました。」と頭を下げた。
「あれから、いろいろな事書かれてたけど、本当に事務所にも内緒でやったの?」
「そうです。」
僕たちは異口同音に答えた。そしてびっくりして顔を見合わせた。
「本当に息ぴったりだもんなぁ…。先週の間奏のところで一緒に踊っているところを見た時は、鳥肌立っちゃったくらい。」
「僕も踊りながら、立ちましたよ。」
先輩が言った。僕も隣でうなずいた。
「最後、抱き合ってたけど…抱き合うの好きだよね。」
司会者がそう言って笑った。
「好きですねぇ。」
先輩がそう答えた。そしてわざわざ「大好き」と付け加えた。司会者が笑って「大好きなんだ。」と言った。
「明良君は?」
そう聞かれ、僕は笑って「僕も大好きです。」と答えた。また司会者が笑った。
「抱き合って何か言ってたけど、なんて言ってたの?」
先輩はふと僕の顔を見た。覚えているが何か照れくさいようだ。
「何て言ったんだっけ?俺…」
僕は苦笑して、
「これからも一緒に歌いたい…的な事を…」
と言った。司会者が「おー」と感心したように言った。
「で、明良君は?なんて?」
「僕もです…的な。」
「いいねぇ…」
司会者がそう言うと、僕たちは思わず照れくささに下を向いた。
「今日も終わってから抱き合う?」
司会者が笑いながらそう言うと、先輩が「抱き合った方がいいですか?」と尋ね返していた。僕は思わず苦笑した。
「抱き合ってほしいなぁ。」
司会者がそう答えた。先輩は「じゃぁ、そうします。」と言い、僕は「えー?」と言った。
「嫌なの?」
先輩がそう僕に言った。僕は「いえ…嫌じゃないです。やらせていただきます。」と答えると、司会者が大笑いしてから話を変えた。
「解散の話があってから、1カ月くらい経ってたじゃない。あの時にこっそり2人で稽古したの?」
「2人でって言うか…お互いの家でバラバラに練習して、あれ、ほとんどぶっつけ本番だったよな。」
先輩がまた僕を見て言った。僕はうなずいだ。
「ぶっつけ本番だったんだ!それであれだったんだ。すごいねぇ。」
僕たちはまた照れくささに下を向いた。
「視聴者からもう1度見たいという要望もあって、今日も先週と同じ曲でお願いしたけど、元々あれは相澤君の新曲なんだよね。」
「そうです。」
先輩が答えた。
「今回は2人とも歌うから、振付も変えました。」
「全く同じでも良かったんですけど、先輩に…お前も歌えって言われて。」
「そう…無理やり歌わせることにしました。」
先輩がそう言うと、司会者が笑いながら言った。
「やっぱり一緒に歌いたい?」
「歌いたいですねぇ。いろんな意味で。」
先輩がそう言うと、司会者が「いろんな意味でってどんな意味かわからないけど。」と言って笑った。僕たちも笑った。
「元々、サプライズを思いついたのはどっち?」
その司会者の質問に、先輩が僕を指差した。そして僕は手を上げた。
「明良君なんだ。…意外だなぁ…」
「サプライズは明良がすごく頑張ってくれて…逆に僕はユニット解散って言われた時点で、落ち込んでしまったというか…。」
「へぇ~?」
「今思えば、すごくはずかしいんですけど、僕が明良に泣きながら電話して「俺達、解散しても友達だよな?」っとかって、なんか青春ものみたいなことを言ったんですよ。」
「相澤君が泣きながら?」
司会者が笑いながらもそう驚くと、先輩が
「もう、えづきながら…」
と言った。司会者が再び笑った。僕は思わず「そこまでじゃない。」と言った。
「そこまでじゃなかった?」
先輩が笑いながら、僕に向いた。
「そこまでじゃなかったよ。」
僕も笑いながら答えた。
「相澤君のお姉さんが、振付したんだってね。で、サプライズのリハーサルの時はお姉さんが踊ってたんだよね。」
「そうです。元タカラヅカの男役なんで背があったし、こっそり交代しても明良とわからないだろうってことで。」
司会者はその先輩の言葉に、また驚いた表情をした。
「元タカラヅカなんだ!」
「名は売れませんでしたけどね。」
「そうだったんだ。確かに美人だもんねぇ、お姉さん。」
「ありがとうございます。今頃テレビの前で、喜びのダンスを踊っていると思います。」
先輩がそう言うと、皆が笑った。
「まだまだ話を聞きたいところだけど、準備が出来たみたいなんで、スタンバイお願いします。」
司会者がADからのサインを見て言った。
「はい。よろしくお願いします!」
2人でそう言って頭を下げ、準備された装置のところまで行った。そう…先週は僕は影の存在だった。でも今日は先輩と同じように歌って踊れる。そう思うと武者震いのようなものが体を走った。
曲も先週とはアレンジが変わっていた。最初はイントロで始まっていたが、いきなり先輩と僕が同時にサビのワンフレーズをハモって歌いだし、イントロが始まるようになっていた。
これが一番の難関だった。僕はメロディーを歌う先輩につられない様にしないといけない。先輩は僕にメロディーを歌わせようとしてくれたが僕が遠慮した。この曲は先輩の曲だ。僕は補助として役目を果たせたらいい。
立ち位置は先週と同じ。出だしの合図は先輩が指を2回ならしてからとなっている。
「いいか?明良。」
先輩がマイクをはずして、後ろから僕にこっそり言った。僕は背中に回した手でOKのサインを出した。
先輩の指がゆっくり2回鳴った。
同時に歌いだせた。そしてハモリもきっちり決まった。…と思う。イントロに入った時、拍手があった。今回は顔を隠さずに踊れる。それがうれしかった。
歌はハモったり、パートに別れて歌ったりと変えてくれていた。僕が独りで歌うところでは、嬉しさに涙が出そうになった。そして1つだけ変わらなかったところは、間奏のダンスだった。ただ上下ではなく、僕が上へ上がって先輩と並んで全く同じ振りを踊る。時々顔を見合わせて照れながら踊った。間奏が終わった時も拍手があった。僕は再び下へ降りて、先輩が最後のパートを歌っているのを聞きながら踊った。そして最後のワンフレーズだけ僕も一緒に歌い、最後のポーズを取った。
先輩が階段を駆け降りる音がした。僕は笑いながら振り返って、お互い抱き合った。
笑い声と拍手が同時に起こった。先輩は悪乗りして、なかなか僕を離してくれなかった。
(終)